閑話14男爵家のトゥエリとエリミヤ
≪トゥエリ視点≫
あたしの名前はトゥエリ。
以前は伯爵家の当主になると言われていたけれど、今度は男爵家に連れて来られた。
伯爵家もそうだったけれど、子供が居ない家らしく、何だったら現時点での跡継ぎだと言われた。
つまり、伯爵家では伯爵夫人が懐妊でもしたのかしら?
だからあたしがお払い箱になったのかな?
まあ確かに?
伯爵夫人が妊娠したなら、あたしは不要になるだろう。
だって元から伯爵家の人間じゃないもん。
だから分からなくも無かった。
でもなんでアルと父さんは残るのかが分からなかった。
何でエリミヤ母さんだけが付いてくるの?
何でエリミヤ母さんにはドレスが届くの?
美人だから男爵が融通してくれている?あなたとは違うのよって何?
母さんは、そんなドレスなんて不要だよ!
だってあたしのオマケ何だから必要ないでしょ!!
そう言ったら母さんはいつの頃からか笑うようになった。
男爵様の愛人になったから貰えるようになったのだと。
泣き笑いをするようになった。
何その半笑いで泣くの止してよ。
何で泣きながら言うの。
今までアルがくれていたけれど、それよりも余程いい生地を使って仕立ててくれるようになったのよだって。
どういう意味?
アルが今までドレスをくれていたの?
つまり、それってアルが今まで伯爵に我が儘を言って手に入れていたって事かしら?
そう聞いて見れば、違う違うとエリミヤ母さんは言う。
あんたが馬鹿だから全てあんたに話をしないようにしていただけで、アルがスキルを使って全て用意してくれていたのよ。
ざまあないわね、あんたが悪いのよ。
全部あんたの所為で私はドレスを常に仕立ててくれる息子を失った。
あんたの所為で!!
エリミヤ母さんの言ってることは支離滅裂でよく分からない。
大体あたしが来るのを一人では何だから、付いていきなさいと言われたと言っても、あたしはそんなの頼んでないし、それどころか何でそうなったのかよく分かってない。
あたしは物凄い魔法使いだから、伯爵家に引き取られたのだと言われて育った。
正直言って、生まれた時から何でもかんでも壊すため、壊し屋トゥエリと言われていたけれど、理由が分かったら一安心していたほどだ。
魔法の力で腕力を強化していたんだって。
それも無意識に。
だからあたしは何でもかんでも壊してしまっていたんだという。
でも、それと関わると言われても分からなかった。
何であたしが悪いの?
何でエリミヤ母さんだけは新しいドレスが貰えるの?
男爵の愛人になったからだと言われたから、男爵にあたしも愛人になると言った。
すると鼻で笑われた。
どういう意味か分からないけれど、「伯爵家で上手くやれないような者を抱いてやる趣味はない」だそうだ。
どういう意味?
そもそも抱く?
つまり抱きしめるとお金を貰える?ドレスを貰える?
エリミヤ母さん、何してるの――?
*****
≪伯爵視点≫
あれから男爵家を見張らせていたが、矢張りというか予想通りだったな。
トゥエリはトゥエリとして、あの口の軽さはどこから来たのかと思い、エリミヤを付けてみたら案の定だ。
「矢張りな、思った通りだ。あちらに送って正解だったな」
「元から足が悪いから傷物になったから貴族の愛人となれなかったのだろう?だとすれば、別にノールが相手でなければならないという程彼を好いていなかったという事でもあったはずだ」
「左様で」
「だがまあな、予想していた通りではあったが、誤算があるな」
「ええ――まさか人を攫ってきて囲っているとは思いもよりませんで」
「ああ。犯罪者としか言いようがないな」
「道理で……とは思っていたんですけれどね」
怪しいとは思っていたけれど、身内――いや、親戚ではある為信用していたつもりだった。
だが、いやな予感がしていたため、エリミヤのことを含め洗うつもりで調べさせた。
すると出るわ出るわと言ったところだ。
人を攫ってきて絹を織らせる。
それも若い女ばかりが捕まえられている。
逆らえば傷ものにされて嫁に行けなくされてしまうとあれば、皆言う事を聞いていたが、冷静に考えれば攫われた時点で傷ものにされたと皆見るだろうから、意味の無い脅しでもあるのだが、彼女たちは平静ではないのだろう。
せっせと男爵夫人とエリミヤを飾り立てる絹織物を負っているのだという。
そして沢山の絹織物を織らせては、それを闇市で売り飛ばす。
最近は絹工房が跡継ぎを失くしたと言われ、畳むところが増えているのだそうだ。
原因が知れて公爵は頭痛の種が減ったと言ったが、新たな種が増えたとも嘆いて見せた。
それは伯爵も同じで――
「まさかあの者がそのような事をしていたとは思いもよりませなんだ」
「だが、事実だ」
「ええ……」
「アルが8つになった。もう時間がないが、一気に片を付けてしまおうと思うが、出来るのか?」
そなたに、そう問われ伯爵は沈痛そうな表情で項垂れる。
「出来ない、かもしれません。 家紋が落ちぶれそうだと言われ、今まで散々金を融通してまいりましたから。ですがまさかこのようなことに使われていたとは知りもしませんで」
「唯一の海への玄関口を持つそなたの領地だ。金を持っている金づるくらいに思われていたのだろう。事実そなたは良い金づるだったのだろうしな」
だがこれ以降は止めて貰うぞと言われ、伯爵は小さく、だがはっきりと首肯した。
もう冬は目の前――
タイムリミットまであと2年から長くて4年。
間に合うのか、間に合わせてみせると公爵は意を決しているようだった。
伯爵もまた、覚悟を決める時が来たのだろうと悟るに至ったのだった。
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