閑話8供物 改

閑話8


 元奴隷たちの朝は早い。

 神に貰った土地で寝起きすると言うことで、怠惰ではないようにと、皆早起きなのだ。

 そして毎日の恵みに感謝をして、様々なものを供物で捧げたいと逆に考えているが、それも中々難しい。

 神から貰った土地だ、あらゆるものが神からの贈り物なのだから、供物を用意など出来ようはずもなかった。

 だからせめて少ない魔力を捧げるのだ。

 必死になって。


 そんな折のことだった。

 アルが公爵と伯爵、ノールを連れてやってきた。


「皆さん、お早うございます。今日も精が出ますね」


「ええ、ちょっとふらつきますけど、大丈夫です」


『少し魔力を奉納し過ぎていますから、休んだ方がいいですよ』


 一般人は数十くらいしかない魔力、これをギリギリまで奉納する彼らは、殊の外神に気に入られていた。

 けれどそんなことはアル達も、元奴隷たちも知らないことだった。


「さて、金塊はこんなものでいいだろう。銀塊もこれくらいあれば御の字だ」


 金塊は、拳大のものが三つ四つ毎回取れる。

 それを公爵が持っていくのである。


「他に入用なものはありませんか?白金山も出来ましたし、あっちからももう少しで白金の金塊が取れますよ」


 シルバーゴールドだ、いいよねえとアルは言う。


 そんな中、元奴隷たちから手がチラホラ上がるのだ。

 あのう、そんな風に言われ、耳を傾けると――




 魔力奉納だけしか出来ないのが忍びないのです、そう言われて、アルは考え込んだ。

 やべえ、自分もそういやそうだった、などと言い出せずに、至極真面目腐った顔をして見せる。


「なんだアル、お前たちのところだと、奉納は魔力だけか?俺は魔力以外で奉納をしているが、何も渡さないのはまずいんじゃないか?」


「ですよねえ………こんな聖域なんてものを貰っていたり、懐かしの品を手に入れられる自由貿易何てものを貰っていますし、まずいですよね」


「だなあ」


 前世は医師だったと記憶しているから、きっと亡くなったのは20代以降だとはおもうのだがそれくらいは前世していたと思われるのだ。

 神仏に祈って手術の成功を祈ったり、あの患者さんの無事を祈ったりなんてことはざらだったように思う。

 少しだけ神社に祈願に行ったりしたのは覚えているのだ。

 その際金銭などを捧げたりしたり、供物を神社の神主の元へ持って行ったりもしたように記憶していた。

 だったら――これはまずいと思うのだ。


 だらだらと脂汗が浮き出てくる。

 不味すぎる、今さらかもしれないがやらない方がまずいと言えた。


「因みになにを奉納した方がいいですかね、私こっちの世界だと奉納するの初なんです」


「ええ、御前もか?!」


「いいや、アルではないが私は家族分として寄進しているから、それはないよアル」


 きちんと毎月供物を教会に届けていると言われほっとしはしたが、自分では何も動いていないのは変わっていなかった。


 もう何か供物を捧げないとまずいと思い、この世界で見たことのない果物を供物として捧げようと思い、自由貿易を開いた。


「因みに本当にこの世界だと物質が消えたりします?」


『そりゃあ、神はいますから』


「成程、そいつはピンチですね」


 随分とお待たせしている気がするので、大盤振る舞いすることにした。

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