閑話13偽実 続


「目標はアルが12歳までだが、その前にやることは山ほどあるぞ」


「あとやるのは、周囲の貴族たちの承認と、根回しと、金貨銀貨を作る――独自通貨を作る事ですよね。それと――」


「それと、騎士団の創設ですから、王家のように、魔術師団も作るべきでしょうね。そのためには、法衣貴族も含めて、こちらに戦える者を引き込めるものは土地を魔の森から切り取ってでも用意して迎えねばなりません」


 魔の森は現在未開地が沢山あるとされている。

 他国はこれがある為侵攻出来ないでいるらしい。

 だが、これを未開地ではなくすることが出来れば、およそ公爵の領地は王国どころか、周辺国のどの国よりも大きくなると思われる。

 だから金貨を積んで何とかなるならこれを何とかするのだが、どうするつもりだろうか?


「今まで地道に領土を増やしていたが、限界があろう?その為、引っ越してくるなら屋敷を用意すると言って、法衣貴族たちの騎士団に声を掛けるつもりだ」


「ばれません?」


「後はもうそこは、黙っていなければ此方が捕まるもんでもないからな」


「他に必要なのは、インフラ整備ですよね?貨幣は一旦置いておいても、インフラ」


「いんふらとはなんだ?」


「道路、鉄道などの足ですね、馬車とかです。それと上下水道、港は此方が占めてますから安心ですね。それとダムなどため池を作っておきましょうか」


「いずれも出来ているモノばかりだな」


「ええ。他には学校、病院、後は住宅事情ですね」


「それもこれから行う計画に入っているから安心しろ」


「それは良かったです」


 独立したがっているだけであり、クーデターを起こしたいわけではないからだろうが、存外捕まえるだけのネタにならないのだと言われてほっとする。

 だが、あの王家のことだからと油断はするなと言われてしまった。

 どんだけなんだと言わざるを得ない。


「兎に角資金面では任せてください。こちらは色々と用意していますから」


 金鉱山では、トロッコを一度出せば純金が塊で最大5キロくらい来ることもある。

 これなら特に勧誘には困らないだろうと言える。

 もう金が無くなって困るというように王都で大騒ぎという所は脱しているため、それも必要がないだろうし。

 兎に角金も銀も白金も、大量にあって今、あらゆる面で困っていないということだろう。


「兎も角、アルが居てくれて助かったぞ。お前が居なきゃ独立何て夢のまた夢だからな」


「そうですね、私もこの能力が無ければお手伝いします何て言えませんでしたから」


 神に感謝を捧げないとと思ったアルは、どうせだからと領地の教会に行ってみることにした。

 ここは清貧に甘んじているらしく、恐らくは寄付もあまり受け取らないかもしれないとのこと。

 だけれど孤児が消えない限りはそう言った施設にも金は必要だから受取はする、だそうだ。

 だったら金貨を大盤振る舞いするのではなく、定期的に金と共に物資補給すべきだろう。

 そう言う事はやっていないらしく、アルは失礼かもしれないが、少々呆れてしまった。


「お義父様。それではあまりにあまりではありませんか」


「そうかね?要らぬと言って拒否をされてしまうのだから仕方なかろう」


「それは矜持もあるでしょうし、教示もあるのでしょう?つつましく生きろというのが教えだったはずです」


「そうだな。だが食えぬであれば言いに来なさいといってあるから平気だろう」


「成程。それもまたいい案ですね」


 ただし、言いに来るかどうかは別であるが。




 アルは馬車に乗ってヨハネスと共に寄付をしに行った。

 小金貨と金貨、どれくらいの物資が必要だろうかと聞いてみて、恐らくは衣類などの寄付は集まらないでしょうから、中古服店で買ってから行った方がいいというのだ。

 成程、確かに必要そうだ。

 衣類に布、針などの刃物も一式一揃え買って持っていくと、大体小金貨8枚になった。

 そこに寄付が銀貨で金貨5枚程用意していくと、大変な歓迎様だった。


 ここまで歓迎されたことはありませんよと言われ、首を傾げる。

 すると物資を補給されたのは、初めてなのだそうだ。

 だから食えもしない金より余程いいという。


 しかも孤児が金を持って買いに行くと嫌な顔をされるため、司祭が行くらしいがこれまたあまりいい顔をされないという。

 司祭も元は孤児が成っているところもあるらしく、それであまりいい顔をされないらしい。


 差別か――


「買い物にも行けないのであれば、定期的に足りない物があれば届けますよ。何でしたら実りのある木々をお渡しします」


「宜しいのですか?またばれれば煩いですよ?」


「いいんです。ヨハネス、ばれなければないのと同じって分かりますか?」


「分かりますけれども、そう都合よく行きますでしょうか?」


「桃など結実する果実が甘くて美味しい物が成ればいいのですけれど――要は不味ければいいんです、無いと同じですから」


 後は室内で内緒でこっそり育てるのでもいいですねと言う。


「???」


 どういう意味だろうかとヨハネスが首を傾げるが、アルはそれに答えるために、教会の裏庭の日当たりのよい場所に、とある実のなる木を植えた。

 それは不味い実なのだという。

 ヨハネスは何を考えているのですか、嫌がらせですかという。

 確かに、そのままでは食べられないのでそうなるだろう。

 が、実際は異なる。


「これはね、一工夫をすると、甘くて美味しい果実になるんだ。一度今の状態を食べてごらんよ」


「不味いと分かっていて食べませんよ」


「いいから、舐めるだけでもいいから」


 そう言ってヨハネスにアルは渋柿の皮をむいたものを舐めさせた。

 予想通り渋みで食べられたものじゃないらしい。


 けれど――


「これはお酒に漬けると甘くなるんです。大丈夫。お酒に漬けてしばらくすれば、あっと驚くほどの甘さになりますよ」


「本当ですか?こんな……渋いのに」


「勿論、大丈夫だよ。必ず食べられるようになるからね。私を信じてくださいヨハネス。必ずこの教会を人が集まる地にして見せます」


 一体どうしてそんな話になったというのか。

 どういう事かと聞いて見れば、アルが計画することはこうだという。


「まず、お酒をこちらで作りますから、教会で果実を作りましょう。木を育てましょう。そしたら毎年甘い果実を作れますからね。その果実を今度は周囲の人と交換すればいいんです。物々交換ですよ」


「宜しいのですか?いただいた木ですのに」


「ええ、勿論大丈夫ですよ。それどころかこの甘味を使えばジャムが作れますよ。それをあなた方が売ればいい。ここでしか作れないとなれば、皆群がってくることでしょう。そしたら孤児がどうという事も無いのではないでしょうか? 私は簡単に考えすぎていますかね?孤児が作ったと言って買わないことも無いと思いますよ。ここでしか買えないのであれば――そうなるはずです、きっと」


「そう……ですよね。確かにそうですね。ここでしか作ってないならばですが。ですが実際にはこれは種がある。いつかここから出て行った種から木が生まれ、結実した実が生まれますよ?」


 それはどうなさるおつもりでとヨハネス。

 だがそれは大丈夫だ。


「私の知っている言葉だとこういう言葉があるんだ。桃栗三年柿八年というんだよ。つまり――」


「柿は八年?」


 以前桃について行っていたけれど、まさか――とヨハネスは言う。


「そうさ!これは柿と言うけれど、柿は八年かかってようやく実がなるんだ。だから10年近くの間、実をつけるのはここだけになるよ、どうだろう?これでジャムを作ってみないかい?」


「作ってみたいです。ただ、これが甘くなるとは到底思えなく……」


「だったら今からやってみよう!大体二週間で甘くて美味しくなるんだよ!」


「二週間?なんだか随分大変そうですね……」


「いいや、酒に漬けてぶら下げておくだけでいいんだよ!だから簡単で楽ちんなんだ。そうだろう?」


「ほ、本当ですか?信じられないですけれど……」







 アルが植えたのは渋柿だった。

 渋柿を植えてわざと王族の誰かが来た時に食べさせ、食えない物を作っていると思わせたのである。

 これは観賞用ですよという言葉通りに王族はとらえたのだけれど、実際にはこれは酒に漬けたら甘くて美味しい柿になるという事だった。


 その酒はアルの自由貿易で呼び出した焼酎なる酒だった。

 これは減圧蒸留を使えば作れるということで、現在伯爵領で仕込んでいる最中でもあった。

 

 基本はアルが買うが、庶民用は自分達で仕込むことに。

 どうやって焼酎工房を作るかでもめにもめたのだけれど、何とか自由貿易でその装置を購入できたため、そちらの装置で蒸留しているのである。

 焼酎でやるないし、海外産のホワイトリカーでも別に問題はないため、そちらを使って渋柿を仕込む事もあった。


 美味しい焼酎と蒸留酒を飲めるということで、皆大張り切りだ。

 柿が美味しく食べられるというので皆大いに渋柿を喜んだ、と言っても喜ぶ理由は別にある。

 あの王族を騙しとおせたのだからという事らしいので、それを聞いた公爵は大きな声を上げて笑ったという事だった。

 アルも面白くてつい笑ってしまった。


 こんなに甘くて美味いのにと皆「王族すら騙しとおす」その果実に、偽実と名前を付けて喜んだ。

 ニセモノですから、これは食べられませんからというのである。

 皆国を鞍替えするために、必死で王族に媚びを売りながら――だが、実際には舌を出して馬鹿にしてやり過ごす。


 アルはこの時、ようやく8歳になろうとしていた。


 皆の気持ちが分かるからこそ、必ず独立を成功させようと誓った。

 思いは一つ――


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