荒涼とした大地

 アル達はバスでルパース街道を進んでいた。

 途中で馬車を見ることも無いが、途中途中で荒涼とした土地がチラホラ見えるようになると、皆、鬱屈とした表情になっていく。

 各々が餓死者が出るほどの飢饉を体験したことが無かったからか、これはとんでもない状況であると否応なしに気が付かされたのだ。

 いや、事実、聞かされて知ってはいた。

 けれど人づてに手紙で状況を知るのと、実物を目の当たりにするのは雲泥の差であったのだ。


 痩せた大地はひび割れており、大きく地面に線が走っている。

 これを皆どんな思いで見ているのだろう。


「――なるべく、途中途中で街に寄っていきたいですね。ですけれど、これ、本当に水も無いんじゃないですか?」


 大地の地割れを見てしまえば、そう言う事だろうと否応なしに気が付いた。

 水も涸れ果て、更には植物が育たぬほどの日照不足だったらしい。

 そう聞いていたが、予想以上にひどすぎた。


「酷いものだな………」


「ノール父様、野犬すら出てきませんね」


「ああ、本当だな」


「アース、ここら辺って、湖あったろ、どうなってる?」


「ここらから見えたはずなんだが………一向に見えないな」


「ケント、どうだ?」


「こっち側にも川があったはずなのに何も見えないよ」


 水不足ならば、恐らく水場に人が居るはずだ。

 湖への道がここら辺にあると言われ、アルは左に脇道があるのを発見したため、左にハンドルを切った。

 すると数分も進まないうちに、妙な空間が広がるのが見えたのだ。


「何、これ」


「なんだあ………」


「これは、アル様、これはもしや………湖が枯れたのではないでしょうか?」


「そのもしやだろうね………」


 湖が枯れたらしく、そこには何もなかった。

 えぐれた大地がむき出しになってあり、魚がミイラ化してところどころ落ちているように見える。

 それが矢鱈と薄ら寒く――そして恐ろしかった。

 それが手前からぽつぽつと続いている中、奥には水がまだ残っていて、そこに天幕が張られているようだった。

 つまり、誰かがここに居るのだ。

 一人ではなく、複数いると思った方がいい。


「どう、しますか?」


 クロアが言うと、アルは危険ではないでしょうかと返した。


「何故危険と?」


「今これはかなり頑丈な建物の中に居る状態にしましたよね?」


「ああ」


「けれど、それを出て飢えた人の前に行く。怪我をさせられ物資を奪われる位するかと思うんですけど」


「そんな馬鹿な。飢えた獣のような所業、わが国民がするはずが、」


「今は非常時です。それもあるかもしれませんと言っています」


 若干の嫌な予感がするのだ。

 だから止めているのだけれど、彼らは母国と言うことも有り、何とかしたいらしい。

 だが港町はまだ裕福な方だった。

 塩もあり、魚も採れるからだろう。

 だが、それもないでこんな風に魚も死んでいるなら、恐らく――


 ノールも同じことを言って止めると、ならいいよ俺等が行くと言って、ケントとクロアは行ってしまうのだった。

 勿論護衛兵はついて行ったが、彼らも危険だと考えているようだった。


 何だか物騒なところだなと、ノールとクレアは言うと、アルにいつでも出られるようにしておいてと言う。


「何か、居ますか?」


「何か囲まれてないか?」


 ノールは鑑定を使って周囲の状況を知ろうと努めたのだろう、周囲に人が沢山いることが分かったらしく、警戒を怠るなという。

 何だって、思わずアルは先行している彼らを止めようと声を上げようとするが、クレアとノールに刺激するなと口をふさがれてしまった。


「アル、今、刺激をするな。分かったな?」


「……っ」


「今大声を上げれば、本当は攻撃する意思も無かったのに彼らは攻撃をしなければならなくなります。それは本意ではないでしょう?」


 敵は恐らく一般市民だ、殺したくはないだろうと言われて頷けば、口に当てられていた手を外された。

 けれどそれも空しく盗賊とかした一般市民であろう人間が、ケントとクロアに襲い掛かったのだ。

 仕方ないのでアル達も窓を開けてそこから炎を呼び出す魔術を行使した。

 火を人間は本能的に恐れるため、恐怖を与えて逃げるだけなら炎を呼び出すだけで十分なのだ。

 ボウボウと炎の龍を呼び出し、ケント達の周囲を火で薙いでいく。

 すると案の定火を恐れて飛び出してきた者達が逃げていく。

 それを見てケントたちが脱兎の勢いで引き返してきた。

 とんでもない恐怖だったのだろう、顔が引きつっている。


「なんだあいつ等!?」


「何であんな……」


「いいから!逃げるよ!!」


 ブロロロン、ブロロロロロロ………


 アルとノールに席に押し込められると元来た道に返していった。

 炎が森を焼いて彼らは益々孤立することだろうが、襲ってくるのだ知ったことではない。

 だが――アースは言うのだ。


「助けられなかった」


 そう言って彼は涙したのだった。



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