閑話19私の白金貨
インフラ設備を充実するために、後必要な事といったら、学校だろう。
と言うよりも病院、新市街地ときたのだから、今一番重要な施設はそれだろうと言っても過言ではない。
ダム建設も考えているが、ダムを作る前に、魔獣の森から水が湧いて出て来るところがあるため、そこを奪いに行かねばならないため、先に出来る方だけでもやっておきたいのである。
それこそ王族たちにばれないように、慎重に事を運ぶ必要があった。
「私思うんですけれど、気にしないで進めてもいいように思います」
アルはいった。
するとアルの言葉を受けて、途中でそんなのならんとかいわれて邪魔されたらどうする?と言う公爵の声でアルは口を噤んだ。
そんなこと言っても、捕まる事ではないのだから、良いのだと思うのだけれど。
せめて戦える人材がもっと多ければそれは如何にかなるのだがなと言う公爵に、アルは考え込んでいる。
そもそも学校の教師は貴族がなるものである。
つまり、戦える人材ということではないか?と思った。
「まあ、戦う能力が凄くあるからと言うなら魔導騎士団に入りますよね、どこでも」
「そうだな。教師は戦わぬからこそ教師だ。何かあれば戦いもするだろうが、基本戦う人材に数えん」
「はい」
王都などの貴族で、三男以下の子供がいるならば貴族として遇すると伝えて呼べばいいかと言う公爵に、伯爵も同意する。
確かに戦えるし、何と言っても貴族だ。
功績を持って領地を切り開いて与えるならば、ちょうど今の時期ならば問題ないだろうと言う事かとアルは考えた。
つまり公爵も伯爵もこう考えているのだ。
現在、開墾を進めているのは公爵領のみだが、結論魔獣の森を全て更地にしてしまいたいところなのだ。
森があるから隠れる場所があるのだから。
山の付近まで削ってしまうなりして、森を植林で移動することも考えている。
そうすれば、土地はむしろ余るほどになるだろう。
つまりはそれを与えて功績を称えようと言う事だろう。
流民と共にやってきた自らを亡命者――まだ立国していないため亡命にならないが――だと言っている、複数の貴族も居た。
彼らでもいいのだろうと言える。
――つまり、現状それが取れる最も有効な手段と言えた。
そう言う事だろうと正解か尋ねれば、ノーコメントだが良く出来ましたと言ってやろうと公爵が頭を撫でてくれた。
だだっ広いだけの領地では、治める人材が居なければ結局無意味なのだから、ちょうどいいのだと伯爵が告げた。
因みに余談だが、ノーコメントですと何度かアルが答えていたため、意味を問われてから、公爵が面白がって良く使うようになった言葉がノーコメントであった。
「他にも思う事はありますが、まず行いたいのが、魔法学校をこちらに作りたいじゃないですか」
「そうだな」
「そうなってくると、王都にあるのは貴族学校。つまり魔法学校ではないので、異国に学びに行きたいのですけれど。どうしたらいいでしょうか?」
「それについてはお前たちを留学に向かわせる時に、余ってる教師をこちらで雇いたいと提案するつもりだ」
ここら辺の言語は全て統一言語で良かったと思うよなと言われて、そうなのかとアルはまた初めて知った情報を心のメモ帳に書き込むことにした。
これだと言ってこの周辺の地図を広げる伯爵。
伯爵の手の物に、周辺の情勢と共に調べさせた情報が乗っていた。
「アル、よく見なさい。ルッチェロと言うのが我々の王都より、上にあるね。これは方角的に北を指す。北にあるのがルッチェロだ。 この国に魔法学校に留学するなら行くことになる。他に行くとしたら、その西にある国、マーダリでもいいだろうが、ここは治安があまり良くない。 留学生をよく見てくれる学校ではないのだと言う。 高い金を支払う留学生は、遊びに行く先で興行の盛んなマーダリに行くそうでな。お陰でここに行くと決めたら高い金を払って損をするような教師しか付けて貰えんらしい。だからルッチェロにお前たちは行くことにする。分かったな」
「はい」
ルッチェロが王都より北にあり、その西にあるのがマーダリと言う国。そしてルッチェロの東は断崖絶壁の海側となってると。
船を出せないと言う事が分かっただけでも有難い。
つまりは海から色々なものを持ち込めるのは、この辺りではこの伯爵領以外ないと言う事である。
塩が高く売れそうである。
事実ルッチェロには此方から塩を売りつける立場らしいが、塩を何故か王族は安く売ってあげていたのだそうだ。
あれだけ胡椒と砂糖を高値で売りつけて来られていたのだ、安くする必要はないだろうに、無ければ死んでしまうのだからと安売りしたか――?
何であろうと、今後は窓口は此方になるのだから、構うものではないだろう。
「――と言うことで、塩は今までの値段で買いたたかれることも有るまいと言う事だな」
「安く買いたたく王族に売る必要もありませんからね。売って欲しかったらそれ相応の事をしてください。他国になりましたのでと言えますからね」
「ああ、そう言う事だ」
ともあれ、王族の煩わしさと縁切りが出来るのであれば――と言う事だ。
此方に流民となった王都民を連れてきた王都のアーレンゾ派閥の貴族――らしく、法衣貴族ばかりがやってきている。
彼らにも土地持ち貴族になれると話をしているらしく、開拓を手伝ってほしいと言ってあるのだ。
魔水晶で王が居ない中、亡命するために彼らは必死になって荷をかき集めてこちらに来たと言う事を言っていたのだそうだ。
フライング亡命をする前にそんな魔水晶の通信を使った会話があったというのでは、相当王都は今、しっちゃかめっちゃかなのではないかな?と思う。
一人は邪魔をしてきそうなものを殺してまで来てくれたと言うことで、彼らは一時期盛り上がってそりゃあ大変なものだったのだ。
兎も角、皆無事にたどり着いたらしいから、良かった。
流民となった王都民もこちらに旧市街地があるため、そこで生活をしているが、そこの生活は中々うまく行っているらしい。
そのためそのまま定住でいいかと思われている。
さあ、頑張って開拓である。
アルも開拓には手伝いを出している。
それこそ魔法を使ってだ。
開拓するのに魔法は大層便利であって、魔法使いは重宝されていた。
地面を均すのに、木々を薙ぎ払うのに、魔法が便利なのである。
そんな薙ぎ払われた後は、森を整備するのはアルの仕事であった。
森になる範囲を決めて、そこに苗木を買ってきて植えるのだ。
全て食べられる果物が出来る木にした森もあれば、紙を作る和紙の材料の場所もある。
必要なものを大量に揃えるのはお金に困ってないアルがやれと言う事だった。
何で私の金を当てにする?と思っていたら、「どうせその金は使えなくなるから使っとけ」と言うのである。
だからアルは言ったのだ。
白金貨で80枚くらいの資産を持ってる私から巻き上げたんですから、それくらいは出してくださいね、と。
地球規模で考えると焼く80億円だ。
無駄遣いを時折しているが、それでもそれだけの貯蓄があったアル。
どうせお前の金塊から金貨を作るからサービスでもっと色を付けてやると言われて、アルはそれなら90枚くらいにしてくださいと言う。
阿呆と頭を叩かれた。
けれど100枚にして返してやるから働けと言われたのでバリバリ働くつもりである。
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