閑話5食の祭典 改

閑話5


 食の祭典を開こうと言われた。


「公爵領と伯爵領の境目でやろうと言う事なのだが、どうだ?」


「どうだ、と言われましても。やってみたらいいのではないでしょうか?」


 それこそ人が集まることになるだろうし、大々的に食事が美味しいとか分かれば、食の都として人が集まる事は請け合いだ。

 それは分かってるだろうに何でアルに聞くのだろうか?

 どういう事だろうかと思わなくも無かったが、いやな予感がするので丸っと無視をする。

 すると公爵はいつも通りアルの頭をがっしと掴み、お前が総指揮官だと言うのだ。


 何でだよ。



「えー、平民の皆さんに伝える言葉ですか?もう何でもいいですよ」


「良くはありません、アル様!このヨハネス、きちっとアル様の偉大さを平民達に知らしめ、そして後世に語り継ぐと約束をさせて見せましょう」


「何でそんな大層な事になってるのか分からないんですけれど、とりあえず、この土地の沢山取れる肉、魚、野菜、果物何て物を教えて欲しいのですが。公爵領と伯爵領の双方でですが」


「公爵領はまず魔の森に面していますので、そこの魔獣がおりますから、魔獣肉を使った肉料理が盛んですね。魔獣は食べると魔素の働きで肉の旨味が凝縮されているように感じられる、高級食材です。ただし取ってきて直ぐ食べなければならないため大変ですが」


 そこは家畜と違うんだよなあと言った所だろうが、確かに取ってきて直ぐに使わないといけないのだ、このプランの中に入れるのは大変かもしれない。


「伯爵領はというと、辺境伯領であるため、こちらは海に面していますので、海魚などはどうでしょうか?湖もありますから、そちらの魚もいいですね。如何しますか?」


 と言われれば俄然やる気が出るというものだ。

 魚美味しいんだよな。

 道理で時々魚料理が出て来ると思ったと言えば、地理の勉強をそろそろしましょうかと言われる。

 まだ6歳で内政の勉強をするレベルではないためしていなかったと言われれば何とも言えない気分になる。

 自領のことくらいはちゃんと知っておきたいぞ。


 魔獣肉はとりあえず、ウインナーなどにするとか、そうしたことを考えて見よう。

 兎も角日持ちを指せる方向で行くことにした。

 だが魚はどうだろう。

 海に伯爵領は面している、が、伯爵邸からは遠いし、公爵領との境にも遠い。

 魚を今回使うのは却下するべきかもしれない。


 それか湖ならば海と繋がってると言われる湖があるし、そこで取れる魚でどうだろうか?

 そちらだったら行ける気がする。


 いずれも量を用意して貰って、アルは自分で使えるようなナイフがないか調べてみたが、無いため断念。

 仕方なく自由貿易内にある、三徳包丁を使うこととした。

 用意された魔獣肉のあばら肉を、少し切って使えるようになった火の魔法で炙って食べる。

 勿論塩は振った。

 確かにこれだけで美味しいので、魔獣肉を使いたい。

 アルはミンサーを自由貿易で購入することにした。

 ミンサーのアルからすると大きなボウルを二つ用意して、えっさほいさとあばら肉をミンチにしていく。

 勿論大きなボウルも自由貿易産である。

 ボウルにそれらを突っ込み、栽培に成功した胡椒と塩を突っ込み粘りが出るまで混ぜていく。

 ハーブが無いか調べてみると、庭に鬱蒼と茂っているところがあり、薬草園だと言う。

 そうだ、薬草を入れたらいいんじゃなかろうかということで、アルは聖域にダイブして、薬草を取ってくることにした。


 全て齧ってみると、リーファが美味しかったため、リーファを入れることにする。

 根っこまで丁寧に取っていかず、ぶちぶちと葉っぱを千切って持ってくる。

 地球で言うところのリーファはバジルのようなものだ。

 あれに一番味が似ていた。

 これと他に風味漬けに出来るのは、エリヒューラである。

 エリヒューラもブチぶち千切って持っていく。

 これはローズマリーに似ているのだ。

 肉が美味くなりそうで嬉しい誤算である。



 ボウルにみじん切りにしたそれらを入れて、粘りを増していく肉を満足げに見て一言。


「これを、次に内臓を洗ったモノに入れるんですけど………今回は手間を省くので、一度覚えておいてくださいね。私がスキルで出しますけど、内臓だってことだけ覚えててください」


「はっ!畏まりました。では、平民の前で出す際は、これは内臓を洗ったモノにする?ということですね?」


「そう言う事。内臓の洗い方もやっちゃうけど、魔獣肉の内臓も今度から持ってきてほしいってことね。よろしくね。もしくは家畜潰したらもってきてほしいってこと。まあ潰す前に数日絶食させておかないと、内臓の中が汚くなっちゃうから注意してね」


「分かりました」


 内臓の洗い方を自由貿易で購入した大量のモツと格闘しながら見せていく。

 それらを木札に順序だてて書き記しているのを見て、そろそろ木札じゃなくて紙の作り方を教えた方がいい気がして来たと言うのであった。


「は?紙の作り方、ですか?」


 紙はどうやらこれもまた、他国から輸入しているような状況らしく、紙を買っているのだとか。

 だから紙を買わずに済ませて自国で作れればいいのに、と思ったのだ。

 今は自由貿易で私はどうこうできるからいいけれど、アルが居なくなったときは困るだろうし――と思えば差し迫った事態と言えなくもない。

 アルもこんな若い身空で死ぬ気は毛頭ないが、それでもトゥエリのようなこともある。

 いつ命を狙われるとも言えないのだから、必要と割り切って、教えるのは当然と思えた。

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