高名な治癒士
アルは他の面々が馬に乗る中、一人まだ馬に乗れないため、バイクで戻ることに。
いつものキックスクーターである。
ぷいいいいい、甲高い音を立てて走るキックスクーターに、姫巫女はとても驚いていた様子だった。
「それは何ですか?」
「キックスクーターと言います。馬に乗れなくてもこれには乗れるのでいいんですけれど、そんなひらひらした服では無理でしょう。裾が引っかかって転倒します」
「ええ?それは……乗せて下さるのですか?」
「一人乗り用なので、ご自身で乗っていただくことになりますけれども」
乗せるのはやぶさかではないぞと言えば、嬉し気だった。
何だよ年相応に笑えるんじゃないかと思っていれば、じゃあ其れを貸してくださいなと言う。
無理だ、そんなの。
話しを聞いていなかったのか?と思う。
そもそも姫巫女――王女殿下は現在馬にタンデムしていらっしゃる。
そのためこちらに乗って貰うには一度下りて貰ってになるが――はっきり言ってそれは止めて欲しいと思った。
馬と並走して走れるほどに早いけれど、それでも一度止まれば――今は何にせよ危険であった。
御早くと言ったでしょうと窘めて、アルは一直線に公爵邸に向かうのであった。
新市街地、公爵――いいや、公国王城についた。
巨大な城を彼女は見上げていた。
「どういうことですか、これは………」
その塔は雲の上にまで届くかのように高く、王女の心を不安にさせた。
石の城壁は恐ろしく不気味な威圧感まで与えてくるほど。
上を歩く兵士たちの影を見て、彼らの目が姫巫女を注視しているように錯覚するほどだった。
門は巨大な鉄の扉で閉じられており、入り口には厳重な警護兵士たちが立っている。
姫巫女は己の小ささを痛感するのであった。
城の内部は広大であり、一体ここにはどれだけの傍仕えや下男下女が必要になるのかと思うとぞっとするほどだ。
何千もの人々が場内に住んで居るのかもしれないと思った。
何百もの部屋があるのを見て、迷子になりそうとこぼす。
「どうしてこのようなものを作っておられたのですか」
「なっ」
「そう言いたいのでしょう?分かります。これは、内緒で立てている王城ですから」
「どういうことでしょう?」
まさか私をここの城主にでも仕立てようと連れてきた?と言われれば、公爵が大きな声で大笑する。
そんなことにはならないと言うけれど、では一体どういうことなのだろうか?
彼女の目が言外にそう言っていた。
「ただ単に、我々が独立するんです。公国としてね。ですからあなたには特に用事は無かったんです。ただ、不憫でして」
「そうだ不憫だっただけだ。お前さんだけがあの王族の中でまともだったからな。それでアルが連れて来てくれた、ただそれだけだ」
俺も今朝連れて来る事を知った、驚いたぞと言われ、飛んだ勘違いだと王女は顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
階段をいくつか上がり、王女を歩かせると、この部屋で良いだろうと言って、彼女を軟禁するための準備をすると言って、公爵は出ていくのだった。
軟禁ですかと辛そうに言う王女。
だが、実際は風呂だ食事だのパーティがこの後待っている。
ただビビらせたかっただけだった。
「まあ気にしないでください。それより、待っている間、話でもしましょう。勿論扉は開けますからご安心を」
「ご配慮痛み入ります。ですが結局あの場で捨てられたのですから、私はもう王都では、死んだと思われているはずでしょう。そのような扱いのハズ。何故私を助けたのですか?」
助けたつもりだったのだろうと言われれば、少しカチンと来た。
だってあんなに不自由そうだったじゃないかと言われると、王女は顔をそむける。
部屋には最低限の家具しか入っておらず、まだまだ公国に必要なものが揃っていない事を表しているようだった。
「兎も角椅子に腰かけてください。話をしましょう」
「………」
すっと無言で長椅子に腰掛ける彼女を見て、ほっと小さく息をつくと、アルは目の前に小さな椅子を持ってきて腰かけた。
「我々は、決してあなたに害を成そうとはしません。誓いましょう。 そもそも皆がですけれど――あなただけが我々貴族に、民草に優しい王族だと言っておりました。ですから助けようと思ったのです」
先日私のことを拒絶してほしいと悪女のふるまいをして見せましたでしょう。
ああいう事ですよと言われ、王女は困った風だった。
どうして分かったのかと言うのだが、最後に呟いた言葉、聞かせるつもりじゃなかったのですか?と言われると、「ごめんなさい」と言っていたじゃないかと言われると――
「ごめんなさいじゃなく、ごめんねですわっ!じゃなくて、聞こえるように言ったつもりもなくて、何ていうか、悪い事言ってしまったと思って………言ってしまったのです。ああああばればれですか………」
「そうですね。ばれております」
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