第2話妖精と孤児

 だって干し果物って硬くて彼ら妖精のあごじゃ噛みきれないよ。

 それを分かっていて欲しかったと思うけれど、今生ってる木の実と言ったら、ビニールハウス栽培の苺だけだったが、出荷間近で食べられないと言われたらしく断念した様子。

 仕方なくこちらに戻ってくるのに食糧庫から干した果物を持ってきたのだと言う。


 とちあいかと言う苺の品種を持って、公爵が男の妖精に声をかける。

 友人になって欲しいと切実に言っているのを見て、何とも言えない気持ちになった。

 公爵、妖精と友達になりたかったんですね。

 何だかボッチの子が、物と引き換えに仲良くしてくれって言ってるみたいでやだなあと思う。

 けれどそんな努力もむなしく、公爵の前を横切る際、尾を振って「あっちいけ」と頬を叩くようにされるのだ。

 何と言うか無情である。


「子爵つれてきてえなあー」


「なんだ?」


「いえ、何でも」


 きっと彼は参加しないだろうが、それでも無理に参加させれば同じような目に合うだろう。

 それは見モノだろうと思うので、連れて来たかったなと思う。

 まあ、今更だが。


 伯爵は一粒銅貨二枚のお高いサクランボを手に、遊ばないかいとツインテールのなおを誘っていた。

 仲良くなりたいのだがと言っているのを受けて、こちらは成功した様子。

 照れながらも、なおが伯爵に近づいて行くのが分かった。

 四枚羽のなおは、恥ずかしがりやなのだが、伯爵はそれでも根気よく話しかけて、最後には手のひらに乗ってくれたと大喜びだった。

 と言っても、友人関係になったかは分からない。

 どう見たってファンと追っかけに近いのだ。

 だから仕方ないので手のひらに乗ってあげたに近かったのをアルは見ていた。

 因みに他の人も似たようなことになっていた。

 まあ、ファンと追っかけになっていようと、何とか接触することは出来ているのだからまだましだろう。

 公爵は声を手あたり次第かけて行っているが、どれもこれも見向きすらしていない。

 何でだろう?


「何でって、分からないの?」


 と由紀子。

 由紀子曰くだが、「アルに手ひどくするから、私達から嫌われているのよ」と言う。

 じゃあ子爵も駄目だなと言えば、そのとおりねと言う。

 ななこが小さな羽をパタパタとさせて、アルの頭の上に乗ると、あのおじちゃん嫌いと言う。

 結構ぐっさり来たらしく、公爵はもう勘弁してくれと最後には泣きが入っていたんだとか居ないんだとか。

 え?アルは怖くて表情を見れませんでしたよ?

 ってことで見てないです。

 泣きっ面にハチみたいなことになっていたとかも、見て居ないったら見ていないんだ。



*****



 気を取り直して、公爵は孤児たちと元奴隷たちの暮らす村と街に来ていた。

 村と街の距離は大体3キロ程度だ。

 なるべく近いところがいいなと思っていたら、段々と近づいてきて、ほとんど同じ一つの街になっていた。


 孤児たちは村に住み、獣人たちは三人だけ、増えないままになっている。

 街の中で毎日祈りを捧げて供物が届くのでそれを待ち中で火を熾して食べていた。

 何だか獣人はこれだけあれだと要らないような気がしてくるな。

 孤児たちが村に住み着いて狭いようだし、もしも出て行きたくないと言う様だったら、孤児の代わりに獣人を出してしまおうと思った。


 だが、獣人は獣人でここは俺の家だと言う。

 しかも祈りを捧げず食料だけ村から奪っていたのが分かったため、アルは神様に言って外に追い出して貰うことにした。


「なるべく遠くの、王都にでも放り出してください」


『あい分かった』


 目の前からパシュッと消えてしまった獣人ズは、今頃王都で寂れた空気の中、立ちすくんでいるに違いない。

 どうなったのだろうかとその後を知りたいような知りたくないような気持ちになるが、まあいいだろう。

 そのままで。


 孤児たちに話を聞くと、おおむね元奴隷たちとの生活は好評の様で、ここにこのまま住むと言っていた。

 ただし神様に祈りをしたくないと言っている年嵩の孤児もいる。

 どうしてか聞いてみると、「神は俺の父ちゃんを助けてくれなかった」と言うのだ。

 それは――神に言う事ではなくて、その時の領主に言うべきだろう。

 だって彼は、彼の父母は、飢饉で死んだのだから。


「子供には食べて欲しかったからって、自分達は食べずに飢餓で死ぬって壮絶です」


「だな、だが、それが親にとっては普通だ。俺等が食べられなかったらその分子に食べて貰いたいのは普通だよ、アル」


 公爵と法衣貴族たちが口々に言う。

 これを、どうにかしましょうと。

 飢えることの無いように、あの王族の元から独立を果たすのだ。


 エッツェンフェルトを慕ってやってきたその部下たちが公爵に話があると声を掛けてきた。

 どうやらいつの間にやらここに入り込んでいたらしく、扉の中聖域でご対面と相成った。


「我らに一時的にですが、国元に帰ってもいいと許可をくださいませんか?そうしましたらこの国に親兄弟を呼び寄せてきますから」


「だが、皆貴族であろう?せめて独立をしてから亡命ではいかんのか?」


「ですが、他国では不作、凶作が続いており、餓死者が………この国とは違いますが、似たようなことに庶民が成っているのです。ですからアル様のお力で、この人魚の街に住まわせていただいてこちらに来れればと思うのです。ですからどうか、アル様を連れての一時帰郷をお許しいただければと思います」


 それを受けてアルは別に構わないと言った。

 あるならば連れて来れるなら、アルは連れてきてあげたいと思ったのだ。

 これだけ広大な国土があれば、公国としてなる時、人は必要だ。

 それに、早く行かねば民草は飢えて死ぬだろう。

 だから行こうと言えば、ノールを連れて行けと伯爵は言う。


「我らは離れられないが、それでもノールであれば、鑑定でお前を助けてくれよう」


「ノール父様……そうですね、ついて着てもらえるよう説得します」


「あ、……有難う御座います!!」


 こうしてあるは、ノールと二人、エッツェンフェルトの部下三人の領地を回ることになったのだった。

 目指すは国外、ルーレックのレスーチェ領、エッフェモンテス領、ルンダリア領。



*****


と言うことでアルはこれから海に出ます。

初めての船旅です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る