炊き出し
私達は敵を見落としていたわけじゃなかった。
だが、車にしがみついてきている何かが居た。
それは人だった。
「振り落とせないけど、引きずり上げられない。上げたらここじゃ他の人が入ってくるかもしれないから」
停車することも出来ず、アルはゆっくり、なるたけゆっくり進むのだった。
目的地である街に付くと、そこには人っ子一人居やしなかった。
街の中は閑散としている。
どういう事かと畑がある土地を知っていると言われ、向かえば、そこにはチラホラと人が居て――
ようやく待ち人発見だと、アルは車から声を掛けることにした。
また外に出て襲われてはかなわないからである。
車の外装に取りついていた人物も下りて話を聞こうとしているのか、扉を叩いて話がしたいんだと言う。
「アース教師、まずは話しをしましょう。先ほどの者達の一人ですから、もしかしたら先ほどの者達全てを助けられるやもしれませんから」
「ああ、そうだね!」
クレアにこう言われ希望を持ったらしいアースは、声を掛けることに。
「私たちは食料を届けに来たんだ!だから、君たちの生き残ってる数を教えてくれないか!食料も水も余るほどある!」
「水を、まず水をくれないか」
「さっきは悪かった、あいつ等にも水と食料をくれないか!」
「ああ、だが、外に出て食料を渡すから、皆襲ってこないで欲しい。さっき襲ってきた者達が居たが食料を配っているんだ、炊き出しを今から行うから人を集めて欲しい。いいか?」
「さっきのモノだが、俺達はもうここまで歩けるだけの体力がない、だからもう一度あっちに行ってほしいんだ」
「分かってる。だから襲わないで欲しい」
扉の鍵を閉めているから開かないが、開けた途端に入って襲って来やしないかと考えてしまう。
一度襲われたからもあるだろうが、恐怖が頭の中にびっしりと根付いてしまっているのだ。
だが先ほどの車体に張り付いてきていた者が曰く、襲うつもりはきっとなかったはずだと言う。
たぶん食料を恵んでくれと言いたくて言った奴も大勢いたはずだ。
中には襲ってでも食料を奪い取ろうとしていたかもしれないがと言う。
その一部の所為で食料を奪うが命を奪うになりかねないから困るのだ。
「いいです、先に柔らかなパンとワインを渡しますから、それでまずは空腹をしのいで貰っている間に、鍋にパンがゆを作りましょう。それしかないです」
「ああ、皆飢餓状態でおかしくなってるんですよ。ああはいってますが、武器を持ってますから何されるか分かりませんからね」
そう言って、アース達が護衛兵と共に大量のパンをアルから譲り受け、渡しにいくと、それを皆奪うようにして取るのだ。
「これだけじゃ足りない!!」
「分かってます。ですから落ち着いて」
皆目が血走っているが、久々の食料だと嬉しそうだ。
ワインを浴びるほど飲んで、驚く。
樽で持ってきたのだが、カップに入れて大量に飲んでいいと言われて皆嬉しそうだが、こんなに上等な酒いいのかと疑る様子を見せたのだ。
「私はこの領地の隣の領地の出身だ。食料物資が不足していると聞いて、はるばる食料を運びに来たのだ。だから信じて欲しい、何もないと」
「そうです、信じて欲しい。この場におわすアル様は、神の使徒。パンとワインは彼が齎してくれたものです。上等なワインを出す事等彼には造作もない事なのです」
ええー、そう言う紹介方法になる?と思うが致し方ない。
畏敬の念を抱かせて静かにさせようと言う魂胆だろう。
仕方ないと、アルは声を張り上げた。
「私は神と話すことの出来る神の使徒を名乗らせていただいています。食料は山ほど持ってきました、ですから信じて欲しい。ゆっくりと噛んで、喉に詰まらせてはいけませんから」
「うっく………あり、が、とう」
喉につっかえ乍ら無理矢理パンを押し込みながら感謝を述べる者達の顔は、どれもこれも先ほどまでは絶望一色だったが、今は涙で情けないと自身の行動を悔やんでいるようだった。
「悪かった、謝る。奪おうとしていたと言うか、俺等もうだめだと思って………それで」
「いいんです。これからパンがゆを作りますから待ってくださいね」
大きな鍋に柔らかなパンを沢山突っ込んでいくと、そこに野菜とひき肉を山ほど投入する。
そして牛乳で煮て行くとパンがゆになるが、ここでシチューの元を入れて味に深みを出すことにした。
飲み物はワインだ。
水でもいいだろうが、兎に角大量に出してやらなければならない。
給水所のように、大きな給水タンクを用意してやると、そこに水、レモン、氷を入れてキンキンに冷えた水を用意してやる。
それを四つ五つと用意している間に、シチューのパンがゆが出来た。
硬いパンでも良かったのだが、あいにくと持ち合わせがない。
普段から硬いパンをアルが食べないから仕方なかった。
「パンがゆ美味しい、ナニコレ、美味しいよおお」
「うっううっ」
「おっ、あぐ、もっ、うめえ!」
「うめえ!!うめえよお!」
今度は腹が段々とくちくなってきたのだろうが、硬いパンが食べたいと言われたので、硬いパンを出してやりたいがあいにくと本当にないのである。
そう告げると、聖域で貰ってくるかとノールが言う。
そうだねと言ってアルはバスの中に扉を作るのだった。
ノール一人があちらにいくと、硬いパンをちょうど焼いてた村の住人から、硬いパンを貰えたので、5つほど貰ってくることにした様子。
ナイフでこれを切り分けて渡していくと、皆懐かしいと顔をほころばせるのだった。
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