貴族編9歳~
閑話21フローラのデビュタント
「アル様アル様、アル様も出られたら良かったですのに………」
「何にだろ?何、フローラ」
どういう事かと思い聞いて見れば、アルが参加の許されない、フローラの貴族としてのお披露目、デビュタントが行われたと言う事だった。
デビュタントだが、これはフローラが行儀見習いに行ってきた先の侯爵家のお嬢様方と一緒に、お披露目をされたのだという。
公爵邸のデビュタントを行える邸と言うことで、公爵邸東の館を使った模様。
もうアルは行儀見習いを終えて戻っていたからその手伝いを任されることもなく、分からなかったのだ。
そうか、良かったねえと言えば、アル様が居ないため質素なものでしたわと言う。
そうか、今まで通りの料理を皆に振る舞ったんだなと思った。
その意図は分からなかったけれど、もしかしたら王族側についている子がデビュタントに居たのかもしれないと思った。
それならば食事でごたつくのは避けたいと思うだろう。
だとしたら頷けるのだが――
「ええ、そうですわね。お父様も行ってらっしゃいましたわ。今回は仕方ないと。なれた食事を戻すのは何ですけれど、それでもレシピを金も払わずに奪われることを避けたと申しておりましたわ」
そこには王族も招かれており――彼らに挨拶をして、正式に成人したことを示すのだと言う。
だがデビュタントに参加した小さな紳士淑女の願う事はただ一つ、少しでも有力な貴族とよしみを結ぶことだ。
淑女であれば可能な限り有望な夫を見つける事。
そして紳士であれば可能な限り有力な貴族のこねをもつ淑女との出会いである。
王都で行われるお披露目式典はそれはもう盛大なのだと言う。
だが、公爵はあえてフローラを次代であると宣言していることを抜きにして、安全を取ったのだ。
自身の元でお披露目をさせて、フローラを危険にさらさないようにしたのである。
それについてはフローラに会った数日前に手紙を貰っていたので知っていたが。
王都で行われる晩餐で、最悪の場合はフローラを亡きものにしてアルを取り込む可能性があると言うのだ。
全くもって度し難い。
何度もフローラがいいから無理ですとあの後手紙で送ったのだが、王族は全てにおいて、12歳までは待ってやるしか回答をしないのだ。
その差出人はあのヒューズ。
彼は自分が王になったつもりでいるのかもしれないが、意味が分からない。
国王陛下に対し訴状を渡していると言うのに読ませていない様子なのだ。
しかも当の本人からは、今は拒否をしているが、そのうち気が向けばそなたと婚姻させると言う事。
つまり、相手の姫巫女と称される女性もこちらに嫁ぐ気があるわけでも無いし、かと言って王族にこのままアルは取りこまれるわけにもいかない。
大体こちらは伯爵家なのだ、なぜそのような話になるのか分からなかった。
「フローラ、兎に角無事で良かったです。踊りはどうでしたか?楽しんで来れましたか?」
「ええ。勿論楽しかったですわ」
何も知らないフローラに、アルは眩しそうな顔をして見せた。
誰もフローラに知らせないのではなく、知らせられないのである。
温室育ちのフローラに教えたら、きっと卒倒してしまうから。
だから何も言えず、じっと静かにしているのである。
ですが、と唐突に口を開いたフローラがはっきりとした口調で言う。
「本当に相手はあの伯爵家の坊やで宜しいのと言ってくるんですのよ。王妃殿下が、どういうことかと思い訊ねてみると、顔を真っ赤にして怒るのです」
「ははあ………そりゃあ、大変だあ」
何がって、そりゃあアルがだ。
まだ諦めてない王族が居たことに驚く。
しかもなにをどう思っているのか、アルをちょっと移動させれば金の生る木だと思ってる節があるのだ。
それはその通りなのだけれども。
何故感づいたか、と言った所で思うのが、きっと今まで王族の使いまくった金を補てんしたこととアルとの婚約発表が内定している時期が同じだったことからだろうかと思う。
多少のずれがこれにはあれど、王族がそんなのを覚えているかは分からない。
だからそう、きっと金を運んでくる子供だと思われているに違いなかった。
だからこそ、手放したくないのだ。
自分達の元に転がり込んでくるだろう金を。
まだ王族と婚姻したいとかこっちは答えても居ないのに、決まった風で行ってくるけど、誰も命令してくることはないし、余程勘違いした王族が多いのか、それとも王族の考えは全て全員が同じだと言う事か、だ。
後者でないことを祈るが、嫌な予感もするため何とも言えないでいる。
「王妃殿下はおかしいのです。私はアルと婚姻しますと言ってますのに、なのに伯爵家だなんて家格が違いすぎると、こう言うのです。別に気にしませんわと申しましたら出て行けと言われたのでお父様の元に戻りましたの」
「へえーそりゃあ」
見たかった。
等と不敬な事を考える始末。
招待されたお披露目の会場に、王族は我が物顔かよ、何を考えているんだとアルは頭痛がするようで、額に指をあてて痛む頭痛に悩むのだった。
「お父様に言った所、今度は王妃殿下がどこかに連れて行かれて、それでお開きになったのですわ」
公爵つっよ。
何があったか分からないが公爵がとても強くてきゅんとした。
私も今後何かあった時は庇って貰えるかな?と考えていると、公爵がフローラの部屋に入ってきてこう言った。
「婚約発表を早めにしてしまうぞ」
その顔は激昂していて、もう時間が残されていないことをアルはこの日、思い知ったような気がした。
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