そう言えば姉が居るんでした1 改

 工作の魔法を使って、フローラにプレゼントする予定の彫像を作っていると、ばたばたと屋敷内をかけて来る忙しない音が聞こえる。

 一体誰だろう?

 何かあったのだろうかと思い、手を止めて上を向いて見ると、扉をバンとあけ放って入ってきたのは予想外の姿。


「アル!アルでしょ!遊ぼうよ!」


「え………」


 どなたですかとは流石に言わない。

 けれど正直言ってしまうと年単位で会っていない姉だと思うから、何とも言いようがない。

 皆で食べる昼食も彼女だけ外されることが多いし、昼食を食べたと同時に魔法訓練と言って連れて行かれる彼女と関わる時間は、正直言ってないと言ってしまえばそれまでだった。

 そんな彼女の顔を忘れたかと言われると、忘れてまでは居ないけど――年単位あっていなくて赤子の頃も力加減の出来ない子供は危険だからとあっていなくて。

 正直身内意識が薄いのだ。


 しかも今はスキル検証で、様々なスキルを使ってどこまで何が出来るかをやってみるところだ。

 フローラにあげようと物を作っていたのもその一環。

 何個彫像を作っても大丈夫で居られるか、だそうだ。

 それをぺらぺらとモノを知る端から喋ってしまうと言われる彼女――。

 正直に言って会いたくなかった。


「ねえ、何してるの?遊ぼう?正午から今日はお休みを貰ってるの。だから、ね?!」


 行こうよと言って、強引に腕を運ぼうとするので嫌がるアル。

 アルは「あなたはトゥエリで良いでしょうか」と聞くも、かたッ苦しいなあと嫌そうに手を振られる。


 「トゥエリだよ、大丈夫もういいから。貴族の子って言っても、私達元は平民だしさ」と、そのことに触れてはならないと言われてる言葉すらも、軽々しく言ってしまうトゥエリに、アルは危機感を抱いた。

 この子、今まで何を学んでいたんだろうか。


 けれど抵抗したくとも出来なかった。

 腕を強引に掴んで連れて行こうとする膂力はすさまじいものがあり、それは大人並だと言って差し支えなかった。

 引きずられていく、どこに連れて行かれるんだろう、頭はパニックだけれど、妙に冷めてもいた。

 なんだか、おかしい、そう思ったのだ。


 だから如何にかしなければと思い、エリミヤを呼んだ。

 母上どうにかしてくださいと叫ぶと、義母と母親のエリミヤがやってきた。


「あなた達、何をしているの!?」


「母上、助けてください!」


 2人を引きはがして貰った時には、アルの腕は、ぐしゃりと折られていた。



*****



「無意識に身体強化魔法をかけているらしく、力加減が上手くないんだ。済まない」


「済まないではない!まだこんな状態だったのか!トゥエリ、いい加減にしなさい!そもそも今日は午後も魔法訓練だっただろう、何をしていたんだ!」


「いい加減アルと遊びたかったんだもん……」


「アルはお前が力一杯掴んだから怪我をして今は寝込んでいる。分かっているのか!!」


「だって、アルだけずるい!アルだけ魔法訓練も何もないのに!アルは特別じゃないのにこの家に迎え入れられてる!特別なのは私の方だって先生言ってたもん!アル何て要らないのに何でアルばっかり特別扱いされてるの!?」


 隣の部屋で医師から治療を受けているアルは、ああ、嫉妬か――そう思った。

 脂汗にまみれて、ぐっしょりとしている。

 叫び散らして今すぐトゥエリを殴りつけたいが、恐らく返り討ちに合うだろう事は明白だった。

 だから我慢することしか出来ず、イライラする。


 嫉妬なんかで腕を折られた、ふざけるな・・・


 自分は特別だから魔法の訓練をされている――そのように学んだのだろう。

 けれど、実際は違った。

 実際は力加減もうまくいかない程の危険人物という認識が伯爵にはある。

 トゥエリは危険、それは対峙したアルもそう考えている。


 恐らくこれを危険と考えていないのは、ノールだけかもしれない。

 ノールからすればまだまだ可愛い小さな子供なのだろう。

 実際はとんだモンスターなのだが、それに気が付いていないのだから困りもの。

 呑気にまだ子供ですから何て言っているのだから、その危険性を全く分かっていないのだろう。



 正直一番最後にぐいっと再度引っ張られる時、思い切り握りつぶすように腕を掴んでいる手が動いたため、ぐしゃりと折れたのだ。

 わざと、した、伯爵には伝えてあったが、ノールはそれを聞いてもまだ信じられない様子だった。

 信じたく無いのかもしれないが、それでいいかどうかはまた別問題だろう。

 回復薬を使って既に完治しているとはいえ、許しがたい行為である。

 骨の位置を戻してなるべく戻して、そして回復薬を使ったけれど、あまり状態は良くない。

 痛みと同時に情けないとも感じていた。


 抵抗すら出来ないで居た。

 それは屈辱でもあり、恐怖でもあり。



 恐怖心をかぶりを振って散らすと、考え込んだ――だから、妙だとは思っていた。

 遊びたいという割に、妙に人気のないところに連れ込もうとしていたから、おかしいとは思った。

 引きずられて行く間に、頭はさえて行っていたから、おかしいと――そう思ったんだ。


 がっかりだ。


 嫉妬で弟を殺しかけるような姉何て要らない。


 深夜伯爵の部屋を訪れてそのように伝えたところ、私もそう考えていたと言われる。

 分家があるからそちらに任せようと思うと言われ、トゥエリはエリミヤと共に旅立って行ったのだ。



 分家は男爵家、今の豪華な生活が自分のお蔭だと思っていた彼女に取ってみたら、晴天の霹靂だろう。

 男爵家は此方から援助を受けているからまともに生活出来ていると言っていた。

 トゥエリの教育如何によってはそれを少し締め付けるつもりだとも。

 男爵一家からすればとばっちりもいいところだが、トゥエリをあちらの養子にしてしまおうと言うのだから、本気で嫌っているのだろう。


「そこまでは………」


 別にせずともと言った所、それだけアルを私の子として大切に思っているという事だよと言われ、涙が浮かんだ。


 大事にされることが嬉しくて、泣いた。

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