閑話23トゥエリと男爵

≪トゥエリ目線≫


 あたしトゥエリ、11歳。

 何でかここのところエリミヤ母さんを見かけなくなった。

 どうしてって思って、男爵に訊ねてみたら、お前の妹か弟が生まれるからだという。


 何で?


 だって男爵はおかしいよ。

 だってノール父さんが居ないなら生まれるわけないもの。

 そう言ったらゲラゲラとあたしを馬鹿にするように嘲うのだ。

 御前に母さんはもう必要ないだろうと言う。

 危険だからお前は外で暮らせと言われて、男爵家を追い出された。


 どういう事?


 何で?


 扉を身体強化で割ろうとしたら、手が何かに弾かれた。

 危険な子供めと言われたけれど、中に入れてほしいあたしは兎に角抵抗を試みたんだ。

 扉を殴って蹴って、でも開かない。

 母さんの名を何度も呼んで叫びまくった。

 出ていくなら母さんを寄越せ、あんたのお気に入りだろ!!出せよと叫ぶ。

 絶対にエリミヤ母さんを巻き込んでやる、絶対だと叫び散らすと、醜悪な化け物めと言われる。


 しゅうあくってなに?


 化け物?あたしが?


 ナニソレと聞いて見れば、小ばかにするようにお前のことだと言われる。

 すると喉が焼けつくような痛みを覚えた。


 何?


「いだぁあいぃ、なにぃこでぇえ」


 あたしは声が出なくなっていることに気が付いた。

 どういう事だとますます扉を叩く力を上げていくと、今度は何だ――衛兵を呼ばれたらしい。

 あたしは街の外に引きずって連れて行かれたのだった。


 喉を焼かれたと気がついたのは、それから随分と経ってからだった。

 井戸から水を借りたいと水を一杯恵んで貰ったら、そこで水かがみに映ったあたし自身を見て喉に焼き印が入ってることに気が付いた。

 これは、アルにあの日あたしが付けてやろうと思っていた、呪印だ。

 これを付けられると、その部位が二度と動かせなくなると言う代物だった。

 くそっ、男爵があたしにこれを付けたんだ。

 くそくそくそっ

 あたしが何したって言うの?

 あたし何も悪い事していないのに!!


「――そうだぁ、げげげ、げげ、げ」


 伯爵領に戻ればいい、戻ればノールがいる。

 男爵に追い出されたって言えば戻れるはずだ。

 学校も面倒くさいことばかり言ってきてくれて、学ぶことが億劫だったし、どうせだからまたあたしを信奉してくるような家庭教師を雇ってもらえばいいのよ。

 アルを追い出して、自分が伯爵家の跡取りになる。


 いいえ、そもそもあそこは新しい子が生まれたかもしれないんだわ。

 そうね、そうよ!

 それも追い出して――何なら殺してしまえばいい。




 あたしにはそれが許されてるんだから。


 あたしは特別何だもの。





≪男爵目線≫


 私はジャミール男爵である。

 法衣貴族であるが、問題は仕事が無いことである。

 貴族年金だけで暮らせるべくもなく、伯爵に金の無心をしていたのである。


 だが、そうも言っていられなくなった。

 今までは伯爵家が金を無心すれば出してくれたので、何とかなっていたのだが、どうやら闇稼業がばれてしまったらしく、中のおなごたちを返さねば、決して支払いをせぬという。

 だが、あれは私の稼業である。

 人を攫ってきて脅迫し、仕事をさせる――たったこれだけで闇で売り払える物資がたんと貯まるのである。

 見目がいい女は私自ら閨によび抱いてやるが、反応が悪くなったものは全て魔術の実験体としている。

 若さを取り戻す魔術、試薬、それを作り組み立てるまでは――そう言われている。


 囲った女の数が多いと大変よのう。

 だが、女の数分働けば良いこともある。

 トゥエリだ。

 トゥエリは見目の良い子供だった。

 育てば13くらいで食えると思った。


 だが、先日あのガキは、私に呪印をかけようとしたのだ。

 今まで使用人が腕や足を引きずっていると思ったが、どうやらトゥエリがやっていると分かった。

 その為話をしていて埒が明かないと、私はトゥエリを追い出したのだ。

 すると我が邸をあの者は攻撃してくるのである。

 何たることか!!!


 これまで育ててやった恩を仇で帰すのだ、目にもの見せてくれようと、奴がかけようとした呪印を喉輪にかけてやる。

 すると呪文が唱えられなくなったらしく、魔術の行使が上手く行かぬようだった。


 だが今度は諦めずに扉に攻撃を仕掛け続けるのだ。

 扉を叩きつけ、殴る蹴ると大暴れ。

 是には私も参ってしまった。


 そのため王都の衛兵を呼びに行かせ、トゥエリを街から追い出して貰った。

 ああこれでもう安心だ。

 エリミヤ、アイツで我慢しよう。

 トゥエリのようなイカレた子供等不要であると、その腹を持って知らしめて欲しい。

 新しい女を生んでくれ。

 そしてその女を抱かせてくれないか。

 そう言ったら涙を流してエリミヤは喜んでと言ってくれたよ。

 そんなに嬉しいか。


 だが、腹の子供が生まれたらお前は用済みだよと言ったら、泣いて喚いて縋りついてくるのだ。


 ああ、愉快だ。

 これ以上の無いほどの愉悦を感じるよエリミヤ。

 弱者をいたぶるのはとても楽しい。



 そうだろう?




*****


極論どっちもどっち

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