閑話1自由貿易で買ったものを食べたいぞ 続々々 改
再現出来る料理という事ならば、まずは天然酵母を作れば出来なくはないため、ふわふわパンを幾つも出した。
これを出して、スープ類もゴロゴロ肉のポトフ?のようなものにしよう。
それと肉は牛肉を焼き目をつけて保温することで中に火を通す方法なら出来なくはないので、ローストビーフもいいだろうし――
こう考えてみると、この時代でも出来なくはない物がたっぷりとあることに気が付いた。
揚げ物だって油さえあればできなくはないし――と、油を提供することにしてみた。
実際に揚げ物だって出来るのだから芋あげやらなにやらを簡単なのだから、作る方法を教えられるものは教えることにした。
後は甘味と言ったらパウンドケーキとカップケーキ、それと生クリープホイップを添えて出せばいいし――生クリームなら、牛乳を搾ったら放置するだけで出て来るから簡単だろう。
後はそれをホイップする器具が必要か。
フルーツを盛って作るフルーツショートケーキもいいだろうし。
作り方を教えて出来なくはないだろうが、これはもうオーブンを使って作った物だ。
オーブンを使いこなせるかどうかが重要になってくるというものだった。
「それとなく聞きたいことがあるんですが、オーブンがありますって聞きましたけど」
「貴族の家には大半あるぞ」
「ああ、ありますよね。オーブンを使いこなせる人じゃないと、どの料理も大変ですよ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だろう。作り方を教えてくれるなら、金貨を惜しむ事もないぞ。お前のお陰で我が国の金貨は流通量も戻ったし、何でも叶えてやってもいいと言える」
公爵の言い分を受けて、そうかとアルは頷いて見せる。
「そうですか。じゃあ作り方を教えるのはいいですけど、平民の料理人に教えてあげるんですよね。私、直接平民と話しをしていいんですか?聖域とは違って直接話すのでしたら、伯爵閣下が居てくれると何が言ってはいけないとか教えてくれるから有難いんですけれど」
と言えば、馬鹿者と頭を叩かれた。
「普通は直接やりとりをしない。従者に伝えて置いて、従者からそう言う作り方だなんだと教えるモノになるだろうな」
「分かりました。直接の言葉ってやっぱり恐れ多い事なんですね?」
「そうなるな」
だから一々聖域の村では、みんなが声をかけるたびに静かになっていたんだ。
道理で反応が鈍いと思ったよ。
もっと大げさになっても良い所、静かに反応を返されてゆっくり反応を返されて――だったものだから、あまり面白いとは言えなかったためがっくりと来ていたのだ。
聖域に連れてきたのだから、もっと大仰に驚いてくれて楽しんでくれたらいいのにと、思っていたから。
「じゃあクリスピーじゃない、パンピザを作りましょう!」
「なんだそれは?」
「これです!パン屋さんのピザです!」
通販できて良かった、これ好きなんですよと言えば、首をかしげていた公爵。
この世界にはパンに何かを乗せるとか、挟むと言う概念がまだないため、初見でインパクトがある食事となるだろう。
これをこうしてと、手に持っていくと、カトラリーを使わずにがぶりと食べて見せる。
「こうするんです。 勿論カトラリーを使って見せても構わないですけれど、どうしますか?どちらでも食べられる食事なんですよこれ」
「じゃあカトラリーを使った方がいいだろうな。手が汚れるから嫌う者もあろう」
成程納得。
確かにそうだと頷いて、ぺチぺチと新しい物を次々と出していくと、公爵はカルパッチョが出てないと言う。
「ああ、あれですか……カルパッチョ気に入ってるようですけれど出しませんからね」
「何故だ?」
「寄生虫が怖いんですこの世界。だから私が出した物だけ食べてください。いいですか?」
「じゃあ、毎日食べられぬのか。 早くフローラと婚姻してこちらに来い」
毎日食べる方法はそれしかないため言うわけだが、そんなこと無理に決まっていた。
この国での婚姻可能な年齢は、12歳からである。
その年までは年齢的に結婚が出来ないのだから無理であった。
「無茶苦茶ですよ。私はまだ6つになろうと言うところですよ、まだまだ早すぎます」
そうだが、12まで待つと言ったところだったが、待たずにいいではないかというのだ。
早すぎるってば。
よし、これでいいだろう。
ずらりとテーブルの上に調理法を知っている食事を並べて行けば、公爵は知らない物がたくさんあると嬉し気だ。
うきうきとしてくれるのは良いのだが、並べてみたものは今回自腹だ。
明日の分に響いてはならないためである。
さあ小銀貨1枚、大銅貨3枚分の食事である。
きっちりと食べてどれを並べるのか考えて貰おうじゃないか。
「この甘味いいな。何という?」
「パウンドケーキと言います。作り方は簡単です。混ぜて、次に焼くだけで出来上がるようになります。だから簡単ですよ」
膨らし粉は流石にないだろうからアルが提供すればいい。
もしくは卵白を掻き混ぜてそれで角が立つまで掻き混ぜれば、それを混ぜ込めば膨らむだろう。
「成程、これは何が入っている?」
「南国の果物ですね。干した物を酒に漬けて入れてあります」
「あー!お父様ったら、アル様と二人きりで何ですの!?しかも美味しそうな臭いがしますわ!?」
「おお、きたかフローラ。食べると良い。明日出るもので、料理長に作らせたものではないが、アルが作った物だ」
「ええと、そうです」
「ええ?!これを、アルさまが?」
まあ作り方は知ってるから嘘は言っていないのだが――いや、嘘しか言ってないの間違いだった。
「美味しいですわ!これなんですの?アル様」
「こっちはカップケーキ。南国の干した果物が入っているよ」
「まあ、素晴らしいのですね。高価な物を有難うございます」
素晴らしいですわと一つ一つのケーキを食べてはうっとりしているフローラ。
そしてこちらは甘味も一通り食べ終わったので、揚げ物ばかりを口にしていく公爵。
胃が受け付けないってことも無いのだろうが、二人とも脂っこい物ばかりよく食べるよと思ったものだった。
そんなこんなで来る翌日。
食事会は昼食を抜いた、三時頃からスタートした。
たっぷりの油を泳いだ肉の塊は、豚カツという。
生肉のように見えなくもない、血の滴るローストビーフは、これで火が通っているのだと言われて皆の興味を引いた。
サラダも各種取り揃えており、以前より安価で揃えることが出来るようになったため、これを取り出してふりかけるは胡椒である。
胡椒がふんだんに使われた芋のサラダに皆釘づけで、まったりと濃厚な味をしていると評判だった。
『マヨネーズって、この世界に大丈夫なんでしょうか?』
「浄化の魔法があるらしいからいいって言われたから出したよ。そこらへん抜かりないよ。でもありがとうね。心配してくれて」
『いえ。矢張り魔法がある世界は便利ですね。地球担当でもあるから思いますけれど、衛生の観念が違うのも善し悪しですからね』
「そうだね。前の世界と違って大変だと思う事も多いけど、こっちも楽しいと思うのは魔法あってのことだからね」
身体強化を覚えるまで時間がかかったけど、でも出来るようになって自身が強くなるってことで嬉しいと思った。
ただ、それを受けて調理ができるようになったなと言われたのは誤算だったけれども。
「大盛況だったぞ!」
「おめでとうございます。では料理を教えるように紙に書いて持ってきますから、一旦下がらせて貰いますね」
「いや、待て」
「は?」
「皆さんこの料理のレシピを知りたいと言う。だから俺だけに教えるんだ。いいな?」
「は………はい。分かりました」
フローラがどうやらアルが教えてくれたレシピで作ったとか、アルが作ったと教えてしまったのだそうだ。
だから攻撃が御前に行くぞと言われ焦った。
今回は自由貿易で買ったものを出したに過ぎないが、まだ調理が出来るようになっていない料理人たちが可哀想だからと言って、アルが矢面に立てば食い散らかされるようにして、お陀仏である。
兎も角逃げねばと思えば、伯爵が、私には教えてくれるよね、と逃げ道を塞ぐようにして、言った。
「は、いぃ」
「よし、言質を取ったぞ」
「おま………あれほど言っただろうが!」
「でも、ですけど、義父ですから!一緒に暮らしていけばそのうちそうなりもしますよ。ね?お義父様?」
「そうだろうな、アル?」
「俺だけ払うのはおかしいから、伯爵もきちんと支払うように!レシピ代だ!」
分かったなと言われ、伯爵は勿論と言った。
双方ともに引く気がないため、アルは寒々しい空気の中脇に手を差し込まれ抱き上げられてしまい、逃げることもかなわない。
早く終われ、兎に角終われ!そう願うばかりなのであった。
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