フローラの恐怖
ルーレック島に向かうために、沖まで出るように動くアル。
一艘の船はもう十分な練度を積んでいるように見えるが、もう一艘の船はそうでもない。
あっちへうろうろ、こっちへうろうろとしている。
どうしたのか。
「フローラ。今度の海にはついていけませんよ。私とアース先生達がいるからいけるんです。フローラは公国の嫡女です。つまり、女王になられるのです。分かりますか?」
「いいえいいえ、王配はアル様ですわ!!ですからアル様を失ってもいけないのです!ですから私が守って差し上げますわ!です………のにっ、何で真っ直ぐ進まないのですか?」
「ハンドルかなあ?と騎士たちも言ってませんか?」
ブロロロ、エンジン音をさせてフローラの船舶に近づけると、アルは静止するように告げる。
「わたしじゃなければいけないから行くんですよ、フローラ。ですからフローラは我慢をしてください」
「………だって、ずるいですわ。アル様ばかり、クレアのこともそうですが、アース様たちのこともそうです。全然ゆっくりしたいのにって言ってるだけで、アル様が一番お忙しそうです」
「それは本当にね。ゆっくりのんびりしたいんですけどね」
「私、決めたんです」
「なにをですか?」
「アル様を王配にしたら楽させて差し上げたいと」
「今より余程忙しいような予感しかしませんが、」
「ですから!」
「…………」
何だろう?押が強いと言うか、無駄に声を張り上げるのだが――
アース達も困った様子で見ているが、今度はフローラが涙を流し始めたではないか。
「わああああああああああああああああああああ!帰りましょう、帰りましょう!そして今日はお話を沢山聞きますから、帰りましょう!!」
「うっ、うぅっ、置いて行かないでくだしゃいましぇ」
「泣かないでください、フローラ」
ぐしぐしと顔を拭ってでも何とか泣いてないと訴えるフローラ。
そんなフローラには悪いがおもくそ泣いていると思う。
仕方なしにアルは転移の魔術を使って、フローラを招き寄せると、ぎゅっと抱きしめた。
「私は領民を助けに行くのですよ、フローラ。アース先生のレスーチェ領。クロア先生のエッフェモンテス領。ケント先生のルンダリア領に行きます。それは決定事項です。私でなければ聖域に繋げないのですから仕方ないでしょう?」
「そうですけれど、怪我でもしたらどうなさいますか!」
「そんなことを言っていたら、外出何て出来なくなります」
「怪我をしたら………我が儘だと言う事は分かっています。ですけれど遠くで何が起きるか分からない所に行かれるのはとても怖いのです。ですから、」
言ってほしくない――そう伝えたいのだろうが、流石に言ってはいけないと分かったのだろう。
フローラは押し黙って口を噤んでいる。
だが、悔しいのか、悲しいのか、怖いのか、泣きじゃくるのはやまないで居た。
するとそこに伯爵の船が一艘進んできた。
乗っているのはクレアである。
どうかしたのだろうか?と思っていると、大きな声だから沿岸まで聞こえたわよと言う。
流石に恥ずかしかったのだろう、頬を染めてフローラはハンカチで顔を覆ってしまった。
「何だったら私もついていくわ。怪我だったら私が即座に治癒してあげる。それならいいでしょう?ってことだけど、どうする?フローラ」
「クレア様………ですが、それは」
あなたにまで迷惑がかかると言いたげだった。
なのでフローラにクレアは、アース達に治癒要員で着いていくからよろしくって言っておいてと勝手に決定事項のように言って、岸まで戻っていくのであった。
フローラはぽかんとしていたかと思うと、何が面白かったのかくすくすと笑っている。
「以前からああいった方でしたのでしょうね。きっと。では、頼みますと伝えてきますから、岸まで戻っていただけますか?」
「はい、フローラ。戻りましょう」
こうして出かけるメンバーの中に、クレアが加わったのだった。
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