貴族編6歳~

閑話2トゥエリの信奉者の末路 改



 何でまたこんなことになっているのかと思った。

 食の開発者として名をはせることになったアル。

 今までにない、蒸し料理と、揚げ料理を誕生させたと話題になった。

 麺料理も今までにない食事であり、これもまた大ヒットすることになり――気が付くと開発費用だけで馬鹿みたいに金が入ってきているということであった。


 ただし、そんなアルだがウハウハしているかと言われるとまた別で――


「後継者として名をとどろかすのはアル様でしたね。アル様でしたらこれくらいできますよね?」


 矢鱈と姉トゥエリの家庭教師もとい、魔導士をしていたカザーリアはアルを目の敵にしている。

 実際にトゥエリと違い、即座にアルは身に着けて言ったそれらに、カザーリアは逆に闘志を燃やして潰すと言ってきたことまであるのだ。

 何故そこまでアルを目の敵にしているのか分からない。


「トゥエリがそんなに好きだったら、普通に男爵家に跡取りの一人としていってるらしいですから、追いかければいいじゃないですか」


「男爵家にはそう言った余裕がないそうですから、仕方なく!アル様を鍛えております」


 つまり、トゥエリ信奉者としては追いかけたいが飯の種は別だということらしい。

 現金な奴めと思った。


 カザーリアにそう言った事をあけすけなやり取りとして毎日していれば、流石に伯爵の耳にも入るのだろう、注意が飛ぶこともあるようだ。

 だが、カザーリアを別に好きにしていいと言ってるのはアルなのだ。

 だから良いじゃないか、と、このように彼は言ってるらしい。

 別に好きに言ってくれて構わないとは言って無いし、好きにしていいとも言っていないが、別に気にしないのは確かだ。

 命の危機がある限り、それ相応の魔導士に仕えて貰わなければならない。

 それこそ身体強化に攻撃魔術、どちらも相応に出来るようになって自分を鍛えておかねば次こそは殺されてしまいかねないだろうから。

 姉のように何年かかっても力の加減が出来ないと匙を投げられているわけではないため、そうしたところは認められているようで、学びがいい時はカザーリアも鼻を鳴らして合格ですとそっけない様子で言うが、機嫌はいいらしく、手加減してくれることもある。


 そんなこんななわけだが、魔術を学ぶと言うことで、適正魔術を今は調べているところだ。


「本来魔術というのは全属性のうち、2つ3つ適正魔術があると言われています。男爵家であれば恐らくは一つ程度でしょうが、上に上がれば上がるほどに、その適正魔術は増えるとされています」


 そう言った婚姻の歴史があるからでしょうと締めくくられれば成程と頷いた。

 伯爵家であれば三つ程度あるのは当然で、トゥエリは自分で言っていたが平民出身であるにもかかわらず、二つも宿していた凄い――という事らしい。

 血が薄まっていればそれは相当弱くなっていて、一つくらいしかなくなっていてもおかしくないと思われるのだけれど、それも無いのだから素晴らしいと言う事のようだが、果たしてアルは適正魔術は何個ありますかねえと、ニヤニヤとカザーリアは嫌らしい顔をして笑う。


 まるで早くこき下ろしてやりたいとでも言いたげだ。

 失敗をするとこうして笑うので、分かりやすい人物であるとも言える。


「火、風、水、土、闇、光、空、無の属性があるとされています。無属性というのは、全属性を持つとされる王族が持つとされる属性ですね。ですから他の貴族がそう言った属性を持つことはほぼないとされています。――と言っても、トゥエリ様はお持ちでしたが!」


 ああ、道理でトゥエリ信仰が激しいと思った。

 王族しか持ってないだろうと思われる属性を持っているからだったのか。

 だからねえ、と思って思わず頷いていれば、鞭が飛ぶ。

 パシンと破裂音をさせて足元の地面をえぐると、カザーリアはニヤニヤとしながら言うのだ、さあ見せて貰いましょう。

 一つずつやりましょうね、と。


「さあ、この魔術具を触れてみてください。古くとも性能は良いので、どの属性を持っているか即座にわかりますよ」


 ふふふ、と怪しげに笑うカザーリア。

 アルはうんざりした様子を隠そうともせずに言うのだ、男に私の属性は何属性あるの?と。

 事前に知っておいた方がいいだろうと言う事ではなく、カザーリアが小細工をしないかと思ったのだ。


 すると男は『全属性です八属性全て持ってますよ。転生特典というものですね』というのである。

 これを聞いたカザーリアは顔を真っ赤にして言うのだ。

 何を言っているのですかと。

 そんなはずがないとも。

 アルが発しているわけではないが、誰かがアルを先に調べたと思ったのだ。

 だがこれで、全属性本当にあったとしたらカザーリアはこれを嘘を吐いたわけではないとなりこのまま教育続行。

 だが嘘を吐けばさよならだった。


 魔術具は握りしめる型をしており、握りしめた途端、八つの光が手のひらから飛び出した。

 それを受けてカザーリアは、残念ですわね、四つも無い様子ですわ!と叫ぶ。

 周囲に人が居たため、その行いは伯爵の元へ即座に届けられ、即日カザーリアは解雇されたのであった。



 この時代この世界では、次の職を見つけたいのであれば、解雇だけはされると困るのだ。

 紹介状が無ければ勤め先が見つからないのである。

 だが紹介状が無ければ解雇されたという情報は筒抜けになるため、勤め先は探せなくなるだろう。

 勤め先が無くなり飢える可能性もあるだろうが、知ったことではないと伯爵は言うのであった。

 アルはそんなことも知らず、のほほんとしているが、彼を守るために皆全力を尽くしているのであった。




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