第3話ヒューズ殿下と姫巫女訪問
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≪護衛兵視点≫
「早く姉上を助けに向かうのだ!!」
「ですが、それは、殿下をお守りするよう言われております!!」
先に行けと言った通り、姫巫女の代わりは居るが、王太子の代わりはヒューズしかいない。
その為ヒューズを連れ帰ろうとしているが、暴れて言う事を聞かぬのだ。
ええい面倒な。
ヒューズは姫巫女を金づると考えているフシがあるようだが、それでも兄弟中は悪くはない。
だからヒューズを逃がしてくれたのだろう。
だが、当のヒューズは自分が助かったら一人護衛兵が犠牲になったのも忘れた様子で、馬車も失った事を忘れたのか、馬車を早く持って行かねば姉上はどうなると言うのである。
自分が助かったからか、気が大きくなっている様子のヒューズ。
一人失った護衛兵はヒューズを庇って火にあぶられたのだと言うのに。
兎も角この領地の貴族の家に行き、臨時で騎士を雇う方法を得なければならない。
魔獣の森の領地であるため、騎士団があるだろうと、そのまま領主の館に向かったのであった。
「なに!?姫巫女殿下が?」
「そうなのだ!早く戻って助けに行かねばならん!力を貸してくれ!」
報酬なんぞ出さずに済むのは楽ではあるが、姫巫女殿下がもしも死していた場合、今後ヒューズ殿下はどのように他貴族から金を巻き上げるつもりなのか――分からないが、兎も角一大事である。
早く連れ戻さねばならないと、騎士団を募って我々は現場に急行するのであった。
何だこれは。
領主はわなわなと肩を震わせ怒りをあらわにする。
「そなたたちは、騎士を一人残して彼女を一人きりでここに置き去りにしたのだな!これを見よ!!野犬に食われて腕の一本も残っていないではないか!!」
「いや、そのですな………ヒューズ殿下は、王太子殿下の代わりとなるべくそだって来たお方。その点姫巫女殿下はその………代わりの居るお方ですから、優先をした結果なのです」
「だが、どちらも王の子であるぞ!!」
王の血を持っていると言われ、護衛兵はたじろいだ。
だが、そんなことを言っても、済んでしまったことは仕方のないことだった。
護衛兵は守り切れなかった、と言うことにするようにしようと話をしていれば今度はそれもばれてしまう。
「貴様らぁああああああああああああああ!!どれだけ愚物であるか!殿下を置き去りにしてただ逃走しただけであると!! それも、一人は逃げようとして背中から火をけしかけられて死亡!!ではなんであるか、殿下は一人ここで死ぬのを待っていただけか!」
「姉上はどうなったのだ?」
ヒューズがやってくると、皆一様に口を噤む。
見晴らしの悪い木々に囲まれた土地、魔獣の森の地。
そんな土地でヒューズは姉殿下を失った。
今回の訪問は、それこそヒューズが言い出したと聞く。
無理に誘われればヒューズに言われたのだからと姫巫女は毎回頷いて共に訪問に向かうのだ。
ヒューズに向ける怒り等筋違いであると言うのに、彼ら護衛兵はヒューズに怒りを向け、領主の怒りを受け続けていたのだった。
アイツの所為で。
そっと領主はおちていた、泥まみれの衣の端を手に取った。
それは血にまみれていて――最後まで気高く戦ったのだろうと彼はその雄姿を胸に刻んだのだった。
陛下に領主が遺髪と共に、服の切れ端を持っていく。
何故このようなことになった。
適当に話をして終りにしようとしたのに、これでは、我々が失態を犯したことがばれてしまうではないか。
「陛下には私が話をしておいた。お前たちは全員縛り首だそうだ」
「なっっ」
こうして私達護衛兵四人は、ヒューズ殿下を救ったのではなく、姫巫女殿下を失った大罪を犯したとして殺されることになった。
即日で縛り首などと前代未聞である。
王太后陛下に目を向けてみるが、すいと視線をそらされた。
いつもヒューズ殿下の事を助けていた私達を、そのように無視されるだなんて。
悔しくて悔しくて、仕方なかった。
「さあ、死ぬがいい」
視界を麻袋で覆われて真っ暗にされたところを歩かされる。
石を投げつけられて痛みを受けるが、これから待っているのはもっと大きな痛みだ。
悔しい悲しい恐ろしい。
「早く移動しろ!」
がつんと額を殴りつけられたのが分かったが、誰がやったかも分からない。
くそう、くそう、くそう!
ヒューズ殿下にゴマすりをしていないで、王太子殿下にすればよかったと切実に思った。
だが、今更である。
「あ………」
足場が無くなり、足をばたつかせて、苦しみの中もがき――段々と力が入らなくなっていき。
私は生涯を閉じたのだった。
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