貴族編7歳~

閑話11浮気は許さないのです 改


 行儀見習いに別領地に行くことになったアル。

 ただしその領地でアルのスキルがばれると問題になるため――というより横やりがまたも入るかもしれないため――公爵領に行くことになった。

 勿論いつもの公爵閣下の元へである。

 さあそんな行儀見習い始まり始まり。


「さて、行儀見習いだが、一応自分のところより爵位が上だったり下過ぎない所にいって、それから社交界に出るということになる」


「はあ。でもそれって爵位が一番上の公爵家とかですと難しいですよね。どうされるんですか?」


「だから馴染みの侯爵家などに預けることになる」


 ここでも貴族ネットワークが生きて来るらしい。

 アルのように引きこもりたいとか言ってる場合じゃないらしい、貴族の堅苦しい話に、アルは辟易とする。


「――という事で、今日からお前はここで雑務など貴族の仕事の初手から学ぶことになる。いいな、俺に文句を言わずついて来い」


「分かりましたあ」




 ちまちまちまちまと、何をしているかといえば、フローラの手習いである。

 フローラの教える刺繍を習っている。

 何でこうなったと思わなくはないが、刺繍をしているわけで――若干指を指して痛いからやめたいと思わなくもないのであった。


「あのう、フローラ?」


「アル様、お上手ですわね。とても初めてと思えませんわ」


「それは有難う。だけどあの、フローラ?」


「はい。なんでしょう?」


「どうせだったら何か料理でも覚えない?私が教えるから」


 刺繍はどうにも刃物となる針を使って周囲に人気がないため、なんだかもやもやするのだ。

 だから人のいる場所で料理でもどうだと言えば、フローラは、今日は私がアル様を独占するのですからこれでいいんですという。

 成程、分からん。

 アルには到底理解出来ない理由なのだった。


 チクッ、チクッ、チクッ、指を定期的に指しながらも、必死になって薔薇を刺繍する。

 たぶんアルは前世、外科医ではなく内科医だったように思う。

 道理で刺繍で指をさすものだと勝手に自分自身で納得をしてしまう。


 モチーフが百合でもいいのだが、彼女の用意したモチーフになる花が薔薇と百合で、彼女は百合を描くということで、アルは薔薇になったのだ。

 どちらも難しいお題なのだが、これを目の前にして作れとは素人を相手にしていい所業ではないようにおもえる。


 何にせよ薔薇を何とか刺繍を終えれば待っていたのは労いだった。


「良くできておりますわよ。お疲れ様でございました」


「有難うございますフローラ。上手くできておりますか?そこまで綺麗に出来てない気もするんですが何分初めてで」


 工作スキルと違って、指先でこちらだあちらだと示すわけにもいかず、ほぼ直観だけで縫い止めていったが、あまりいい形になったようには見えなかった。

 確かに赤い花に見えるが、薔薇というより牡丹に見えるくらいの形になっているとアルは思った。

 だが自分で見ても一応花には見えるのだから、初めてにしては上出来と言えば上出来なのではないだろうか、と言える。


 そんな中、刺繍を終えたら掃除だと言われ、下男や下女が行っている清掃に割り振られた。

 アルと共に来ている行儀見習いの男子は、今年8つになるという。

 アルよりは一つ上の年齢である。

 アルは今年で7つになるということで、行儀見習いに出されたのだ。

 きちんとどういった仕事を貴族が行うのか、どのように仕事を任せるのかまで学ぶということで、女子は下女からスタート、男子は下男からスタートらしい。

 先ほどの刺繍の時間は、皆は休憩の時間だった。

 その短期間の間にアルは刺繍を小さいながらも終えたのだ。

 初刺繍で素晴らしい手並みと言えた。


「僕こんなの嫌だよ、何で貴族の僕が平民の仕事をしなければならないんだ」


「でも、やらないと食事なしだと言っていたよ。これはきちんと仕事を学ぶためにやらされてるって言ってた。やらないといけないよ」


「私もそう思います。きちんとやりましょう」


 アルはそう言うと、木のバケツを使って、石造りの階段に水を流し、洗い清めていく。

 

 掃き掃除を終えると、水で洗い清めて、次にそれを風魔法で乾かして出来上がりだ。

 平民では出来ない仕事の方法だが、こちらの方が効率がいいのだからやるといいと一週間先に入った先輩連中から言われていた。


「でも俺等すげーよな、公爵家で行儀見習いさせてもらえるなんて運がいいってお父様言ってたよ。今回たまたま行儀見習いを募集していて、きちんと下男からやるのを了承出来るならってことで俺、来れたんだよ」


「私は隣の領地ですから、それで来れました」


「いいなー。それならお隣同士だからってことで行儀見習いで預かりましょうってことになったのか?羨まし過ぎるだろ」


「そうですか?」


 まあそうだろう。

 貴族社会はコネクションの世界だ。

 コネクションが無ければ孤立してしまうようなところは確かにあった。

 だからアルは一応、公爵と縁続きに成れるということで、運がいいと言える。

 ただしそこまではまだ内内にされているため発表をしていないので内緒で彼らには言えないが。


「僕の領地はないんだけど――法衣貴族なんだ。だから行儀見習いをさせて貰えなかったら王宮で勉強と言われて凄く恐怖していたんだけどね」


「なんで?怖いところなのか?」


「恐れ多いってことだよ。それどころかね、ここだけの話だけれど、王族の方方は無茶ぶりをなさる方がいらっしゃるらしくて、ご不興を買えばどうなるかわからないんだぞ?僕はそんなところで行儀見習いなんてまっぴらだよ」


「成程」


 確かに無茶ぶりをする王族に心当たりがばしっとあるアルは首肯する。

 勝手にやってきて勝手に自分の要件を告げるだけに近い事をして帰ってくれた彼には、そのうち何らかの方法で一矢報いてやりたいとは思ってる。

 ただできるかどうかは別であったが。

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