閑話15金山の要求
「まず、紙を作る方法を教えるとなると、どうなるか考えたんですが、お義父様。もしかしなくとも今教えるとなると、それは王家に乗っ取られますか?」
「まあ、技術ごと奪われる可能性もあるか……」
「それでは駄目ですね。であればその後になりますが、もしくは内緒で行っている金貨製造と同じようにするのはどうでしょうか?金貨と同じ価値が紙製造にはありますから」
と言ってアルは伯爵に湖畔の近くに紙工房を作らせた。
紙の作り方は、勿論アルが自由貿易から得た知識で監督している。
最初は10人の職人から紙作りを行うことになった。
これが【アルが12歳になる前に行う事】。
だが実際には計画としてはアルが11までの間に、独立後、運用開始となる計画がなっている。
だが、そう上手く行くかと言われると難しいかもしれないとアルは考えていた。
紙をすくことが出来るのは、温かい時期。
ならばこの地域では問題がないだろうが、冬の手仕事としても出来ないかというのである。
それは難しいと言わざるを得ない。
冷たい水で作る事は別に難しいかと言われれば難しくはないだろう。
ただし、手先はあかぎれになり、かなり痛々しいことになるだろうとは思われる。
その為厳しいと言わざるを得ない。
金貨を作り、銀貨を作り、銅貨をとかして新しい型で作り――準備は着々と進んでいた。
けれど職人を育てるのはそう生半な事ではない。
一朝一夕では何ともならないのだ。
ゆっくりと印刷機を作り、紙工房で紙の量産を進め、これが日の目を見る日を夢見て皆動いた。
そんなある日のことだった。
王族がまたも外遊と称して他国へと足を運んでいるというのだ。
因みに王家直轄領は、最も重税が課せられているという。
だが直轄領だけあり、金を配るわけにもいかず、人目もあるためそれも出来ないと公爵も伯爵も、半ばあきらめ気味に放置しているのだという。
そんな中の豪遊である。
外遊中はいつだって金をばらまいてくるだけばらまいてくるのだ。
そしてその付けを国民に押し付ける。
断固として許容すべきではない行いであると言える。
「どうして分かっていただけないのでしょうね」
「ああ、分からない。だが王族の方方に今は何を言っても無駄なのだ。兎も角自領だけでも救えればいいと思うよりほかない」
「そう、ですね………思うのですが、最悪直轄領以外をこちらに引き込めない物でしょうか?」
「それは――夢でしかないだろう。絵空事だ。私たちが出来ることは独立をすること。そしてそれについて来れるものだけをついて来させれば良いのだ。それに、元より誰も彼もが自分の生活を捨てられない物なのだよ。それも良い生活であればある程な」
「……はい」
「だから、無理にこちらに連れてこようとしてはならない。そうだろう?」
「そう、ですね………」
でもアルは思うのだ。
皆がこちらに来たいと言えば、来れるようにしてやりたいと。
だからこそ、きちんと街を整備したいと思っていた。
それに――最悪、かどうかは分からないが、アルの聖域の村か街に呼べば良いのだ。
それだけで彼ら民草は生きて行けるようになる場所が得られる。
それも魔獣に怯えることのない、住環境としては現状最も整備されている家にだ。
だから何も悪い話しではないと思うのだ。
2人が話しをしているところはサロンなのだが、そのサロンに人が訪れる。
パーラーメイドが二人分と新しい客人の分のお茶を入れ直してくれた。
現れた人はノールその人だった。
ノールが二人の座しているサロンの寝椅子の正面に腰掛ける。
一人用の猫足の布の張られた椅子である。
因みにただ布が張られただけなところにクッションがある椅子なため、あまり座り心地は良くない。
先程話していた話の続報を持ってきてくれたらしい。
「侯爵領が二つこちらの独立を了承をしてくれたとのことです」
他にノール曰くだが、伯爵家一つ、男爵家二つが了承の旨を返信してきたという。
他は聞かなかったことにしたいと言っている領地もあるそうで、ノールとしてはどうすべきかと聞きに来た次第であった。
「聞かなかったことにしたいと言っている領地があるか――放置しておきたまえ」
「宜しいのですか?知られていますが」
何か悪いことをされるのではとノールは不安げだが、別段独立されて困るわけではないだろう――実際は納税が減るなど国としては困る部分も出て来るだろうし、領地そのものが減るのであれば困りもするだろうが。
むしろ、普通は独立する側が困るわけで――だからこそ皆独立を躊躇うのだから。
大体が、クーデターを起こすよと言ってるわけでもないのだ、知らんふりをその時まで貫くと言っているだけなのだから、別にいいだろう、そう言う事だった。
だがノールは不思議そうな顔をしている。
何かあったのだろうか?
そう思い伯爵は訊ねてみたところ、とある貴族が黙っている代わりに金山の権利を寄越せと言ってきたというのである。
「なにを馬鹿な事を。冗談であろう」
「冗談ではないですよ?本当なのですけれど、黙っていてやることは相当なる悪事を黙っていてやるのだからと言っているような様子でしたから。ですから思ったのです、これは仲間にならなかった者がばらしたら大変な事になるのではないか、と」
「別にならんよ。むしろそうされて困る事もあるまい。実際にその話が漏れたら最後、どうなるかは見ものぞ?」
「そうですよね。そして土地が足りず受け入れられない場合は私に任せてください。聖域にて迎え入れます」
「成程、それも良かろう」
「???」
ノールだけが分からないと言った様子で――実際にはアルもだが――話は幕を閉じたのだった。
*****
≪???視点≫
「話しを黙っているだけで、金山を要求したのですか?」
いやはやそれはぼり過ぎでは?と言われ、肩を竦める。
それはぼり過ぎというが、王家にあだ名す行為ぞ。
それくらい黙っていてやるのだから、貰って当然というものであろう。
本気でそのように思っていた。
だが待てど暮らせどあちらから返事はなく、返事を催促して見れば、そのようなもの渡せるべくもないが、そもそも金山を持っていないとの回答である。
「金山が無ければどこであの金塊を用意してきたというのであるか!!」
ダンッ、壁を思い切り叩きつけたところ、腰壁から壁が崩れ出したのが分かる。
金山が手に入らぬというのであればもうよい。
ならば本当に話をばらしてしまえば良いのだ。
王家に奏上をすべく、王都へとひた走る。
馬車が故障したため、途中の領地――レナントス伯爵家にて宿泊することとなった。
そこでレナントス伯爵に件の話をしてみれば、驚いた様子であったが、成程と頷いてもいた。
反応としては悪くはないと思った。
何故なら私が「かの領地は独立すると言っている。なればこそ金山で黙ると言いましたのに、それを突っぱねたのですぞ。今まで散々とかの公爵や伯爵は甘い汁を吸ってきました。それはもう! 何が魔獣の出る地ですか。だからと言ってあれだけの優遇措置を得ているのはおかしいというものです!そうでしょう!」という言葉に対し「そうであろうな。皆そう思っていたのであろうか。なれば独立やむなしか」との一言をいただいた。
独立やむなし?には疑念があったが、「居なくなってくれた方がそなたも良かろう。公爵の爵位が一つ空くやも知れぬぞ」と言われれば疑念も晴れるようだった。
確かにそうだ、であればやる気も増すというものよ。
私は彼の君の仕出かした個人の財をため込んでいるという噂まで、事実であると嘯いてやった。
どうせ構うものか、全て暴露してしまえば良いのだ。
すると次の日渓谷に差し掛かった馬車が何者かに襲われ――私は渓谷の下に真っ逆さま。
何とか命は長らえたものの、額から流血しているのであろう、ぬるりと額を熱い血潮が覆っていた。
馬車から這う這うの体で出てきたら、真っ暗な視界の中、聞いたことのあるような声がした気がした。
「愚王には愚者しかついて来ぬという事であろうな。領民の元へ行くぞ。時間はどれほど残されているか分からぬ」
最後に聞こえた声は、レナントス伯爵のもののように聞こえたような、気がした。
「愚者よ、よくぞ我が元へ来てくれた。そのことだけは感謝を述べよう。有難うと」
その後、レナントス伯爵領から伝播したのは、私の齎した話しであったという。
領地から出て魔獣の森のある地に向けて移民をするべく流民となる者が増えたのは、私の知らぬこととなった。
「くそっ………良く見えぬ、誰か、誰か………」
「とどめを刺してやろう、情けだ。散れいっ!!」
ちかちかと目の奥に火花が散った。
男は暴力を振るわれたのは分かったけれど、何が起きたか理解出来なかった。
理解するだけの力がもはや残っていなかったのである。
男にはどうして殺されなければならなかったのか、分からなかった。
何故――?その問いかけを最後、男はこと切れた。
*****
そんなわけもねえ
公爵消えたら公爵位を貰えます何てわけもねえ
かと言って爵位が上の方が空いたから、詰まる感じで持ち上がりやすくなることはあるでしょうねとは思います
でもちょいと言われれば簡単に乗ってくれる馬鹿な子でしたということで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます