閑話12公爵領の独立に向けた最初の一歩

閑話12

「浮気は許しませんわよ、全く」


「私は何も言ってなかったでしょう?ずっと聞いていたのにそれは酷くはありませんか?」


 階段上からずっとフローラは聞いていたらしく、アルはとても困っていた。

 別に相手の王都一の美人さんに会いたいかと言われると、会いたいわけでもない。

 それどころか会いたいと言ったこともない。

 浮気をしても居ないのに、浮気だなんだと言われるなんてと思ってしまう。

 だから不満げに言えば、フローラは言うのだ。

 浮気者と。

 何故と問えば、そう言った話が出て来る場に居ることがいけないのだという。

 テラ理不尽。


「はあ、……もういい」


「え?なんですの?」


「もういい。聞いても意味がないから、適当に聞き流すよ。私は悪くないからね。兎も角悪くない、だから知らない。いい?」


「ええ?お、怒っているのは私の方ですのよ?」


「もういい、私の愛情を疑うフローラ何て暫く顔を見ないで仕事をしたくなるくらい、いいです」


「私可愛いですわ。ですよね?ね?見てくださいまし、この顔、お好きでしょう?」


「別に嫌いじゃないけど顔でフローラと結婚することに決めたわけでもなかったでしょう?この二年ばかり、フローラが私と仲良くしてくださって、更には良くしてくださったから素晴らしい伴侶に成り得るだろうと思ったから結婚することを了承しているんです。 そうでなければ公爵家と縁続きなんて大変なこと、伯爵閣下も許されないと思いますよ」


 大分上の身分なのだから、釣り合いをとるために大変なのだと言われれば、フローラは小さくなった。


「そんなの私にはどうすることも出来ませんわ。だって、私が公爵家に生まれたのは、変えようのないことですもの」


「じゃあ、私があの場にいたけど、それで責められるのは違うというのは分かっていただけませんか?同じことかと思いますが………」


「で、ですが、会いたくないともっと声を大きくして断ってくださればよかったですのに。あれでは押せば行けると思われてしまいますわ」


「何がだ阿呆ども。何をしている?そもそもアルは明日外の片づけだぞ。お前寝ないでいいのか?」


 フローラと話し込んでいるけど、本当に大丈夫かと聞かれれば駄目だけど話をしておかないといけない事なんですと2人そろって言うのであった。

 そして何があったか話をしてみれば、フローラは叱られはしなかったが、悋気も大概になといわれてしまった。

 まあ、そうだろうなと思う。


「そしてお前はフローラを虐めるな。あん?」


「理不尽です。私だってフローラを虐めたくて虐めるわけじゃないですよ。フローラが同じ位の家格の女性だったらと思いましたし、それはフローラに変えようのないことかもしれませんが、私だってあの二人とチームを組むのは変更できませんから、逃げられないではありませんか。同じだと言ったことは何も悪いことではないと思います。違いますか?」


「確かにそうだが、一度俺を通せ、フローラは温室育ちだ。俺と違って言葉を直接投げかけられればきつくて泣くぞ。ほら………」


「うっ、ひっく、ひっく」


「え、うわっ!泣かないでください、フローラ」


「私、アルしゃまを取られたく、ないんですっ。だから悋気を起こしましたの。許してくださいましぇっ!」


「私を欲しがるもの好きなどフローラの他には、居りません。ですから大丈夫ですよ」


 というと、フローラが王家が居るではありませんかと言う。

 出た、王家の横やり。

 だからアルの凄さが分かるときっと物凄い数の女性が求婚なさいますわと言われ、首を傾げる。


「ですが、フローラがヒューズ殿下に行ったんですよね?」


「何がですの?」


「フローラが、私の凄さを?ヒューズ殿下に語っていませんでしたか?」


「あれは、私の物ですのよという、いわば表現ですわ!それに、別にアル様が手に入れてきたと言う話をしたわけでは御座いませんし、甘い王も木苺の変種を見つけたと言っておきましたし。 兎も角!私の物に手を出さないでくださいましと言ってますもの、ですからそう言う意味でいいのです」


「本当にそういうことなんですか?間違えて行ってしまったのではなくて?」


「いいえ………そのう………私の伴侶となる殿方のすばらしさを喧伝したい気持ちの方が強いのですもの。ですから仕方なかったのですわ」


「はあ、そんな理由………いいですけどね。フローラと家格が釣り合わない時点で、フローラを私がなぜ射止められたのかとは言われそうですし。そうなると私でなければならなかったと分からせたいですから。スキルのことも結論公表した方がいいという事でしょうか?」


「いいや、駄目だ。公表すれば横やりはますます入ることになるぞ。現時点で入ってるんだ。これを増やしたくはないだろう? 因みに王族の姫でお前の下の年代もいるには居るんだ。現状一人でも横やりが入って困ってるってのに、二人目の可能性も出て来るんだぞ?そんなの嫌だろう?」


「いいいいい、いやですよそんなの!フローラに付き合うので精いっぱいですから私は」


「何でフローラが面倒な相手扱いされてんだこら」


 耳をぎゅいっと摘ままれ引き寄せられる。

 痛みに悲鳴を上げるが公爵は構う事はないとばかりだ。


「だってフローラは公爵領の御姫様で、お付き合いするのは緊張するんですよっ!だからですって!」


「それならばまあ良し」


 ぺいっと耳を放り投げられれば、それに伴い身体が自由になる。

 おー痛い痛いと耳を押さえて撫でていれば、フローラが緊張しますか?と問う。


「そりゃまあ緊張しますよ?だってフローラ美人ですし、公爵家の姫様ですし。家格が異なり過ぎます。元から私は………ですしね」


 空白部分は平民になった元貴族の家系だった、である。

 魔力が認められれば平民から貴族に戻れるとはいえ、それはハンディである。

 それだけの金を本来用意出来なければいけないためきつい。

 実際にアルとノールには、アルが居たため金の生る木としての役割を課せられて、その分を支払いに充てられていたのだ。

 貴族に復帰するためには幾らかかかる。

 それもわずかばかりの金ではなく、相当な金額が必要なのだ。

 だからアルはその点ひけめを感じているのである。


 しょんぼりとしながらフローラが言う。


「私、アル様に緊張を与えられているのでしたら、それは良い緊張であるべきだと思いましたの。ですから、家格が気にならないような、まずは功績を上げましょう。それかうちは独立しましょうお父様」


「物凄いぶっ飛んだ話しだなー。だが、まあそろそろ腹に据えかねているからな。やろうと思ったらやれるように用意だけはしておくかってところだぞ?」


 既に準備はし始めてはいる。

 何があってもいいように構えておけよと言われ、アルは首を傾げる。

 何の話だ?

 もしかして、独立――本気で?


「でしたら、お父様、私はアル様が12歳になるまでに整えていただきたいですわ」


 横やりを防ぐためには12歳までに独立ですわと言うフローラに、公爵は頬をポリポリと指でかくようにする。


「さよか………分かったよ。準備だけはしておくさ。最悪、必要な事として出来るように、な」


「あのう、公国となるのだとしたら、公女殿下となられるのでしょう?現時点でもそうですけれど――そうなりますとますます私は肩身が狭いのですが」


「いいえ!そうなりましたら、アル様を侯爵家にまで陞爵して見せますわ!!」


「待ってください、早まらないでください公爵閣下も!!私のためにそうするのでしたら、待ってください」


「いいや、ちげーよ。こちとら我慢に我慢を重ねて相当ぶちぎれてるんだよ。だからこれは御前の為じゃない。お前の為というのがあるとしたら、ついでだ」


「左様ですか?本当に?ですが………だとしてもとても恐ろしいです。反旗を翻すことにならないですか?王家に」


「いいえ、ただ独立しますというだけですわ。独立宣言の許可をもぎ取るために、根回しが必要ですわねお父様」


「ああ。こうなったらとことんやってやりますかっと。根回しの他にも病院と貴族学校がここにはないからな、それだけ作ればいいだろう」


「ああ、インフラだけ整備すればもう大丈夫になってるんですか………?ええー………」


 こうして公爵家では水面下で公爵領含め周辺領地の独立に向け、根回しに動くことになったのであった。

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