閑話5食の祭典 続 改


 何と言っても困るのはフローラ達だ。

 公爵はどうでもとまでは言わないが、伯爵にも世話になっているし、きちんとしたい。

 技術供与するのは当然と言えた。


 腸詰めを作り終えると、一つずつこれをくるくると巻いて、一本分を沢山作っていく。

 これを作り終えたら、ミンサーとボウルを貸し出すのはいいが、これは危険な道具だから、きちんと怪我の無いよう使って貰いたいと告げた。

 自分の指を入れたまま使ったりしないように、ということである。

 ヨハネスはそうですね、まったくだと木札に記していく。


 異国によってはこれを木札ではなく、竹簡に書き記しているのだという。

 これまた面倒なと思うが、確かに古代中国ではそうしたことをしていた歴史を知っているだけに、理解出来た。

 だが、これはどうにも幅を取るため、矢張り紙の作り方を教えることは急務であるなと再度考えた。


 紙さえあればインクを作って印刷機を作って、そして色んなものを後世に残せる。

 だが木札では書き終れば削ってなくしてしまうことになる。

 それは行けないと思った。



*****



「と、言うわけで、これはブルスト、ウインナーなどという名前がいいと思います」


「腸詰ではいけないのですか?」


「腸詰って言うと、何か皆嫌なもの想像しそうですから、食べておいしければどう作るの?ってなりますよね?」


「そうですねえ………」


「ですけど食べる前に腸って聞いたら嫌な気持ちになりませんか?」


「なる、なります」


 肉の解体をこの世界では皆行う。

 街の外に出て皆で肉の解体を行うのだ。

 謝肉祭や、冬ごもりのために。

 と言ってもここの地方では雪はめったに降らないが、それでもみどりは失せるため、老いた豚と牛を潰すのである。

 そのため肉の加工で腸を見たことのある平民は多い。

 見た事のないものは、幼い子供くらいのものだった。


 つまりそれだけ肉は皆にとって身近な素材なのである。


 ――という事は、公爵領の者からすると、魚が大変な高級食材という事になるのか。

 ふむ。


「肉の炒め物と、ブルスト、骨付き鶏肉と、骨付き魔獣肉で大体がいいと思います」


 アルがこう言えばヨハネスは、恐らく公爵からプッシュされたのだろう、甘味を推してきた。


「他は甘味などはどうでしょうか?伯爵領と合同であると言う事であれば砂糖を安価に出すことも出来ましょう?」


「そうですね、庶民の甘味ですから色付き砂糖の方で安価に少しだけおろして貰うよう言ってみましょう。祭典の為ですからと言えば商店も商いをやる関係で安くしてくれますよ」


「そうですな」


「魚はこんな感じで下ろして三枚にしたら、骨のついた部分あるよね、ここをあらといって――あらでとった出汁が美味しいんだ。だからこれで出汁を取って汁ものを一つだそうと思う。作ってみるね」


「はい」


 なれた手つきで魚を捌いて行くアルに、ヨハネスは不思議そうな顔をしている。

 元奴隷と同じように、アルは神の国から聖域を任せられた神の使者だと思っているヨハネス。

 その為不思議そうな顔をしていても、お前は異端者だとか叫び散らす事の無い楽な人選であった。


 あら汁を出したらきっと問題になるから、あらで出汁を取って、次に魚をぶつ切りにしてそこに入れれば完成でいいだろうとする。

 魚の汁ものを一つだ。


 次に魚のフライだ。

 酒と塩で臭み抜きをしたら、固焼きパンをぐしゃぐしゃに潰して粉にする。

 揚げ物を作るのである。

 大量に作るのであれば油も勿体無くはないだろうと言う事だ。

 卵小麦粉パン粉と用意して順にくぐらせていくと、油でこいつを泳がせる。

 そしてきつね色になるまで揚げたら完成である。


 タルタルソースを作る過程で習いたての浄化を試して、ちょっと気になったので、もう一度ヨハネスにかけて貰っていざ実食。


「待ってください。全て作ってから食べる話しでしたよね」


「あああああああ、美味しいのが分かってるからつらいいいいいいい」


 腕を掴んで止められたアルは、よだれが垂れてくるのをすすって何とか凌いだ。

 とてもじゃないがフローラには見せられない顔をしていたはずだ。


「これで二品だから、次はどうしようかな、魚だから………魚を離れるか。最近コッチに私から仕入れた芋を作ってる領地が増えてるよね。じゃあその芋を揚げよう」


「はっ、用意します。芋を持ってきてくれないか!」


 廊下に出てヨハネスが声をかけると、即座に男爵イモが届いた。

 これの食べ方を教えるよと言って、大量の男爵イモを全て水で洗い、たわしでこすり上げる。

 どれも取れたての様で、芽が出ていない新鮮なものだった。


 全て皮をむいたところで、こいつを全て味を調えた小麦粉にくぐらせて、油に泳がせるのだ。

 じゅわああああ、いい音がする。

 塩を振って食べたい。

 けれどどうせなら取れたての芋なのだから、と、ミネラルたっぷりのピンク岩塩を自由貿易で取り寄せた。

 これをごりごりと音をさせて振りかけて、揚げたての熱を感じるところに塩っけを足せば完成である。


「芋揚げね。これは伯爵は知ってるし、好きだから大丈夫だと思う」


「左様でありますか。これは………いい匂いですな」


 ヨハネスがよだれを垂らしながら匂いを嗅いでいる。


「でしょー。これ美味しいんだよ。ちょっとだけ食べてみない?」


「駄目です。公爵閣下もお待ちですゆえ」


「うう……」


 的確に逆らえない人の名前を出されれば静かにならざるを得なかった。


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