ヒューズ殿下と姫巫女訪問
エッツェンフェルトは高名な魔導騎士だ。
沢山の著書を出している男でもある。
更にはアルの知る中で最も頭がいい人物と言うか、研究者でもあると思っている。
何故なら彼はこの世界で恐れることなく、天動説を否定したのだ。
それに対して周囲の反発は凄かった。
エッツェンフェルトはそれでも負けなかった。
一人で戦ってそれは正しいと周囲を説き伏せるべく動いていたのだ。
何だか格好いいよなと思ってしまう。
そうした活動の一環で、それを正しいと思っている者達がエッツェンフェルトには沢山ついてくれた。
後援者である。
そう言った後援者達は今、エッツェンフェルトが居なくなったことで肩身が狭くなっている可能性もあるため、呼びよせているのだ――とは聞いていたが、来るの早くない?
「きました、エッツェンフェルト様!!ここが新たな我らの聖地になるのですね」
「ああそうだ、そして我が道は続いていく!きてくれたんだな、シード!!」
「ええ!勿論であります!エッツェンフェルト隊長の傍には私が居らねばなりますまい!!」
どうやら今度来たのはエッツェンフェルトが魔導騎士時代の部下のよう。
部下はシードと言うらしく、公爵たちから雇われて、そのままエッツェンフェルトと共に新市街地に引っ越していった。
そこで魔法学校を新たに建てるため、今も公爵の命でエッツェンフェルトは暗躍していた。
王家の者に知られぬように。
そんな折のことだ、王族の姫巫女その人が、アルの元にやってきたのだ。
ヒューズを連れて。
ヒューズはいつもの通り、アルにもうこちらに入るのだから、身支度をそろそろしておけだとか言っている。
「もう9つだろう?きちんと身の回りは整えておくのだぞ」
そう言われても困ってしまう。
アルとしては王都に行く気等毛頭ないのだから。
にしてもどうして公爵邸ではなく、伯爵邸にやってきたのか分からない。
何ゆえ?と思って首を傾げる真似をすると、姫巫女と称されている姉の方がこう答えた。
「私があなたに会いたいと言ったのです」
「私に?」
「私の婿になるには、少し狭量ですね。減点です」
勝手にきたことを責めるように何故やってきたのかと伯爵と共に訊ねただけでこれだ、一体どういうことなのか。
既に何だか案内が面倒な感じがすると思っていれば、遅いからとまた減点と言われる。
「ヒューズ、どうしてこのようなものを私と添わせようとしたのですか?」
「ですが姉上。きっと気に入るはずです。金の生る木ですよ」
後半こっそり言ったつもりだろうが、アルにはばっちりと聞こえていた。
こいつら何のために来やがったんだとアルは警戒心をあらわにしている。
「私はあなたなんて認めないと言いに来ました」
「………でしたら姉上ではなく、三つしたの妹にします」
「は?別ならいいとかじゃなく、私には婚約者が居りますが」
「ええ、ですからそれも金輪際ないことにした方がいいと言いに来たのよ。ヒューズ、5大侯爵家があるでしょう?そちらで良いではないですか。公爵家でもいいですが、あちらは全てにおいて、財産を失う予定のもの。ですから5大侯爵家ですわ」
何を見せられているのだろう?と思っていれば、伯爵が黙っているんだと肩を叩いてくる。
何をされるかわからなくて怖いが、アルはとりあえず事の成り行きを黙って見守ることにした。
「別に良いではないですか、今のまま金塊を届けて貰えば良いのだから」
「最近は届かないではないですか」
「金貨を作り終わったと陛下が言ったのですって。あなたは知らないなら聞いてなかったのかしら?食事の席での話ですわ」
うちのヒューズったらどうやら食事の席での話しすら忘れてしまうのだから、御前には外交官の素質はないわね。
外交官になりたがっていたけれどそれもなしにしましょうと言われると、慌ててヒューズはそれくらいできると言うのだ。
だが実際に話を覚えても居なかった、できっこないと煽られると、怒り狂って近くの物をなぎ倒す。
ちょっと煽っただけやないかい。
うちの備品壊すなや。
何と言うか面倒な性格なのを分かっていて煽っているように見えるため、これまた面倒な人なのだろうと思った。
それよりも、侯爵家はいいとして、財産を失う予定である公爵家とはどういう意味なのだろう?
黙っていると次々出て来るのだ。
相手が何を考えていたか暴露してくれているのだから、良いが。
ちょうどいいから音声を小型録音機を取り寄せて、アルは黙って録音をしておいてやった。
時折混じる攻撃的な異音の他に、公爵家を食いつぶしてやろうと言う事を言い出すのだ。
どういう事だ。
親戚だから頼っているのではなかったのだろうか?
「公爵家は潰してやるとヒューズ、あなた言っていたでしょう?でしたら黙ってこの子と結婚でもなんでもさせてお上げなさいよ。私は寛大だから、それくらい許してあげるわ」
「ですが姉上、金の生る木を公爵家に取られます」
「いいじゃない別に、絞り出しやすくなるというものよ?」
ほほほと高らかな笑い声をあげる姫巫女に、アルはめまいを覚えた。
道理で公爵の元には他の元老院も同情的だった、その理由が分かったのだ。
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