閑話20奴隷について
この世界では、貴族としてのお披露目は、8歳から15歳の間に行う。
つまりはそのお披露目になると言うことで、そろそろ戻りなさいと行儀見習いの過程が終わったことを告げる連絡がやってきた。
「なーんか終わってみると早かったな1年間?な、そう思わないか?」
ジルクに言われ、ミーンが笑いながら言うのだ。
ああそうだねと。
「終わってみれば短かったけれど、毎日結構大変だったよ」
地球に居た頃でこう言った習慣があったのかどうか調べてみた所、イギリスであったらしいと分かった。
そして、貴族の若い女性を侍女として雇いいれて貰い、侍女となった女性の結婚に箔をつけるのだそうだ。
成程だからジルクたちはあんなにも公爵家で働けただ何て素晴らしいと、嬉しそうに言っていたのかと得心が言ったものだった。
どうせ働くなら自分の居られる家格で一番いい家に行きたいものだろう。
道理でねえと一人ごちていれば、アルの方を叩いたジルクが、なああれは?と言うのだ。
何だろう?
「アル様ああああ、アル様あああああ!」
「ヨハネス?何だろ?ちょっと行ってくるね」
「いや、御前の連れだとは思うから、俺等も行くよ」
ヨハネスは廊下の端から、駆け足で来る。
何だろうと思っていれば、ヨハネスに合流したアルはとんでもないことを聞かせられたのだった。
ヨハネスに連れられてやってきたアルは、新市街地で行われているある行為を止めさせたい、つきましてはアルにお願いしたいと言うのである。
一体なんだと思っていれば、つまりは扉の撤去を求める声が続出していると言うのである。
扉と言えば、アルの扉だろう。
どういう事なのだろうか?
急いでキックスクーターでエンジンをふかしてすっ飛んで行く。
するとそこには、扉を壊そうとしている連中が沢山いたのである。
「どうされたのですか?一体何を………」
「これは………アル様これはですね」
罰の悪そうなと言うより、壊すより先に見つかってしまったことを困っているようにも戸惑っているようにも見える。
一体どうしたことなのだろうか?
「その先は全て神々のおわすところです。それなのに扉を壊そうとだなんて不敬ではありませんか? 即刻やめてくださいませ」
アルがそう宣すると、公爵領の面々が口々に言うのだ。
「神ではないと思うのです………あれは、神であってはならないと」
「何故ですか。本物の神様ですよ?それは見て分かるでしょうに」
「分かる、分かりますが!あってはならないのです!!」
「神に私たちが唱えた言葉がありました。それは神の言葉でしたでしょうかと、何気ない言葉で聞いたのです。すると神はこうおっしゃいました」
『我々はあなた方に何も求めてはいませんよ。ただ、魔力を奉納してくれる可愛らしい子達には、それ相応の事をしますが、あなた方はここにきてものを彼らから強請るだけですから、もう少し………とは思いますが』
『そうですね、我々は人に差を作りません。指導者と言う意味であるなら使徒であるアルが居るでしょう。ですがそれ以外に差等設けて居ないのです』
そう言われたと言う言葉を受けて、何を聞いたのか分かった気がした。
「だったらなんで奴隷にあいつはなって、殺されたんだ………」
そう聞いた所、神はそれは人の理だから仕方ないと言うのだ。
奴隷差別によりつらく当たられ続け最後は奴隷解放されたが殺された友人が居た者達だったのである。
「それは――」
「うわあああああああああああああああああああああ」
大の男がボロボロと大粒の涙をこぼし泣きじゃくっている。
頬から垂れる涙をぬぐうでもなく、空を仰いで泣きじゃくる。
そんな彼を皆でポンと肩を叩いて慰めるのだ。
「国が悪いんです。私、勉強しました。他国では奴隷は墨を入れず、普通に借金奴隷は借金を返したら自由になっています。つまり、この国が自分よりも低い地位を作り、そこに怒りや憎しみを吐き出すようにしているだけなんです」
つまりストレスのはけ口になっているんだよなと言えば、ヨハネスは首を傾げている。
「ストレス?」
「怒りや憎しみを感じている時とか、痛みを感じている時とかに辛いって思うこと、かなあ?」
「成程、ストレスを吐き出す先になってる。確かにそうですね」
「国が悪いと言うより、あの王族が悪いんだろう?なあ、戦争をしたいとは言わないよ。けれど、あの王族を放置していくのはいいのか?」
増税に次ぐ増税、更には奴隷に対する処置もある。
他にも貴族の婚姻を王命で勝手に変えた事は数知れず。
王族に匹敵するほどの権力を手にしないように、王命で貴族の婚姻に口を出してきたのだ。
「放置していくわけではないですけれど、きっと戦争になるかもしれません。とは思っています」
それほどまでに彼らは我々を邪魔したがっている。
そう思えるほどだった。
「俺、あいつらを処刑台に送ってやりてえ」
「俺もだ」
「俺も」
「それも分かるけれど、奴隷差別をするのを止めるように、君たちから言ってほしい。分かるだろう?もう――」
アルがそう言うと、皆何とも言えぬ表情の後、苦いものを抱いたまま笑みを浮かべたような顔を見せた。
「ああ、勿論」
「勿論だとも」
ジルクとミーンから、お帰りと言われ、アルは笑顔を浮かべた。
だが、その顔はきちんと笑顔になっていたのかどうか、分からなかった。
新市街地の者達と同じように、笑顔は作れていたのだろうか?
アルにはそれを確かめるような心境ではいられなかったのだった。
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