閑話6横やり 改


 食の祭典が楽しかったのか、他領でも料理の出来る人材を連れてきてほしいと言われることが増えたらしいと聞く。

 それは調理法を教えて欲しいと言われているのかと思ったら、そうでもないところが多く、料理を一度食べたら病みつきになると言われる、あのソースを一度でいいから食べてみたいのだそうだ。


 そんな事を言っているのは何も貴族や平民だけに留まらなかった。


「なあ、食の祭典、こっちでもやってくれよ」


「どなた、でしょうか?」


「なあったら、お前が指揮官だったんだろ!」


「ど、どなたですか?分からないですけれど、私は義父である伯爵の指示が無ければあらゆるものが動かせませんよ。そもそも私が指揮をしていたってなんで知ってるんですか?!」


 わーわーぎゃーぎゃーと喚く少年は、アルより年嵩の少年で、二つ程上のようだった。

 8つになったと言ってるからそうだろう。

 6つのアルからすれば、もう少し手加減をしてほしいというもので、アルは困ったように眉を下げて、「お願いだからそもそもこの子を誰なのか教えてくれ」と言うも誰も彼も教えてくれない。

 それどころか誰もこの子を自分から引きはがしてくれないのだ。


 その時点で大分出自が怪しいと思っている。

 もしかしたら公爵の他のお子さんなのかなと思っていると、殿下!と、公爵が廊下の端から駆けてくるのが分かった。

 今日も今日とて公爵邸にてお世話になっているところである。


「何だ公爵、どうした?」


「その子はまだ小さいので、あまり力を入れて引っ張らないでいただけますか。殿下の力では折れてしまいます」


「ああ?でも身体強化して折れないようにしているぞ、コイツ」


 しなかったら腕の一つ二つ折れてるレベルで引っ張られるのは良いのかどうか。


「なあ、お前がアルだろう?食の文化を一新したという。だから王都に来い!って言ってるだろうが!!」


「今初めて言われました、ってか殿下って何ですか公爵!?」


「その殿下は、王家の方だ。失礼をするんじゃないぞ」


「やっぱりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


「煩いぞお前」


 ペイっと放り投げられて言われる。

 理不尽。




 脇に手を差し入れられて抱え込まれる。

 なあ、王都にも食文化を一新しに来い!お前を皆待ってるんだぞ、と言われて照れるが、公爵はにべもなく断った。

 自分達のところでレシピを買ったのだから、誰かに奪われて貯まるかと言った所だろう。

 そんなものだから殿下――ヒューズ殿下というらしい。

 ヒューズ殿下は何でもものは貰えて当然だったのだろう、人から与えられることに慣れ過ぎていて、であれば支払いをと言われて戸惑っているようだった。

 それも、アルは関係ないと言う。

 どこからか漏れた言葉を否定してくれるのだ。

 やだ、公爵かっこいい。


 でも、アルが教えることになっているし、何で支払いを公爵家にすることになってんですかねえ。


「レシピ一つにつき、大金貨が動くものですよ。我々にきちっとお支払いくださいますようお願い申し上げます」


「大金貨!?だが………だが、私も美味しい物が食べたいぞ」


「今の食事でも今まで不足したことはなかったでしょうに」


「だが、ふわふわのパンに、芋を潰して使ったスープに、いちごっていう飴があるんだろ?美味しそうな話を吟遊詩人から聞いたのだ。食べてみたいのだ」


「とても困ってますから、それを離してください」


「困ってます」


「だが、離したら連れて行かれてしまうんだろう?困ってしまうのはこっちだ。王都なのに食文化が遅れてるのは嫌だぞ」


「そんなことはないでしょう。レシピに大金貨を支払えれば構いませんよと言いましたよ」


「だが今は手持ちがないのだ。しかも勝手にお金を支払うように約束も出来ないぞ」


 ヒューズ殿下は財布管理をきっちりされているらしく、どうにも支払いの約束すら出来ないと言うことのようだった。

 どうしたものかと殿下が悩むとアルの頭に顎を乗せて来るので困る。

 首が詰まって痛い。


「あの、でしたら購入は一旦止めていただいて、ここで食べて帰っていただくのではいけませんか?」


 と言ったところ、公爵がならばよしとして、晩餐に誘うことになったのだった。



*****



 晩餐では、アルの作った料理を、皆が殿下に饗していた。

 やれこれが美味い、あれが美味いと必死になって殿下にゴマすりである――ただし、食の祭典で出したものだけを提供している。

 吟遊詩人からばれたもの以外は、教える気がないと言うことの様だった。

 ただし季節柄、果物は一切出していないが。


 すると殿下は何かに気が付いた様子だった。


「……公爵、夫人の身に着けている服は、見たことも無い服だな」


 新しい流行であるか?と問われ、勿論この公爵領で流行発信しているものですと言われる。

 実際はアルが夫人とやり取りをして、着る事の出来るものを探しているのだが、言わぬが花であった。


「これは、姉上たちに報告すれば、凄まじい勢いでこの領に訪れたいと言う事だろう。して、その針子はいずこにおるのか。呼んであるのであろう?」


「城下街の仕立て屋ですので、こちらにはおらぬのですよ」


「左様か。 お抱えの針子でもいたかと思ったが違ったか。では姉上の服を仕立てたい、同じモノを作るのはあれだが、恐らくは色違い程度を頼む事であろうよ。それは夫人、良いだろうか?」


「滅相もございません。こちらこそお願いしたく存じます」


「左様か。であれば良い」


 皆でゴマすりをしているが、何故かアル君は、どこにいるかというと、殿下のひじの下である。

 何でこんなことになった。


 首に腕が絡みつき、ぐええと声が出ると煩いと叩かれる。

 何処かの誰かとそっくりですと言いたく成れば、ぎろりと音がしそうなほどのきつい目線で、公爵に睨まれた。

 何でよ、エスパーか何かかな?


「所で今日は、フローラは居らぬのだな」


「名を存じておられましたか」


「ああ。知っているとも」


 アルと婚約していることも存じているらしく、この間の苺飴も食べたかったと言われるとうぬううと呻き声を上げてしまう。

 どこまでこの皇子、知ってるんだろう?


 フローラと苺飴、それとも服のこともだけれど、何をしに来たんだろう。

 そう考えていると本題に入ろうと言う。


「アルを王家で引き取ると言ったら?」


「なぜ、でございましょう」


「アルのスキルとその有用性が示されたろうと思う。食事などを閃くのだろう?素晴らしい金を生む鶏ではないか! それで姉上たちと話をして、姉上が無属性を持っているならば婚姻してもいいと言う」


「それは………」


 王家から横やりが入ったでござる。




 その後は伯爵がうちの最初で最後の子なのです、どうかご容赦をと泣いて止めてくれた結果、12まで待ってくれると言う。

 フローラか、王家への婿入りか、二つに一つと言われ、何でこんなことにと思うアルなのであった。



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