国内貴族たちと魔水晶にて


「アーレンゾ卿の領地まで行くまでは、皆さん聖域にて暮らして貰いますが、家はきちんと用意しますからね。安心してください。安全な移動方法がこれしかないため窮屈な思いをさせてしまいますが、よろしくお願いします。 それと、ここでは元奴隷の方方が見れば分かる通り、暮らしています」


 墨を首元に入れた者達が笑顔で手を振ってくるのを見て、ランスは思う事があるようす。

 元奴隷、それに引っかかりでも覚えたのだろうか。

 だとしたら申し訳ないけれどこちらの言葉に従って貰いたい。


「いいえ、ただ、元奴隷を解放して使用人として使っているのですが、ここで使っていただければ、彼も窮屈な思いをしないのかと思っただけです。それは――素晴らしいことでしょうね。彼ら元奴隷にとっては」


「そう、でしょうね」


 元奴隷はその身分だけで解放されても真実自由になれるわけでもない。

 だからこそ囲ってあげたいのだと言われれば、それは良く分かった。


 その気持ちは、よく分かった。



*****



 元老院には通信の魔水晶が必要となるが、そちらで有力貴族たちが王族に対して言葉を上げるのである。

 魔水晶で銀板に他の面々の姿を映してアーレンゾ公爵は言う。

 このようなところで、言う事ではないかもしれないが、聞いてほしい――そう告げて。


「改まって何だ?」


「一つ聞きたい。重税についてどう思っているかを」


「それは……」


「不敬であるぞ。王族批判はやめよ」


「重税に対して思っていることを聞いているのであって、王族に対して言ってるわけじゃない。どうなんだ、皆重税にあえいでいるはず――辛くはないか?無事か?」


 アルは同じ部屋で銀板の方をじっと見ていた。

 映りこまない位置で事の成り行きを見守るが、矢張り交渉は難儀する。


「辛いのであればこちらに屋敷を構えてもいい、貴族年金があるだろうが、それでも足りぬだろうから言っている。暮らしが困窮しているというのであれば、アーレンゾは受け入れる」


「つまり、法衣貴族に関して言っておるのか?」


「ああ、それもある。だが土地持ち貴族にも言っているさ。領地を捨ててこちらに来るのであれば、開墾を手伝わせることになるだろうが、土地は作ってやれるさ。何せうちの土地は、この国を丸のみ出来るほどの土地が余っている」


「……魔獣の地だな」


「そうとも。だからあまりにも無理だと思ったら、領民と共に逃げて来いと、そう言う事だ」


 王族は外遊中である。

 そのため国に残っている面々は子供の王族だけ――つまり今だからこそ言えたという事。


「そなた、何を考えている?」


「皆が生き残る術を考えている」


「戦争になるぞ」


「ならんよ。皆がこちらに来ればな」


「確かにそうであろうが……」


「領土割譲かと思ったら、新たな土地で生きるのだな。それならば乗ろう」


 知った者にだけ言葉を飛ばせる銀板。

 銀板から皆で転居するという声が上がり、アルもほっと息をつく。


 貴族年金を貰っているからとはいえ、ここまで領地民を磨り潰して使われるようにされれば、頭にくるというものだろう。

 大半が領地があり、そこで暮らしているわけだから、離れられないのである。

 国から。

 貴族もそうだが、新たに国を作ってしまい、そこで活動を始めてしまえばいいのだ。

 独立である。

 そのために今まで散々動いてきたのだ。


 重税にあえぐのは何も王都だけではない。

 実際に酷い場所は魔獣の発生する土地であると考えている。

 税が8割と言うのが王都だが、魔獣が発生し定期的に人員を動員して間引かねばならない土地こそ7割もの税を搾取されてはかなわない。


 だがアルが一人いるだけで状況は変わったのだ。

 アルが一人いるだけで、金銀を生み出し、今は税を金貨で補てんするように出来ている。

 最悪金山から金を取り、これを財貨として、そのまま自由貿易に突っ込めば、永久機関が出来上がる程。

 一人で全てが完結するのである。


 そんなアルだが、こんな状況だったと知らされたのはごく最近だ。

 何故ならまだ勉強を習う所ではないのだ。

 それに今までは行儀見習いに出されていた。

 勉強はそこそこで出されていたのである。


 家庭教師をつけて学ぶところまで行ったのが戻ってきてからに近かった。

 7歳の頃から学んではいたけれど、休日を二月に一度貰ってその時に家庭教師につききりでだ。

 兎も角、それまでは全く知らなかった。

 そして国全体がひどい状況だと知ったのは本当につい昨月である。

 早く動こう動くべきだ、アルは知った所で即座に動き出したが、彼が出来ることはその前からやるように言われていた、紙作りと金銀作りである。

 白金貨を用意するために、白金も用意しているが、それは国全体で使うならば大量に使うため、どれだけあっても必要だった。


 アーレンゾ公爵と、ゼーレン伯爵――アルの義父――は、王国から独立しようとしているのであった。



「そちらに行った際、貴族年金などの金は用意出来ているのか?領地民への食糧は?土地は今きり開いているなら、早い者勝ちではあるだろうが、その点はどうなる?」


 途端に厭らしい話しになりはするが、それも想定内の話である。


「私の能力は金山を操作するスキルです」


 用意してあったスキル内容を話せば、皆、だからだったのだなと言う。

 王族がやたらと外国勢に支払い尽くした、金貨を補てんした理由をそこに見つけたのであった。


 実際のスキルを言うわけにいかず、そう言うことにしたのだが、兎に角アルのスキルがバレるわけにいかなかった。

 国として使えば恐らくは戦争になってもアル一人でその戦況を覆すことも出来なくはない程のものだ。

 実際に調べてみた所、海外で拳銃を購入できたのだ。

 この世界の人間に対してもその威力は衰えない事だろう。


「国を興した後にしてくれ。我らは亡命と言う形を取ろう」


「そうだな、その方が良かろう」


 後の事は任せろと言ってくれた貴族たちに、アーレンゾ公爵は有難うと告げるのだった。

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