閑話18新市街地と旧市街地 続



*****



 病院を公国の城下町となる新市街地に建設中である。

 ここ以外に、旧市街地にも建設中である。

 病院があっても中が空っぽでは意味がないと、医者を呼んでいるのだが、中々数が集まらないそうだ。

 今は3名程集まったと聞いている。

 治癒術を持っている貴族がこれに相当するかと言われるとそうではない。

 治癒術が出来ること――怪我しか直すことが出来ないのだ。

 だから医者は絶対的に必要なのだ。

 そして薬師や錬金術師もまた、必要とされていた。


「私はとりあえず魔導具科に入りますが、錬金科ってないのですよね?」


 ヨハネスは私の時はその三つだけでしたよと言う。

 そうなのだ、ヨハネスはアルが行く予定の学校に言った事があるのである。


 だからこそ錬金科なるものがあればそこに入りたいと言うアルに、ヨハネスは首を傾げる。

 そう言えばどこかで聞いたことがあるぞ――と言うのだ。


「どこで?もしかして国内の学校とは違うところで?」


「ええ。異国の学校です。現在話している言語とは異なるので、大変かと思いますが、やる御覚悟があるのであれば、行くのも良いかと思われます」


 ですがついていく私が大変そうですねと言うヨハネスに、付いてきてくれるんだなとアルはご満悦だった。

 嬉しいと全身で表現するように、アルが飛び跳ねて喜んでいるのを受けて、はしたないですぞと言うヨハネス。

 彼は咳払いまでして照れくさいのを隠していた。


『おやおや?どうかされましたか?良いことでも?』


「ええ? 久しぶりですね!片眼鏡の男神様!」


『ふふっ、何です、私に会いたかったのですか?』


 それならば今度聖域で会いましょうと言う男神に、アルはそうだと困っていることを聞いてみることにしたのだった。


「こちらで新市街地と旧市街地を作ったのですが、食事が足りぬようでして、食料を得るための馬車を出せぬのです。どうしたらいいでしょうか?」


『でしたら簡単ではないですか。聖域と門扉を繋いでおしまいなさい』


 どういう事かと思うけれど、男神はいたって真面目だ。

 話を聞いてみて分かったのだが、聖域では野菜等が通常よりも早く実るのだと言う。

 であればそこに皆を出入りさせてしまえばいいと言うのだ。


「どうやってですか?だって、私が触れなければ聖域にはたどり着けませんけれど……」


『そこは簡単です。出入りを直ぐ出来るように扉が置けるようになりましたので、元奴隷の者達が村に暮らしておりますでしょう。そこと取引させれば良いのです』


「あー……出来れば確かに凄い事だけれども、誰でも入れるようになったら牛とかを連れ去ってしまいそうで困りますよね?」


『そこは事前に扉にこう言った聖域ですから、何をしてはいけませんよ。神のおわす土地ですからと書いておきましょうね。そうしてそれが守れない者は全て二度と出入りできなくなります』


「それは………便利ですね」


「それですが、宜しいのですか?選ばれたもの以外は出入りできない方が良かったのでは?あそこは金塊も取れますし、手癖の悪い者が入ることが多くなりそうです。大変ではありませぬか?」


 ヨハネスに言われ、そうだよとアルも大きな声を上げてダメダメと首を横に振って拒否をする。

 そうだ、確かに言われた通りだ。

 妙な人選を避けてきたのだから、それを守れないものなど入られては困るのだ。

 だから危険を避けたいが――男神は言うのだ。


「だから我々がずっと見張っておりますから、大丈夫ですよ」と。

不安しか残らないが、アルは一度公爵に話を持っていくのだった。


「いいんじゃないか?」


「本当ですかあ?だって、危険じゃないですか。妙なのが入られたら金塊持っていかれてしまいますし、宝石ですとかも」


「だがそう言っても、食料が足りぬのだろう?物資をこちらから輸送しても足りぬのだから致し方あるまい」


『そうですよ。それに気になって仕方ないのであれば、鉱山関係は全てアル君しか入れなくしてあげますよ。それでも気になりますか?』


「他には薬草園を荒らさないで欲しいからそこもですし、村と街の住人に危害を加えたりしても駄目にしてください」


 他にはええとと考えるアルに、本当に皆のことばかりですねと苦笑しているのだろう、声音で男神が告げた。

 そんなあなただからこそ、こちらが皆手助けしようとするのですよと。



 こうして聖域が一時的にだか恒久的にだか、開かれた場とされることとなった。

 そこで妖精を見たもの達は、本当に居たのだと感激し、村の教会に行けば神像が動き出すため畏敬の念を抱き――楽しく新市街地は過ごせるようになったのだとか。

 それを受けてアルは心配しただけ損だったのかなと言う。

 皆基本的に扉にかかれた言葉を守っていたからだ。

 妖精を害さない事から始まり、神に魔力を奉納する事もあった。

 全て毎回復唱してから入る者達ばかりで、悪さをするものは今のところ居ないのだと言う。


 そして出入りするようになったものは、中で何か言われたらしく、アルの姿を見ると拝んでくるようになったのだ。

 何故だと思っていれば、どうやら神の使徒であると言われていることがばれたらしい。

 違うんですそんな御大層なものじゃないんですと言う物の、ありがたやと拝むおばあちゃんは止めるわけもなく――


 こうしてアル達は新市街地の整備に人手をこれ以上さくことなく、進められることとなったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る