閑話17植林とコンクリート

 岩を長方形に整形して、綺麗になった所で、アルは右に渡すを繰り返す。

 右側にはノールがいて、綺麗に整形された物を見ては、okを出す係だったりする。

 これを最近は暇さえあればやっている。

 それも工作スキルを持っている者達が集まってせっせとこれをやるのだ。

 貴族の仕事じゃないよと言いながらアルはやる。

 何でこんなことやってるんだろうと言えば、これは他国との境界線だ、必要だからやるんだと言われれば否やはない。

 だが、きつい。

 心底きつい。


「因みにこれ、何やってるんですか?」


「なんだアル、聞かされてないのか?」


「ハイ。何のために?」


「堀の為だ。他国との境界線の掘になる。後は領主の居城の分となるぞ」


 そう言われ、アルはとてもがっかりした。

 そしてその場を即離れ、ダッシュで公爵と伯爵が会談をしている場に突っ込むのだった。


「コンクリートにしましょう!!!!」


「なんだあ?」


「面倒くさいから、コンクリートにしましょう!!」


「???」


 二人ともわけのわからないと言った様子だったが、コンクリートで作った壁を用意して見せると、何のことはない、これでいいではないかと言うのだ。


 とりあえず領主の館だけではなく、領地全てを囲うための塀を作るのだから、大変である。

 兎も角現状の領地を一囲いぐるりとするために、セメントを自由貿易で取り寄せ、セメント1、砂3、砂利6で混ぜることに。

 比率さえ守れば何とかなるのだから、セメントを大量に取り寄せて行おうと言うことに。

 河川のある地域より、砂を大量に取り寄せる。

 そして一気にこれを作って流し込んでしまうのだ。


「もうちょっと早く知りたかったが、まあいいだろう。四角くなった石は石であれも使い道がある」


「ええ、使ってください。時間かけて作ったからあれもあれで面倒がらずに使ってくれると嬉しいです」


 四角く削った石を、今度は全て領主の館ではなく、王城に使用するために、皆張り切りだした。

 王都の王城よりも余程頑丈で豪奢にするんだと張り切っていた。

 お陰でアルはセメントを用意し、砂を用意し、砂利を用意するなどしながら、気が付けば石を四角く切りだす仕事も行うのであった。


 解せぬ。

 仕事が一人だけ多いぞ、解せぬ。


 アルの頑張りで、塀は15mほどの高さで出来上がった。

 それくらいあればいいだろうと言う事だが、お陰で相当な分厚い壁になったのだった。

 この世界基準で考えるならば、高くて5mくらいとなっているため、ゆうに三倍ほどの高さがあった。


 これを魔獣の森から現在、開拓をしているが、そこで新たに切り出した土地に作る塀となる。

 旧市街区と、新市街区は門扉と石畳で繋ぐ道がある。

 その途中には小さな村も沢山あるので、これも塀をちょうどいいからと立てていく。

 森が門扉の外にあったりするところから木々を用意しては、乾燥の魔術を使いカラッカラに乾燥させてそれを支柱として、コンクリートを打っていく。

 竹があるなら竹を支柱としても良かったのだが――直ぐに生えてくるため、こちらの方が使い勝手がいいだろうと言うことでだ。

 木しかこの地方にはないため仕方ない。

 後で竹を輸入しようと決めたアルだった。


 兎も角頑丈な居城を立てていくアルに、周囲は「やり過ぎ」と言う事が多くなってきていた。

 確実にこちらが現時点で王都と言っても過言ではない大きさだ。

 城を立てたのは、魔獣の森を切り開いた土地。

 そこに城を立てて、森でその姿を隠したのだ。


 そして通常の森が欲しいため、アルは沢山の木の苗を持ってきて育てることにした。

 石畳で出来た道路の脇に木々を等間隔に植えていく。

 植林が済んだら後はそれが大きく育つまで、緑の加護で促進していく。

 すると大体これを行うだけで、木々が十数年生きたくらいの太さになるのだ。

 緑の加護さまさまである。


 太く太く成長していくのを見て、アルはやっぱり自分だけ働き過ぎだと思った。

 おかしいだろうと思うが、公爵領で現在行儀見習いに来ているのだから、仕方ないと言える。

 ジルクとミーンは何をしているだろうか?


「せめて同じくらい働かせられていますように」


 アルはそうやって御祈り()をしておくのだった。



 アルが御祈りをした効果があったか分からないが、ジルクは洗濯のための水を汲む作業をさせられたらしい。

 大変な作業だったと言う。

 水は汲んでも汲んでも終らずに、ミーンと交代交代でやったが大変だったということで、二人とも身体中が痛くていたくて仕方ないと言うのだ。

 アルはそこからそこまでと言う終りが見えない仕事をしていたが、どちらがいいのか判断が付かなかった。

 兎も角今日も終ったと告げて、三人で泥のように眠るのだった。



 因みにこの世界、当然だが灯りは魔力で灯す光だけである。

 その為皆早寝早起きが基本であった。

 更に貴族は午前中で仕事が終わるというだけあり、大変なのは元老院で出席して仕事をしている当主だけ。

 自領の仕事は午後の手すきの時間にするものであり、皆それはわきまえていた。


 公爵はそのため、遠隔で出席できる魔水晶を持っていた。

 その魔水晶は、遠隔地に同じ魔水晶があれば、銀板に自分の姿を映してくれて、リアルタイムで話が出来るようになると言う物。

 これを使って元老院に出ているのが、遠隔地の貴族であった。


 お陰で何でもかんでもこっちに押し付けられるんだよと言われると、アルはそうなのか、大変だなあと思ってしまった。


 そんなある日のこと、ようやく新領主の館――もとい、公国王城と城下町を作ったため、そちらに代官を置いて先に暮らさせることになった。

 矢張り人が住んで居ないと家と言うものは脆くなると言われるので、人を先に住まわせるのだ。

 勿論こちらにも人を住まわせるため、一時的に旧領地には奴隷だらけになったという。

 奴隷を家に住まわせて、その分の家持ち達を全て新領地に引っ越させた。

 そして新たに流民がやってきたのをそれも、奴隷と共に暮らさせたという。


 どうやら王都の者達だと知ったが、そんなことは構う事はない。

 王家に腰ぎんちゃくのようにくっついて、うまい汁を吸っている者達だけが残れば良いと言う公爵に、伯爵は苦笑気味だ。

 そんな事は難しいだろうと分かっていても、彼らだけが残ったら面白いのにと思ってしまうのだった。

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