閑話10弱腰ですわお父様!


 すくすくと成長し、七つになったアル。


 今日も今日とてアルは公爵領――公爵邸にお邪魔していた。

 しかもいつもの如く衣装を調べていた。

 それも、フローラのものを。


 アルは検索にかける地域などを絞ることにした。

 たぶんだけれど、中国語などで検索を出る可能性があると思うのだ。

 そこの国は漢字だけで検索をかければ出て来るだろう――中世、欧州、貴族これで検索をかけたところ、何とかフローラの服が手に入りそうになってきたのだった。


「フローラ、こういう形の服はいかがですか?ドレスですけれど、ここにリボンを通してレースが袖を覆っていますが。お母上のものよりも小さいサイズですから、フローラにはこのようなデザインになります。きっと似合うと思いますよ。ツタのようなデザインのレースが裾を覆うようにしています。綺麗でしょう?」


「まあ、素敵ですわ。こちらの衣装が欲しいですわアル様」


「じゃあ買うね」


 小銀貨4枚がかかり、アイテムを取り寄せられたのが分かった。

 目の前に持ってくると、着てくると言ってフローラが部屋を辞す。

 そして少したってから戻ってきたら、サイズがもう少し直したいのでといって、針子に持たせているらしいと分かった。

 針子には、子供用ということでウエストがガボガボだったのを、絞って美しいラインを作って欲しいと言ったらしい。

 ああ、まだ小さくても女性何だなあと言った所だろうか?



 検索ワードが舞台用でも出て来るドレスに、アルは検索をするだけで楽しくなってきた。

 サイズが合わなければ、合わせればいいということで、少し大きめを買って、針子が修正するような毎日だ。

 大銀貨で7着程買えたとご満悦なフローラに、プレゼントしますよとアルは言う。


「こんなに良くしてくださって嬉しいですわ。私、アル様が私の伴侶となってくださるのがとても嬉しい」


「私こそフローラが伴侶となってくださることはこの上ない喜びです」


「なにを言っている。アルは姉君の伴侶となると言っているだろう?」


「なあっ!?」


「出ましたわあ!!」


「よう!」


 ヒューズ殿下だった。

 窓際から声を掛けられ驚く。

 そしてあろうことか王族だというのに、窓から入ってきたのだ、この男。


 正規の手続きを踏んで玄関からお入りくださいとフローラに言われると、ヒューズはむくれたような顔をしていた。

 アルの三つ上だが、フローラとはそう変わらない年齢だというのによくもまあと思う。


 せめて大きなあの玄関から入ってきてくれたらこちらも普通に対処するのに、どうしてか窓から侵入してきては、道中見つけてきたという木の実をプレゼントになるのだかわからない。


「木苺だ、美味いぞ。それとキウイだ。これもうまいぞ」


「それなら甘い王がありますわ!とても果汁がたっぷりで甘いのですわ!ですからお帰りくださいましな。そんなものよりも甘い王を私は食しますからっ!結構ですわ!」


「なんだその甘い王とは?!」


「大変美味な木苺ですわ!果汁がたっぷりですが、酸っぱくなくて甘くて美味しいのです。大変美味ですので、公爵領で流行中ですのよ!」


 その味がいかに美味しいかを語るフローラに、アルは肝を冷やす。

 何でそんな風に気を引く様なマネをするんだと言いたい。

 甘い王に砂糖を煮溶かしたものをかけると絶品だの、食の祭典からの流行だのと、どこで流行り始めたかまで言い出す始末。

 以前吟遊詩人が言っていたやつだな!と思い出してしまったヒューズ。

 アルは頭を抱えた。


「美味そうだな、俺にも寄越せ!どこにある?」


 案の定食いついたヒューズにアルは面倒なと言いたくなる。

 フローラが自慢げに言うため駄目だと声を大にして言いたくなったアル。

 自由貿易のことをだが、内緒って言ったでしょと口パクで言えば、何でございますの、と聞き返されてしまった。


 空気を読んで欲しかったが、そう言う空気を読むというのが得意なのは前世日本人ならではだったと思い、頭痛がし始めた気がした。

 頭を押さえれば、フローラとヒューズがどうかしたのかと同時にやってくる。

 もう帰ってくれヒューズ殿下!!

 腹立ちまぎれにそんな風に言いたくなっているアルは、相当切羽詰まっていたのだった。



 結局あまおうを晩餐で出すことになり、アルは元よりフローラも公爵から怒られる結果になった。

 どうしてばらすと言われ、項垂れる。


 アルは思った、自分は精いっぱい言うなとあの時ジェスチャーした――つもりでした、と。

 だが空気を読む何て芸当を彼女はしないし、それどころかヒューズに対抗意識でも持っているのか、美味しいんですのよ甘い王ですからと自慢げですらあった。

 それも悪いわけではないのだろうが、今回に至っては悪手だろうと言える。

 王家に知られて定期的に献上をと言われればまたも何かを差し出さなければならないのかとなるだろう。

 今まで散々そうしてきたのだから、公爵としてはまた横から掻っ攫うように持っていかれては堪らないと言った所だろうか。

 それを分かっているだけにアルとしても止めたかったが止まらなかったのだ。


 何で止めないと言われて、止めたつもりだったんですけどとまらなかったと言えば、それは止められてないって言うんだ愚か者と言われる始末。

 殴るのだけは止めて欲しいと思っていればチョップが来た。

 無情な仕打ちである。


「美味いなこれは。公爵、こんなものが出来たならば、もっと早くに言え。黙っているとはそなた、水臭いぞ」


「いえ。まだ量産の出来ていない品ですから」


「そうかそうか。ならば量産の暁には、こちらに届けるのだろうな?」


「適正価格でお売り致します」


「むう」


 献上は嫌よとズバッと言われてしまったヒューズ。

 そんなヒューズは身内価格でと今度は言うのだ。

 公爵からすれば身内だからとはいえ、安く買いたたく様なマネをされれば、今度は市民からの暴動に繋がりかねないため、却下している。

 今回ばかりは負けないつもりらしい。


「あのう、伯爵家でも作っておりますわよ。アル様の領地ですわ」


「まあそうはそうなんですけれども」


 何が言いたいのかと思っていれば、そちらから買う時も適正価格で買ってくださいましなというフローラ。

 一か所で買うので数が追い付かないと断られたヒューズに良かれと思って教えてくれたらしい。

 要らない気遣い有難う。


 色々と晩餐で決まっていくが、当の伯爵は不参加である。

 下手な事を決められてはならないと、アルも口を開いた。


「伯爵家もきちっと適正価格で買っていただければ、何もいう事はございません。ただし、昨今の需要では、庶民にも人気の甘い王ですから、適正価格に色を付けていただければそちらに回すことも出来ようかと存じます」


「ほー………つまり今、数が本当にないのだな?」


「左様でございます」


「成程。だがこの木苺、甘くておいしいから本当に食べたいのだぞ?だが不思議よな、今はまだ冬と言っていい時期だ。もうすぐ春だが、早咲きな品種なのか?木苺の季節でもないのにどうして育つ?」


 珍しくて自分は一つだけ木苺を取ってこれたので持ってきたが、あれだってまだ色づいていなかっただろう?と問われ、皆「そうですね」と頷く。

 因みに先ほどヒューズが持ってきた木苺は、ヒューズの目の前に飾られていた。

 珍しい花もついていたためである。


 不思議よのうというヒューズに、公爵は、ガラスの温室で育てている高級品なのですとさりげなく値を釣り上げた。

 実際はビニールで作った温室栽培だ。

 だから今の時期でも育つ。


「しばらくは甘い王の季節になると言っても過言ではありません」


「羨ましいなどと言ってはならぬよな」


 嫌な予感がしてくる。

 矢張りだ。

 木苺の――あまおうの苗を売ってくれと今度はきたのだ。

 だから数を増やせない、増やすのは春以降となると伝えてみたところ、幾つかだけでも融通してくれないかと無茶ぶりが来た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る