閑話5食の祭典 続々々 改
来る公爵領、伯爵領の食の祭典が始まった。
食の祭典とは言えど、実際は肉半分、甘味と魚と芋でもう半分だ。
本当であればもうちょっと種類を出したかったが、そこまで時間が無かったので断念した。
にしても、と思う――甘味を多少とはいえ平民も味わうことが出来るようになってきたことから言っても、伯爵領と公爵領がいかに裕福な領地であるかは言わずもがなであった。
「安いよー。魔獣肉だよー。他の領地じゃ食べられない、甘辛なたれで煮込んだ骨付き肉を焼いたもの!ここだけの甘じょっぱい炒め物!甘酢っていう調理法知らないだろう!甘酢あんかけの肉団子だー!さあ、よってらっしゃいなー」
「いらっしゃーい、いらっしゃい、芋の揚げ物なんて、ぜいたく品、今日じゃなければ食べられないよ!塩をふんだんにかけたおいしー、お芋!どうだい、食べて行かないかいお客さん!」
油にこんな潜らせるんだよおと、実演販売をして見せている面々。
その横ではべっ甲飴を売っていた。
「べっ甲飴いかがー!甘いですよー、お嬢さんの顔を書いてあげるよ、おいでなすってー」
「ここら辺じゃあ食べられない、魚料理はいかがだねー!魚にかかってるタルタルソース、美味しいよー!おいら、ここで食べたのが初めてだー!調理人は伯爵家お抱えの料理人様だぞー!安いよ安いよー!銅貨3枚!どうだい嬢ちゃん、買ってきなー!!」
「やってるねー」
アルが油を提供したからこそ揚げ物が出来ると言うことで、公爵も伯爵も鼻が高そうだった。
アルと縁があることで食事が色々と食べられるのも誇らしいのだろう。
嬉しげだった。
昨晩は聖域から金塊を沢山持ってきたため公爵邸に先に行ってきたのだ。
その為遅くなってしまった。
アルはステータスを開き、昨日までに作った苺飴や林檎飴を屋台に並べていくと、いらっしゃいいらっしゃいと声を張り上げた。
すると身なりのいいご婦人が話しかけてきた。
「あらあら、どこの貴族のお坊ちゃんなんでしょうね。今日は何を売っていらっしゃるんで?」
「沢山の林檎飴と苺飴、そして葡萄飴ですよ。お客さん一号になってくださったら、味見をして貰ってもいいですよ。どうですか、ひやかしではなくて、味見何ていかがでしょうか?」
隣の屋台をアルは組み立て乍ら言う。
アルの屋台は一つと言われていたが、端っこに使っていない屋台があったため、こちらも借りることとした。
「じゃあ、味見をさせて貰おうかしら。お貴族様に声をかけられたなんて自慢になるわ。さあ、どれを食べさせてくださるのかしら?」
「美味しかったら皆に美味しかったと伝えてくださいね。では苺飴と葡萄飴をどうぞ。苺に砂糖蜜がかかっていて、とても美味しいんですよ。ぱりぱりっとした飴の下が、じゅわあっと出て来る酸味と甘み。とても美味しいですよ。さあどうぞ」
「あら、いただくわ」
生唾をごくりと飲みながら言う女性は、それなりに裕福なのだろう身なりをしていた。
色付きのスカートを付けていて、生成りのエプロンを上から付けている。
袖のある生成りのシャツに、ボディスは深緑と、これまた色付きだった。
口に運ばれていく苺飴は、恐る恐るなのだろう、一口が小さなものだ。
けれど一口食べるとはしたないと思っているのだろう事は分かるが、大きな口を開けて二口目三口目と食べて、もうないと言わんばかりだった。
葡萄飴がまだあると気がついたらしい女性は、二つの葡萄を口に運ぶと、ぱくり、じゅわりと零れ落ちる甘露に身をゆだねている様子だった。
「これはなんなの?美味しいわ!宣伝もしてあげるけど、買うわ!まずは林檎飴って言うのを頂戴!」
「はい、毎度どうもありがとうございます」
銅貨4枚を受け取ると、安すぎるわ!というのだ。
アルはこの世界にない果物を既に使っていることに気が付いていなかった。
「アル様、如何ですの?」
フローラもやってきたようだ。
彼女が生まれてからは、花祭りといって、花が咲く時期に平和を祈願する祭りがあるだけなのだという。
だからこうした人が出てきて食を楽しむイベントは初めてなのだという、嬉しそうな様子にアルは企画して良かったと思った。
苺飴を購入してくれたフローラは、二つ程これを食べると、美味しいと相好を崩す。
葡萄も美味しいけれど、こちらがお気に入りですのと言って喜ばしい言葉をかけてくれるため、嬉しくなって、一つはサービスだけど、内緒ねと渡した。
「あら、有難うございます」
役得ですわねと言って食べる彼女に、アルは至福を感じていた。
「にしても忙しそうですわね、アル様。お手伝いしましょうか?」
「あ、うんと、………お願いしてもいいかな?」
「喜んで、ですわ」
フローラが手ずから配ってくれる苺飴に人が群がり始めたのだ。
アイテムBOXから出していく端から売れていく苺飴。
葡萄飴も林檎飴もそうだが、大学芋の方と違って、売れ方がおかしいほどに売れている。
理由が分からず首を傾げていれば、ヨハネスはここにきて重大な事に気が付いたとばかりに言うのだ。
苺飴を休憩がてら食べていたヨハネス。
彼は一口むしゃりと食べて天啓をまるで受けたかのように固まった。
「こ、れは、公爵閣下などはお召ではないのですか?」
「う?うん。食べさせてない。驚かせて見せろって言われたから」
自分もパクリと食べるとアルは言うのだ。
さっすがあまおう、美味しいよおおお、と。
「甘い王ですと?」
「う?」
「急用が出来ましたので、行ってまいります」
「え、待ってよヨハネス!!」
まあ、何とかなるか?――そうも言っていられなくなったのは、ヨハネスが居なくなってから10分程度たった頃のことだ。
フローラがどうしましょう、人が捌ききれませんわと言い、アルもこれは予想外だと汗をぬぐう。
けれど何が問題だったのか、アルは今もまだ分かっていなかったのだ。
アルが二店舗使ってイベントを楽しんでいると、ヨハネスが公爵と伯爵を連れて戻ってきた。
彼らはイベントを大いに楽しんでいた様子で、手にフィッシュアンドチップスや、骨付き肉を大量に抱えている。
ヨハネスと共に売っていたはずの苺飴、これがまずかったのだと言う。
「アル、何だこのありさまは。貴様、甘い王を売っているというが、どれほどそれは美味いのか。王と名の付くものなのだから、相当美味いんだろう。どうするこれを」
「は?」
何だろう、何で怒ってるんだろうと脂汗にまみれて考えるが、いやな予感しかしない。
すると公爵は言うのだ。
「この苺とやらは何だ?と言っている」
「ええと、あまおう………あ、もしかして自由貿易で買ったのがまずかったですか?」
ポンと手を打ち言えば、公爵にデコピンをされてしまう。
痛い。
「その通りだ馬鹿者。名前も甘い王などというと聞いては最早この事態の収拾はつかんだろう?兎も角売って売って売りまくれ。お前は少し向こうで作ってから戻って来い。とかした砂糖は鍋に入れて用意してきた。行って来い」
「ええと。分かりました」
「で、では………本日限りですわー!苺飴!安いですわよー!」
「銅貨2枚、買った!」
「俺も買った!美味かったから、土産にするんだ。包んでくれ!」
「畏まりましたわ!ちょっとお待ちになってくださいな」
忙しくて休むまも無いとはこのことだろう。
あまおうは10粒はいって銅貨5枚である。
それを2粒つけて砂糖飴をくぐらせて乾燥させたものを銅貨3枚で出していたのだ。
味にこだわりたいと思ったので、こちらの果物は使わなかったが、それが悪かった。
酸味の少ない甘い果物を食べられるとあって、葡萄と苺と林檎と、全て果物系は凄まじい勢いで売れていた。
此方の世界では、果物と言えば酸味が強くて正直に言ってしまえば、アルのところで売っている果物とは天と地ほども違ったのだ。
今回限りの果物であると言った所、ブーイングがアルの元に聞こえてきそうだったが、フローラは貴族の子女であるため――流石に皆服装からして分かっていたのだろう――文句も出ないようだったが、我慢させているのは分かった。
仕方ない。
苺飴を大量に持ち帰ると、アイテムBOXからこれを出して並べていく。
「この苺の苗を伯爵領から売ることにします。なので農業を営んでいる方は、沢山買って育ててやってください。そのための今回はデモンストレーション――ええと、実物を見せるために行いました。美味しいでしょう?家で作りたいですよね?まず味見のために買ってみてください。どうぞ安いよ安いよー!」
「伯爵領からって何でですか、公爵領から売ってくださいよ。こっちの領地のほうが交易は盛んでしょう?」
「ばっかやろう!伯爵さまの領地の方が、海に面していて、交易は盛んだぜ!!」
売るならやっぱり伯爵領!とまで言ってる者も居て、苦笑してしまった。
その後、兎も角落ち着くまで売って売って売り切ったのだった。
*****
「んで、公爵領から売るよな、アル?」
「アル、私の方が親なのだぞ?親元から販売をするだろう?」
「はひぃ………」
公爵に頭を掴まれて問われていたが、この状態で何と答えれば正解なんだろうかとアルは思った。
「アル様、私あまおう、こちらで沢山食べたいですわ!」
「はい、喜んで!!」
「アル、父は悲しいぞ。ノール、そうだろう?」
「アル!俺も伯爵領から売り出した方がいいと思うぞ!」
「アル、俺も公爵領からがいいと思うよ?ね?」
「いだだだだだだ、あああああああああああああああああああああああああああ」
アルの悲鳴は途切れることなくしばらくの間続いたのだった。
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