第2話ヒューズ殿下と姫巫女訪問
*****
こうして帰るとき、ごめんねと姫巫女が一言すれ違いざまに言ってきて、何故か話が分かった気がした。
彼女もこの婚約話を潰したかったに違いない。
仮にアルが姫巫女の噂を聞いて娶りたいと思う事の無いようにしたのだろう。
分かったけれどきつかった。
自己犠牲のつもりなんだろうが………あれじゃあ辛いばかりだろうに。
「姫巫女様と言えば、国庫から炊き出しを民草に振る舞い、身体を癒してくれる治癒士のことだ。国民から絶大なる人気を誇っているが、それがあだとなってああもお前のように、婚姻を盾に値を吊り上げるような真似をされてあらゆるものを貴族たちからふんだくっているのだと聞いたことがあるよ」
「ええ?つまり、婚姻させてやるから、その代わり何か寄越せって言ってふんだくる?とんでもない詐欺じゃないですか」
無いわあないわあと言えば、本人はそれを止めるために、最近では悪女の噂を流すため、直接的に被害に遭っている貴族たちの元を訪れては、あのように振る舞うと言う噂は出ていたのだと言う。
道理で妙な人だと思った。
ノールが部屋の隅にやってきて、聖母のような神像を指さして、悪い子ではないよとジェスチャーしていたのだ。
成程、確かに悪い子ではない。
ただ、こっちに三人で居たのに何でノールそっち行った。
逃げるなこら。
「兎も角悪い方ではないのだが、昨今の風評は余り宜しくはないのでおかしいと思っていたら、自分を犠牲にされていらしたのだな」
「そう、ですね」
ノールが戻りしなに言う。
「いい子のままでしたよ。悪女、私は悪女になるのっていう、画面に描いてありましたから」
「成程、そのように思っていらっしゃると言う事か。悲しいな」
「そうですね」
「私、思うのですが、公国になったら押し付けてきそうだなと思ったんですが、その………」
「ああ、彼女姫巫女殿下をか?確かにな、そうであればいっそ今から攫ってしまいたいところだが、そうも言ってられまい」
「ですが、いつも伴を連れても数名で護衛も少ない中、夜盗に襲われても仕方ないと思いませんか?今は無事ですが………それこそ王都が困窮している証かもしれませんけれども」
「………そうか、アル。君はあの方を助けたいのだな?」
「ええ。このまま王族と共に酷い目に合うくらいなら、衣装を切って飛ばして、そのまま血のりをつけて死んだことにしてやりたいと思います」
「そう、だな………確かにその方が楽ではあるだろうが、ばれれば即座に処刑ものだぞ。いいのだな?」
「すれ違いざまに他に、もう迷惑かけないから御免って言われたんですよ。自由に暮らせる場をあげたいと思うのは、罪ですかね?本当は王族の国王陛下辺りは分かってるのではないでしょうか?国庫を使って炊き出しをするのを許すなら、きっと――」
「そうだな。だが国王陛下より現在発言権が大きいのが、王太后である、先王陛下の奥方だった方。つまりは政治的に国王陛下はまだ子ども扱いされていて、王太后陛下が口を出す中を邪魔しているのだと言う。つまり分かるな?」
この時アルは、誰が王家の最も強大な敵か教わった。
「敵は、王太后ってことだったんですね」
「まあ、そう言う事だ」
*****
≪姫巫女視点≫
私は同じ馬車に乗ったヒューズと共に、次の地に向かおうとしていた。
後何回こんなことをしなければならないのだろう?
バカげている。
そう思っていてもやらざるを得ない。
私の名前を使って、金を引き出されてはたまらないから。
重税を民草に強いて、そして自分達は大丈夫だろうと言う性根が分からない。
王太后陛下――一体何を考えてらっしゃるのだろう?
私のために、みもちを崩した人も居るらしい。
博打までして何とか金を作ろうとしたと言う事を聞いた。
本当に馬鹿な事をさせてしまったと思う。
けれどそれをさせているのは、各所に言って回っている直接的な原因ヒューズの責任が大きいが、それを自由にさせて金銭を巻き上げて贅沢をする王太后陛下の責任でもあるだろうと思っている。
どうしたものか、どうしたらいいのだろうかと思うが、彼女が生きている限り、国王陛下の御代は――暗黒時代と言われることだろうと思う。
それだけははっきりと分かっているのだ。
本当に、私に出来る限りの事をするしかないけれど――頑張らなくては。
「ヒヒヒィイイインッ!!!」
馬車が大きく揺れた。
何だ?
馬車が大きく燃え上がる。
「一体何ごとですか!?何があったのです!!」
窓を開けて外に顔を出すと、そこには盗賊と思わしき黒一色の人々。
装備は皆思い思いなのだろうが、黒だけは皆同じように着こんでいた。
それが彼らの色なのだろう。
恐らく味方を判別するように色を身に着けていると悟った私は、早く逃げますよと言う。
すると護衛騎士は5人、戦って勝ち残れる数ではないと思ったらしい。
何せ、魔法を使ってくるのだ。
それも極大魔法を。
つまり敵はどこかで改易した貴族のような気がする。
もしくは平民の中に現れた魔法使い。
最悪は貴族が殺しに来たのだと思った。
勝てっこない程の強さを前にし、皆意識が負けるとそちらに傾いた。
護衛兵がヒューズを連れて馬に乗りましょうと言う。
私にも馬に乗れますねと聞いてくるが、無理だ。
私は馬に乗る練習をしたことはない。
だから、私は良いから早くヒューズをと言う。
次代の王の代わりになれるのはヒューズだけだ。
だからヒューズは連れ帰らなければならない。
私は良いからと言うと、皆ヒューズを連れて一目散にかけて行った。
一人護衛兵が背後から火で炙られ意識を飛ばしているが、四人は逃げ切ったらしい。
悲鳴すら出せずにいたようだが、意識を飛ばしただけになっているのであればいいのだが。
「さあ、どうぞ煮るなり焼くなり好きになさい!!」
「懐剣を捨てていただけますか?」
最後に喉をついてやるつもりだった懐剣を、そっと外される。
声が聞いたことがある、誰――?
ずるっと被り物を脱ぎ捨てると、そこには先ほどの伯爵領の領主の傍に居た少年が居た。
「公爵領で我らの領主がお待ちです。公爵領に行きましょうか」
「え、あ、あああ、あなたっ方!?なんてことをしてくれたのですか!!こんな………」
「直ぐにも証拠隠滅をします。早く服を脱いでこちらに着替えてください。それと髪を切りますよ」
「え?で、何を……!!」
私の髪が一房切り取られ、ばらばらと落される。
そして透明な袋に入った赤いものを、ナイフで突くと血が当たり一面を真っ赤に濡らす。
ナニコレは。
まさか、私を殺したことにしようとしている??
「領主の元に行きます。お早く」
「………後で説明をしてください」
「あなたは今ここで死にました。拒否権は有りません」
「………」
轟々と燃えさかる炎の中、伯爵家の嫡男の少年は、馬車にも火をつけて完全に退路を塞ぐ。
6頭立ての馬車だったため、まだ馬は居るが、馬車が無ければ私は王都に戻れない。
降参するしかなかった。
「いいわ、連れて行くと良い」
「ええ、感謝申し上げます」
「ですけど覚えておく事ね。私はどうあっても王都に戻る。戻らなければならないのよ………」
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