閑話3男の甲斐性 改

閑話3


 ドレスを一着見繕ってくれと言われるのが一番苦手だった。

 勿論公爵にだった。

 伯爵には因みに、ドレスをプレゼントしては、有難いと伯爵夫人に着てもらっている。

 エリミヤにも送ろうか迷うが、トゥエリと一緒の状態で物を送ると増長しそうなため、トゥエリ付きじゃなければ送るのになあ――と言ったところだが。



 話しを戻そう。

 公爵の妻は、第四夫人まで居る。

 ノールには第二夫人だけ、伯爵には第一夫人だけが居る状態なため、公爵の家の事を考えるとなんだか気を揉んでしまうのだ。

 四人も奥さんが居たら大変だろうになあ、と。


「どうだ、アル。描いたか?」


「ええと、貴族の服で、こういう物と、こういう物が自由貿易で購入できます」


 袖が膨らんで、一か所飾りで縫い止めてボタンで留めてあるもので、袖は大層長い。

 それが一着。

 そして袖がないが、胸で切り返しがなっている一着は涼しげでいいだろう。

 それで二着。

 高襟でレースが裾からはみ出すように随所に使われている一品もある。

 それで三着である。

 そんなドレスは貴族服で検索をかけて探し出した一品ばかり。


 コルセットを使っていない世界なのでまだ楽だが、これでコルセットを使っている世界の服を用意しろと言われていたら詰んでいたと思う。

 フローラがあまりに可哀想な服で、アルは想像するだけで胸が痛んだ。


 医者だったこともあり、骨が歪むのを耐えてまで着物にかける情熱とは何だと怒り出したい気持ちもある。

 だが、美に対する情熱を持つ奥方たちにそれを言ってはいけないのだろうから、黙って致し方ないと、ドレスを用意するだけである。

 公爵も新しいドレスを用意してくれといい、小金貨を渡してくる。

 自分で誂えれば大金貨が動くだけあり、小金貨でドレスが何着も買えるならば御の字と言ったことなのだそうだ。


 そうはいっても選ぶ方からすると辛い。


 フードのあるドレスに、腰回りを絞ったタイプだったり、胸の下で切り返しの衣装だったりと様々あるが、いずれもチャックがあり、装着するのに即座に装着できて便利だそうだ。

 フローラにもドレスを渡したいところだが、フローラに合せたサイズというと、アリスのようなエプロンドレスの衣装となるものしか見当たらなかった。

 貴族服が出てこないのだ。

 その為サイズが合わないのでと言ってお断りしている。

 皇子さま衣装、子供服で検索すると男性用は出て来るようになったのだが、遺族衣装、王族服で出てきたそれらを見て、サイズが女性用だけ子供服が見つからないんだよなあとぼやく。

 フローラの笑顔の方が欲しいのだが、難しいので何とも言えない気分になったのだ。


 因みにフローラは第一夫人の子である。

 公爵は第一夫人からフローラを授かった時、この子を跡継ぎにすると宣言しており、他の子もいるには居るらしいのだが、遠方の住まいに引っ越しをさせていて、第四夫人まで居ても、異母妹異母弟は相続にすら関わる権利をはく奪されているのだと言う。

 まあ貴族の家なのだから当然と言えば当然だが、そんなものなのだなあと思ってしまう。


 その代わりに今から商いをするにしても、外の貴族家に嫁ぐにしても、婿に入るにしても、援助を惜しみなくするだろうと言われているのだそうだ。

 実際にフローラよりも早く生まれたらしい第三夫人の子は、男児であり、その子は外に商いをするために出ているのだそうだ。

 今はふわふわとしたあの食事会で出たパンの秘密を探りたいと、公爵に泣きついているのだとか。

 確かにあれは伯爵家では食べられるようになったが、基本レシピを買った公爵家でしか食べられないため、公爵に泣きつくのは合っているのだろうが――公爵が涙くらいでパンの秘密を売るわけもなく。

 交渉するたびに泣かされて帰るらしい。


 ――にしても、本当にミニサイズのドレスがない。

 貴族服と言っても、それこそ近代のモノしかないため、一人だけサテンの衣装で浮いてしまうのだ。

 その為フローラには衣装を買い与えられず、アルは泣く泣くドレスをプレゼントするよと言って、ドレスをオーダーするのであった。

 子供用とはいえ、オーダーすると大金貨がちらつくレベルだったため、目玉が飛び出て帰ってこない経験をさせていただいたのは言うまでもないことだった。


「有難う御座います、アル様。アル様の髪色で仕立てたいと思うのですけれど、宜しいでしょうか?」


「どうぞ、構いませんよ。むしろ嬉しく思います」


 濃紺の色で仕立てたいと言われればそれは構わないと言えるのだが、その濃紺にするための色粉はあまりにも手に入らない物でないことを祈るばかりであった。

 ドレスにかける財力は男の甲斐性と何度も唱えるアル。

 だが貯めてきた貯金が一気に目減りするような錯覚をしたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る