第3話高名な治癒士
パーティションから向こう側を覗いてみると、公爵の姿がどこにもなく、首を傾げる。
どこに行ってしまったのだろう?
まあ確かに、イベントまで時間があるが、一体――?
「おい、アル」
「わっ!!………脅かさないでくださいよ。何だ閣下、そっちから来たのですか?」
イベント会場からの登場ではなく、パーティションの裏側からの登場だと言うことでかなり驚いた。
料理を作ってる場から来られると困りますと言えば、御前を呼びに来たんだよと言う。
「私も居るぞ、アル」
「お義父様まで」
「じゃあ行くか」
「え、ちょ、ま、」
「いいから行くぞ」
「ええええええ」
イベント会場にアルはエプロン姿で引きずられて行くことになったのだった。
*****
立食パーティと言うことで、主賓以外は皆立って食事を食べていた。
皆楽し気だった。
ある者は新しい料理のレシピを知りたいと公爵に声を掛け、あるものは王女に助かって良かったねと声を掛ける。
そしてあるものは高名なエッツェンフェルトが教師になると言う事を誉といい、酒を捧げにエッツェンフェルトの元へ行くのだった。
100%ぶどうジュースをくぴくぴと口をつけて飲んでいると、王女が助けてとやってきた。
「どかされましたか?」
「無理、何で私悲劇の王女何て言われているの?」
「そりゃあまあ、あなたは今まで沢山の人を救うために尽力を成さってきましたが、あなたの他の王族がそれを全て台無しにしてきました」
「………うん」
そうねと告げる王女。
その瞳は暗く陰っていた。
「けれど自らが悪女を名乗りまでして、王族を守ろうと貴族を守ろうと、平民を守ろうとしてきたことが今回ノール父様のお蔭でばれたんです。そのため、あなたは今悲劇の王女と呼ばれています」
「誰そのノールと言う者は。何を勝手に、」
「ですけれど事実でしょう?」
「う………だけど、そんなの私が私じゃないみたいだし、嫌だわ」
それに、と言う。
「悪女の振りをしていたのも、ばれているのも嫌だし、悔しい。私頑張ったのに」
「頑張ってるのは分かりましたけれど、バレバレでしたからね。と言う事でした。鑑定を持ってるんです、ノール父様は。ですから無理です、隠し事は無理だと思ってください」
「それは――卑怯だわ。 だけど、肩の荷が下りた気分。有難う」
「それは良かったですね。 それで、今後ここで何をするにも自由なのですが、どうせでしたら教会の司祭でもやりませんか?」
「えっ?」
「以前から人々の治癒を行っている治癒士だったのでしょう?でしたら教会の治癒士を行うのに司祭は便利かと思いますが」
勿論お金を貰わなくともこちらの王城に暮らしていただければいいだけですからねと言うアルに、王女は戸惑っている様子だった。
「あの、何をやっても良いなら、あのね………笑わないでね、」
「はい。笑いません。何をやりたいのですか?」
「お、お、お嫁さんになりたいの………」
「………でしたらどなたのでしょうか?それとも今この場から選びますか?」
「まだだけど!!でも、ずっとずっと、平凡な夢だけどかなわないと思っていたから、諦めていたのだけれど、だったらお嫁さんになりたい」
誰のでもいいんじゃないのよと言う王女に、じゃあ私なんかどうですか?とエッツェンフェルトが言う。
そこにアースまでやってきて、「ならわらしもおー」と、舌がもつれた様子であるが言っている。
その後は10名以上が名乗りを上げて、王女は楽しくて笑いだしてしまった。
「どうせ嫁ぐなら、優しい人がいいですよ、王女殿下」
「ええ、そうするわ。もうここでは私は王女ではないのですもの」
「そうですね」
「一介の治癒士、その名もクレアよ」
「クレア………良き名ですね」
「有難う」
こうして公国王城に、高名な――だが治癒士として名の知られていないクレアが来ることになったのだった。
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