閑話18新市街地と旧市街地

 休みの日を与えられたアルは、城下町で何が必要か調べている。

 旧市街地は、新しい流民たちであふれかえっていた。

 どの顔も税が軽くなると言うことで、嬉しそうだ。


「どこから来たのか聞いたのですか?」


「唐突にどうしたね、アル。彼らは王都民だったそうだよ。それがこちらにやってきたのだな」


「なるほどねえ」


「王都で農民をしていた者が多いようすだが……はてさて、何を言われてきたのやらと思ったが、面白いことになったのだよ」


「面白い事?」


 伯爵の居る家に戻ってきたアルは、キックスクーターで戻ってきていた。

 色々と考えるとポニーが早いだろうが、キックスクーターはエンジンが付いているタイプだ。

 燃料を入れれば動くので、ガソリンを大量に赤いドラムで購入したのだ。

 これから移し替えてやれば問題は無かった。

 排気ガスも自分一人なら問題なかろうと言うことで、アルは一人伯爵の元へ帰ってきたのである。


 伯爵に、必要なものを調べてきたと言って、一覧にして提出して見た。

 主に食料、住居、そして仕事だった。

 これは最低限必要なもので、到着したばかりの流民たちにはない物でもあった。

 他には奴隷たちと流民との間に差別問題がある事だろう。

 だが、奴隷は全て公爵の持ち物だ。

 それなのに文句を言うのだから相当差別は根深いのだろう。

 怠惰だから奴隷になる、だがこう言った教えがあったとしても、事実ではないだろうと言える。

 本当に怠惰であったならば、奴隷になる前に借金苦で夜逃げでもなんでもするのだから。

 そう言った夜逃げした者が生活苦からの盗賊に身を窶すこともするだろうと思えば、怠惰の一言で片づけて良い物ではないと思う。


「アル、兎も角奴隷問題は公爵がやることだから、任せておきなさい」


「………分かっていますが、辛いですね。私はそうじゃないと知っているから」


 人目を避けてここまで来たアルだが、通常30km程度離れているところ――公爵邸から――ガソリンを給油なしでここまで一度にやってこれたのだ。

 それも時速40kmだ、アルがまだ馬に乗れないことから行っても、便利と言うより無いだろう。

 領主の館を近くに作っておいたからこうなっているのだが、本来どちらも領地が広すぎるほどなため、もっと離れていたらたどり着くのに時間がいっただろう。

 それを考えると、何代も前の領主たちに感謝を捧げたくなったものだった。


「アル、ところでそのバイクと言う物を私にも乗らせてくれないかね?こちらでも使いたいのだが」


「使ってもいいですが、ヘルメット着用で、しかも護衛を付けられませんけどいいのですか?」


 伯爵はどうしても同じモノに乗りたくて仕方ない様子だが、そんなことを言っても無理なものは無理だ。

 護衛騎士が沢山つくのだから、そう言っているのに伯爵は一向に引かず、アレコレ行ってくるのだ。

 だから、大丈夫だよね?と。


「護衛もそれを使うとなると相当な金額かかりますけれど、良いですか?」


 諦めてそう言えば、伯爵は笑顔を浮かべて喜びを全身で表した。

 一台は大銀貨1枚である。

 そのため護衛もこれを使うと言うのであれば、燃料の入れ方などを学ぶ必要があった。

 何と言うか面倒なと思わないでもない。


 15台程揃えてみたら、安い安いと嬉しそうだった。


「ヒューズ殿下とか、ここに良く来られるわけじゃないですか――と言っても実際は公爵領ですけれど――絶対に見つからないようにしてくださいよ?」


「ああ、分かっているよ、安心しなさい。使うのは邸の中庭の中だけにするからね」


 ワイワイと嬉しそうな声を上げる伯爵一行に、アルは苦笑気味だった。

 そして「大きくなったら125ccくらいのバイク買うつもりだけど言わない方がよさそう」とは、言えないでいるのだった。



*****



 バイクでぶろろろと爆音をさせて行くのもいいが、キックスクーターで小さなエンジン音をさせているのもいいだろうと思う。

 旧市街地から、新市街地に移動すると、アルは新市街地でも何が足りないか調べて行った。


「こちらは仕事も食料もあるってことですが、全て城下町で何とかなるとしても、食料は人の出入りを極力なくすんですから、届ける必要がありますね。ビタミンが足りないでしょうこれ」


「びたみん?なんです其れ」


 ヨハネスもキックスクーターに乗せてこちらに連れてきたが、荷物が乗らないのが難点であると思った。

 仕方なしにリュックサックに皆でものを詰めて持ってくるが、それで運べるのは少量だ。

 どうしたって物資の輸送が出来ないのが難点である。


「困ったな、どうしようか」


 外でらい麦畑や小麦を耕していたいと言ってる者達も居るが、それを耕せるのは、畑のある小領地を囲ってからだ。

 まだそこを囲って門扉で内部を繋いで居ないため、まだ出来ないでいる。

 仕方ないので魔獣の森内部でひっそりと皆過ごしているのだった。


「健全じゃないですよね、これ。ですが最低でも私が10歳になるまではそうなりそうってことですけど、出来るんでしょうかと、本気で不安になってきたんですよ」


 けれどヨハネスは言うのだ、大丈夫ですよ何とかなりますと。

 何故そう思うのか尋ねてみた所、皆最終的に亡命してこちらに来るつもりの様ですと言うのだ。

 バカバカしい、こんな国では生きていけないと、クーデターを起こそうとしていたところ、まさかの独立を公爵がするならば、皆独立する者についていくと言うのである。

 そしてついて来ない者は、鼻からこの話を齎されていない王族に腰ぎんちゃくでくっついている者達だけ。

 成程と思ったが、それだからといって、インフラ設備が整ってない中に、移動である、それは大変だろうという物で――


「兎も角やれるだけの事をやります。頑張りましょう」


 アルは言うのだった。

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