閑話13偽実

 国家として独立するために、公国となるために必要な条件を満たすことが必要である。

 領民たちには皆声を掛けあってみた、内内で静かにそれは広まっていく。

 我らの領地を公国として王国から脱退しようではないか、とこうである。


 税金はむしろ安くなるし、金山銀山白金山も、全てが伯爵領地にあるということで、全て貨幣から何から何まで、交換することにした。

 新しい金貨銀貨を作ればいいということだ。

 そして脱退の準備を粛々と進めていくのであった。


「この王国では脱退のために何が必要なのですか?」


「王家以外の貴族の許可ではないが、約半数の許可が必要となっている。元老院で過半数を取ればいい、それくらいなら出来なくはない。――と、そこまではやっていきたいところがあるな」


 外国の承認を受ける必要はないらしいと知って、ほっとする。


「ははあ、とりあえず金貨と銀貨を作って貰ってとして、困ったことに銅が無いですね。と気が付きました」


「成程。ではあちらの銅貨を全て熱して溶かし、こちらの銅貨にしてしまえばいい」


「やっぱりそうなりますよね。じゃあなるべく皆さん銅貨で買い物を。それと他領で山ほどお釣りをもらってきてください」


 お願いしますねとアルは言う。

 どうしてこんなことになったのかと思わなくもないけれど、下手をしなくても王家と揉めるだけになるなら、脱退をしてしまって自ら国を名乗った方がいいとも言える。

 公爵家の規模があるのであれば、当然考えるだろうから仕方ないことであると言えた。

 だから手助けをする。


 フローラは元からこれを考えていたようで、既に周囲の貴族に働きかけをいつでも出せるようにしていたというのである。

 周辺諸国の言葉をマスターしているとか、王族に必須のことも全て勉強済みであるという。


 元老院にて王族と話し合いをして来た公爵は、もうこれ以上親族だということで何でもかんでもこちらに押し付けられるのは御免だと、伯爵にこぼす。

 先日までの一件も話し、協力を仰いでいた。


 すると既に王族に見切りをつけている地域はあるのだと伯爵は言うのである。

 それは魔獣から王都を守る魔獣の森がある地方であるという。

 伯爵家もその地域に該当するが、既に王国から抜けて持領のみで対処に当たりたいとこぼしていたというのである。

 税金を高くし、自分達王都だけは贅沢三昧。

 何でもかんでも献上させて、自分達にものを貰えるのは当然だと思っていると、散々なこき下ろしようなのだ。

 だから、今声を掛ければ皆一斉に独立するであろうという。

 元よりも、魔獣の地がある土地は、王家から賜った土地ではなく、開墾して生まれた土地だ。

 であるからして、王家にとやかく言われたくないと皆口々に言って独立を決意――するであろうというのである。


「公爵閣下が抜けると言えば、皆も続いて抜けることでしょう。税金は昨今高くなるばかり。でしたら公爵領と付き合いを持っているところから声を掛けても大丈夫なのではないですかな?」


 私も声を掛けてみましょうと伯爵。


 アルは税金が高くなっていっていることは知らなかった。

 まだ教育がなされていなかったからだ。

 過去の歴史を習って、近代史を習う所がまだまだ先だった。

 その為民の重税に気付かなかったのだ。


 アルの特異性としてはまだある。

 金山と銀山白金山も個人で所有していることにある。

 これがあるため、公爵も伯爵も、重税に此方を補てんするようにしてきたのである。

 内緒で使うためにあると言っていただけあって、商人を通してこちらを還元してきたのだという。

 ナニソレかっこいい。


 自分のところに還元してくれる領主とか、良い領主過ぎじゃないですか。

 だからアルも税に関しては手伝ってくれていた、ありがとうなと公爵からも伯爵からも感謝を述べられれば、嬉しくなってしまった。

 そんなこととは知らないまでも、手伝えていたことの喜びもある。

 アルはふわふわ笑いながら、切り抜けられたなら良かったですね。

 課税するように言われても、跳ね除けてきたんですね?格好いいと言われると二人も照れくさそうにしていたのだった。


 身内に甘い――悪い意味で――王家の者達だが、流石に課税に関しては身内だからと言っても他より余程重税という事は無い様子。

 だが、さりとて重税を公爵にだけ課すのは悪手であろう。

 元老院が黙っておらぬことになるであろうという事だった。


 つまり、一度それは課税しようとしたんだなあとアルは思った。

 とんでもねえな

 この時代で税が8割から7割と言った所だそうだ、そんな重税では死んでしまうだろう。

 是でも足りぬと言い放つ王家のものに、公爵たちははらわた煮えくり返っているというのだ。

 そんなもの、知れば確実にアルは怒る。

 今まで公爵家であんなふうに対処何かせずに、ふざけるなと叩きだしていたかもしれない位だとアルは憤慨して見せた。


「一応王族だからな?だから次来ても大人の対応をお願いしますよ?」


 公爵がこういうが、アルは何かかましてやりたいと憤慨し続けているのだった。




「どうしてフローラがあそこまで強気になるのか分かった気がします。フローラは領民のために怒っていたのですね」


「それもありますが、私の物に手出ししようとしていることが許せませんもので。ですからずっと怒り狂っておりますわ」


 領民も自身と共に歩むもの、私の物と言っても過言ではありませんと言うフローラに、その考え方はまあ、おおむね間違っていないかなと同意をするアル。

 アルはフローラに、私もじゃあフローラの持ち物ですから、勝手に手出しされたから怒ってくれたんですね?と聞いてみた。

 するともじもじとしながらも、勿論ですというのであった。


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