第2話高名な治癒士
「そう、ですか。であればそうです。私は民に国庫から炊き出しをしたりしておりました。それくらいしか出来ませんでしたから仕方ないのです」
「そうですね。ですけれど悪いことではなく、良い事ですから良いのではないのでしょうか」
仕方ないのではなく、出来なかったことを悔やむではなく、余程出来たことを誇った方がいいと言えば、項垂れてしまう。
「私は出来なかった、家族を止めることが出来なかったのです。それは悪いことです」
王女は顔を覆って声も無く泣いていた。
「懐剣、預かっておきますね。使いたかったら公爵まで声を掛けてください」
「いいえ。死にたいわけではないので、いいです」
扉を閉めると嗚咽が聞こえ出したのだった。
「泣きたいなら泣けばいいとか、胸を貸すのもありだろうに」
「アース先生。ですけど私はフローラが居りますから………」
「まあ、正直言って公王閣下の居城で浮気は良くないと思いますけれど、胸を貸して欲しかったと思いますよ」
「そうですかね……」
「きっと、そうですよ。まあいいです。私が見張っておりますので、晩餐会の準備に向かってください。閣下がお待ちです」
「分かりました。行ってきます」
*****
すっかりと忙しいことに慣れてしまっているアルは、周囲から頼られることが増えて来ていた。
紙を作る事もそうだが、食事を出すのもそうだ。
スクーターで開発されるに至ることになったが、自転車を作ることになった。
現物をアルが召喚することが出来るため楽ではあるのだが、如何せん細かな部品を再現するのは無理と言うことで、今は開発途中となっている。
他にも開発途中なのは、列車である。
大陸間を横断出来るようにしたいと常々言っているのである。
そんな中、困ったことにSLが買えてしまうと言うので、現在買ってあるのだ。
これを今現在ステータスのアイテムBOXに入れて死蔵しているけれど、線路が整いさえすればこれを走らせることも出来ると言うことである。
ワクワクが止まらない!
背の高くなってきたアルは、惣菜を大量に召喚するのは後回しにして、作れる料理を大量に作ることに。
ワイン類にウイスキー、そして焼酎に日本酒を出すと、作れるようになったことを感動する。
きっと前世で飲んだことがあるだろうが、今世では飲んだことはないため、味が分からない。
けれどきっとおいしいに違いないのだ。
12歳から飲酒が許されるらしく、とても楽しみなアル。
だが、公国の法律がどうなるかは、まだ分かっていなかった。
落とし穴がないと良いのだが、とフローラ辺りは思っていた。
一斗缶で油を用意すると、公爵に売りつけていく。
こうしてまたアルの元にお金が集まっていくのだが、言っても詮無き事であった。
作りたてが美味しいからと、マヨネーズを取り出して、茹で卵を作っていくアル。
タルタルソースは手作り派であった。
ピクルスを貰ってこれをみじん切りにする。
日本酒を作る時に出来た酢が料理にはとてもいいと皆気に入っている。
その為これで付けこむ事もしばしばなのだ。
王女がやってきた。
主賓の一人なのだから、奥の主賓席に腰かけて欲しいと声を掛けると、???と頭の上にクエスチョンマークを飛ばしていた。
エッツェンフェルトたちの今日は歓迎パーティなのだ。
エッツェンフェルトの部下になりたいとやってきたのは12名。
内三名程がアース達である。
彼らはエッツェンフェルトが逃げ出すと、ちりぢりに逃げるよう言われた通り、別々で逃げてここにたどり着いたとのこと。
魔法の手紙の出し方を暗号で示していたので何とかなったと言っていたけれど、とんでもなく優秀なのだそうだ。
だから皆何とかたどり着けたと言う。
鳥のモモ肉と胸肉を一口サイズに切って衣をつけてあげていく。
じゅうじゅうといい音がする。
よだれが垂れそうになるのを必死でこらえながら、揚げ物をたっぷり作っていくと、何ですのこの匂いはと、王女が訊ねてくる。
席をパーティションで区切ってこちら側と向こう側になっているんだけれど、料理を運びやすいようにとしているのだが、匂いがダイレクトにホールに香る。
その為エッツェンフェルトたちは腹が減るからもうイベント開始しようと言ってるようだった。
料理そっち行ってないだろ、まさかこっちに突っ込んでくる気か?と思い、仕方なしにアルは注文してあった大量の料理をアイテムBOXから取り出し、大皿に並べていく。
大皿が20枚、綺麗に食事が並んだところで、主菜と山盛りのパンをこれまた中皿に並べていくと、アルは料理に戻った。
イベントを開始してもいいと言う事なのだが、公爵が居ないと言う。
んん?
どこに居るのだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます