男神と操船

 アル達がルーレック王国、ルーレック島に向かう間、公爵の長男は王都で商いのついでを装って、教師達の職をあぶれた者達を連れてくる手はずだそうだ。

 家庭教師や魔法学校の教師を、王族派の嫉妬や嫌がらせにより職を失った者が山ほど居るのだ。

 彼らを公国となった現アーレンゾ領の魔法学校教師にすべく、動いているのである。


 そしてエッツェンフェルトも別人の名で、手紙をほうぼうに出すとのこと。

 ルッチェロが彼の出身国らしいが、ルッチェロの知り合いで、教師や医師としてやってみる気がある者は居ないか?と声を掛けるというのである。

 確かにエッツェンフェルトの知り合いならば高名なものが多そうだしと、皆期待をしている。





「なあ、アル。私もあの船が欲しいのだが、一艘売ってはくれないかね?」


「何に使用されますか?物を乗せる船じゃないですけれど」


 バカでかいわけじゃないので、輸送用で欲しいならば違うと思っている。

 すると貴族をもてなす時にいいだろうと言うのだ。

 ならば時々使ってやってくれと、アルは伯爵に一艘買って譲ったのだった。


 船と泳ぎの特訓を皆でして、何とかなって来たらルーレック島に行くのだ。

 その日を目指して皆特訓をしている。


『精が出ますね』


「ええまあ。そうだ!男神様も船に乗りませんか?」


『いいのですか?』


「折角ですからどうぞ」


 空から話しかけていたのだろう、頭上からすうっと下りて来て、船の大きなソファに座した。

 これは座り心地もいいですねと言う男神。

 当たり前だ、中にはこの世界にないクッションが入っているのだから。

 椅子の座り心地が悪いわけも無かった。


 このまま乗っていけばどこまで行けるのか、と思うと、遠くまで行くと人魚の道しるべと言うものが出て来る。

 これは道先を案内するもので、沖に出過ぎると戻してくれようとするのだ。

 有難い。


『そうだ、位置が分からないとあれですから、あちらで言うカーナビをつけておきますよ。便利でしょう?』


 その代わり座礁しないように気を付けてと言われ、アルは目を白黒させる。

 船にカーナビのような物って何?

 どうやら今まで言った事のある場所以外も行けるようになっているようなのだ。

 だからアルは、人魚の海で隠し財産と言う物を見つけられた。


『海賊の隠し財産ですね、見つけたらこちらに転移させているんです。だからこの海で探してみてください』


 まあ、外海で見つけるのでもいいですが、そちらですと危険ですからやめた方がいいですよと言われる。

 確かに難破する可能性もあり危険ではある。

 だがしかし、やってみたいのだ。


「男の浪漫ですね!海賊のお宝!いいですねえ!」


『でしょう?探して見つけてみて下さい。いつも色々と貰っているお礼です』


「有難う御座います!いつもの供物のことでしたら気にしないで欲しいですけど、でもでも嬉しいです」


 アルは男神と運転を代わって人魚の海をひとっ走りすることにした。

 そして見つけたのは金銀財宝である。

 財貨が大量にあるため、アルはこれは古代の金だなと貨幣をステータスのアイテムBOX内に収納した。

 後で公爵に見せてみたら面白いかもしれない。

 とりあえず現状でチャージに使ってしまうのは勿体無いと思い、保管を選んだ。


『チャージじゃなく、古銭集めをしているものに渡すと良いことがありますよ』


「何となくそれが思い浮かんだので、そうしようかと思いまして………」


 にこにこと運転席の男神を見ながら言うアルに、男神もニコニコと人の好さそうな笑みを浮かべている。


「やっぱり古銭集め、している人こちらにも居るんですねえ」


『ああ、地球にも居ましたか』


「ええ、居りましたよ。それも沢山集めて大量にではなく、とっておきを用意するような人も居りました」


 穴のずれた五円玉から始まって、ギザ十円に、記念硬貨。

 そして古銭は汚れを落としてぴかぴかになっているのではなく、最初から汚れぬようにしておくのだとか。

 普段使いの小銭は、手垢が大分ついているから、それを思えば触れぬようにしなければならないと言ったところらしい。

 こまめに磨いてあげている人も居るが、結局日本の小銭は此方と違って高くないから、物質的な高価さはないだろう。

 こちらは金貨は当然だが金で作ってあるし、銀貨もそうだ。

 銅貨だってそうである。

 そう考えればこちらの世界はあらゆるものが高いのだった。



 男神は空を飛びながら、船も良かったですと言った。

 また遊びに来ますねと伝え、空に戻っていくのであった。

 それを見て何だか寂しいなと思ってしまう。

 もっと近くに居たいと思ってしまう。

 何故なのだろう?

 遠い世界となった地球を知っているからだろうか?

 それもあるだろうが、自分をある種産んでくれた人だからかもしれない。


「また会いたいなと思います」


『何も遠く離れてしまうわけではないではないですか』


「ある意味生みの親だと気が付いたんです。だからか離れがたく………」


『ああ、そう言う所はスキルを与えた人には有り勝ちですよ』


「そうだ、この世界には私以外にスキル持ちは居るのですか?私だけですか?」


『今のところはあなただけと言いたいですが、他に一人居られます』


「………」


『会いたいですか?それとも会いたくない?』


「会いたくないと言うか、あいたいと言うか、そう言う気持ちはないんですけど。居たらとりあえず危険な事を仕出かさない人であればいいんですが。どうなんでしょう?」


 それに関してはノーコメントを貫くつもりか、だんまりだった。

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