閑話11浮気は許さないのです 続 改


 兎も角仕事だ仕事と言って、チームになった二人と仕事をこなすことに。


「なあ、アル。ところでお前は婚約者はもう居るのか?」


「居ますよ。誰とはまだ公表はしていませんけれど、居ます」


「へええええ、いいんじゃね?俺ももうすぐ決まりそうなんだよ。公表されたら教えるわ。お前のもその頃には公表されてってことになるといいな」


「ええ、そうですね」


 お見合いが上手く言った、という事なのだろうか?

 彼――ジルクは「婚約者は相当な美人なのだ」と嘯いていた。

 アルはそんなことを言われても、見ても居ないから判断が出来ないのに、確実に王都一番の美人だと言われ、少し戸惑ってしまった。

 何せ、美人美人誰もかなわない美人だよと唱えても、公爵夫人にはかなわないだろうし、その娘であるフローラにもかなわないだろうと思えるから。

 だから美人で誰より上だと言われると、少し困ってしまう。

 事実ミーン――もう一人の王都の法衣貴族子息である――も困っているようで、止めなよそんなこと話している場合じゃないだろう。

 仕事しようよとずっと言っていた。


 どうやらその様子を見るにつけ思うのが、ミーンも公爵の第一夫人が、あの「傾国の美人」だと知っている様子。

 この噂話は止めた方がいいという事を暗に言うが、ジルクは止まらなかった。


「こら、何をしているのかね!――っと、アル様ではありませんか、どうされましたか?」


「ええとえと、何でも無い!」


 上級使用人だ――とアルは思った。

 アルは困ったようにミーンを見ながら言うと、ミーンも何でもありませんという。

 自分達二人は関係ないと言わんばかりだが、仕方ない。

 ここで公爵の不興を買うわけにいかないのだ。

 何せ三人はここに行儀見習いにこさせて貰っているのである。

 それはジルクも一緒のはずで――けれどジルクは止まらなかった。


「いえ、俺の婚約者予定の方がそれはもう美人でして。王都一の美人と言っても過言ではないという話をして自慢していただけなんですがね?」


「ほほー………そんなことのために手を止めていたのかね?」


 上級使用人は、当然だが監督官である。

 そんな言い訳が通用するわけも無し。

 だから駄目だよとミーンが言う。


「だから言ったじゃないか、仕事に戻ろうって」


「だってお前らのどちらも話に乗ってくれないから、こっちにも意地があるんだよ!でも、本当に美人何だぜ?それこそ本当に王都一の美人なんだってば。そう言ってるのに何でまた二人とも聞いてくれないんだ?」


「それはですね、私とお母さまが居るからですわ」


 階段下で行われている会話を、どこかで聞いていたのだろう、フローラがやってきた。

 フローラは傾国の美人と称される第一夫人の若い頃そっくりだそうだ。

 その瞳はきらめく星のように輝き、フローラが意識して笑みを浮かべれば、その笑顔は陽光のように輝かしいほど。

 その美しい顔は、芸術作品のように見事と言っていいだろう。


 彼女の美しさはまだ、成長途中だと言える。

 けれど、周りの全てを照らし出すような美しさなのだ。

 人々はその美しい姿を見るために列をなすのが花祭り。

 彼女を見るために遠くから駆け付ける人も居るほどなのだという。

 なのに常に謙虚で優しいふるまいをしてくれるため、アルは心底惚れていた。


 彼女の美しさに酔いしれることができると感じる。

 そんな美しさなのだ。


 だから王都一の美女を後で紹介するとまで言われていたが、正直別に要らないかなと思っていた。

 美しい顔を見たいと思うだけで王都まで行く必要がアルにはないからだ。


 自身の顔――それをフローラも理解しているからなのだろうが、彼女にしては珍しく、自身の顔に対して強気の表現を使っているので不思議だった。


「私のお母さまは傾国の美女と称される美人ですの。その若い頃そっくりと言われている私がいるから、アル様はあなたの婚約者さんには会いに行きませんことよ」


「え、ええと、ど、どちらさまで?」


「ええと・・・・・一応僕の婚約者のフローラです。フローラはこの公爵領の跡継ぎになってるんだ。だから無礼は止めておいたほうがいいよ」


「えええええええええええええ」


「アル様も、決してその美人さんに会いに行かないと約束してくださいな」


「わ、分かったよ。フローラが居るから会いに行きません。というか元から会いに行くつもりはなかったんだからね?本当だよ」


 とアルが言えば、フローラはにへらと笑み崩れるのだった。


「やっぱりアル様が一番ですわ」


「フローラにそう言って貰えると嬉しいよ」


「ふふ。――ということで、決して浮気心など持ちませんように!ですわ!」


「う、うん」


「さ、それは良いとしてキリキリお働きになって!」


「「「はい!」」」


 その後慌てて掃除を終わらせたのであった。


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