閑話5食の祭典 続々 改
いざ実食の時間である。
肉コーナーは、揚げ団子甘酢和え、肉の炒め物と、ブルスト、骨付き鶏肉と、骨付き魔獣肉と作ってみたが、味付けは全てアルの好きなお子様仕様だ。そのためピリ辛が好きな人用に骨付き魔獣肉に、チリソースを浸して食べる物を用意した。
これは小さな容器を用意して、そこにチリソースを入れて銅貨1枚貰うものである。
銅貨1枚だと安いかなと言ったところだが、たまには自由貿易で楽して稼ぎたいと言うことで、こうしてなった。
業務用チリソースを購入し、これが壺で届いたのだ。
これが中銅貨1枚の金額だったので、即購入した。
スプーン一杯が銅貨1枚だ。
濡れ手に粟である。
魚は汁もの、フィッシュアンドチップスとなったが、他に伯爵領ではフライドポテト、べっ甲飴、となった。
べっ甲飴が一つ銅貨2枚で食べられるとなってるため、かなり破格となっている。
砂糖が麻袋の小さいもので銀貨4枚だと言うのだから、砂糖を食べたことがない者が群がると思われるため、屋台を三つほどべっ甲飴にする予定だ。
公爵領と伯爵領では、これを領主のお抱え料理人が作ることになり、当日まで必死になって料理を勉強して、味をああでもないこうでもないと決め手を探していたものだ。
だからアルも他にシロップの作り方を教えて、ジュースを作るのはどうでしょうとしたのだ。
シロップを作るのに、熟成の魔術を使うべきかと思うだろうが、サングリアのようなものだったら、一日二日程度で出来る。
砂糖と果物があればそこまで時間は要らないのだと思うのだが、熟成させた酒に漬けた甘味を食べさせたことがある為、皆納得のいかない様子だった。
そしてこれが嬉しかったのだが、他にアルの屋台を一つ出していいと言われたので、自由貿易で買った品を売る店でも作るかと考えた。
だが、ズルはいかんと言われている。
どういうことだ。
「自由貿易で買ったものだけで戦うのはズルだぞ?」
「じゃあ、なるべくこちらの物で戦います」
平民にはこれらを「後は作るのを手伝うだけ状態」で見せるらしい。
調理法を教えないという徹底ぶりにはいっそ公爵たちに「そこまでしてレシピを守りたいのかよ」と言いたいが、それを言ったらレシピ代で稼げたのだから、同類かと思えばがくりと肩を落とした。
「うむ、このフィッシュアンドチップスというものは美味いな」
「タルタルソースが美味いんだろうが。こっちの魔獣肉で作られたたれ漬け焼きの方が美味いぞ。チリソースもつけたら絶品だ」
「わたしはべっ甲飴がいいですね」
三者三様の様子だが、子爵がべっ甲飴を気に入っていて閃いた。
当日はあれをやろうと思ったのだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、べっ甲飴売れますかね?」
「売れますよ。交流の祭典ですからね。魚肉も魔獣肉も大量に仕入れて見せます」
「公爵閣下、私のところで何を売ってもいいんですよね?ちょっと考えてますけど、良いなら本気出しますよ」
「ほおぅ?なら頑張るがいい。そうまで言うんだ、俺を驚かせて見せろよな?お前の本気を見せてみろ」
「私もあなたの本気が見てみたいですね――さ、それではべっ甲飴食べ終わりましたし」
さあ、売りますよと嬉し気な子爵に、アルはにんまりと笑顔をくれてやった。
当日、一人勝ちする自信がわいてきたのだ。
*****
フローラにアルは訊ねた。
どの果物が好きですか?と。
「ええと、林檎と、木苺と、ブドウですか?サイズが違いますけれど・・・後は、これは・・・・・なんでしょうか?」
「芋です」
「芋?芋というと、あの土に埋まっているものですか?」
「左様です」
紫色をした芋を見て、へえと表情を明るくして不思議そうにしているフローラ。
そんな彼女に一つ蜜芋と言いますといって、揚げた芋――サツマイモに、砂糖をくぐらせたものを食べさせてみた。
「美味しいですわ!なんですのこれ?蜜芋?これ、もしかして例の祭典で出すのですか?」
「左様です。ですからフローラさ、――フローラの好きな物を出したいと思って」
フローラには様付で読んで欲しくないと言われているため、そうしているが、よくよく考えるとこれもまたおかしい。
フローラはアルを様付で呼ぶのだ。
なのにおかしいではないかと思う。
話しを戻そう。
葡萄と苺と林檎、他には剥いたライチ、乾燥させたキウイなども用意した。
これに棒を差し込んで、一本の棒に果物がついた状態で溶かした砂糖をくぐらせるのだ。
後は簡単だ、乾燥をさせれば食べられる、林檎飴に苺飴、葡萄飴にライチ飴などだ。
どうだろう、これは美味しいかなとすれば、ドライフルーツのモノは甘ったるすぎて食べられないと言う。
であれば、他の新鮮な果物であれば行けるかと思えば、ライチは独特の風味が甘みが強いものもあり、少し癖が強いし、直ぐに飴が脱げてしまうと言うのだ。
だから林檎、苺、葡萄で作ることにした。
成程、今まで地球の露店でやっていた物だけOKなのは、矢張り理由があり、それも露店の人達の研究の結果なのだなと思い断念したのだった。
「ねえ、お父様にこれ、食べさせてもいいかしら?」
「駄目、フローラ。当日アッと驚かせるんだから。駄目だよ」
「じゃあ一つ幾らで売るの?果物もついているのだから高いわよね」
「一つ銅貨4枚かな。高くてそれかな?でも美味しいからね、売れるといいな?」
「苺は銅貨3枚ね。林檎は大きいから銅貨4枚かな。ふふふ、面白いわね」
その後フローラの部屋で味見を終えたらアルは公爵と伯爵に食べさせたいと言われたことなどすっかり忘れてしまっていた。
これがのちに大騒動に発展することなど、この時のアルには思いもよらなかったのだった。
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