閑話1自由貿易で買ったものを食べたいぞ 改
公爵から呼び出しを受けたため、出向くことになった。
今回はどうあっても逃がさないと言う事なのだろうが、村長になったんだから、そこに出入りをしていて大変なんだからいいじゃないかと思うのだ――引きこもって聖域に居たい、それの何がいけないと言うのか。
ああ、仕事だろうなあ嫌だなあと思いながら向かっていると、その間についてしまった。
憂鬱な気持ちで居るとノールが肘を突いてくる。
痛い。
そんな顔をいつまでもしているなという事らしいが、実際に辛いのだから仕方なかろうという物だった。
「二人きりになりたい」
「話せぬ内容なのだ」
と公爵より言われてしまっては、もう逃れようがない。
2人きりで何をされるか分からない、父さま助けてと言った目を向けると、ほら、お仕事だったじゃないかと言った様子で無理矢理嫌がるアルを送り出すノールに殺意が湧いてくるほどだ。
致し方なく公爵と向き合うと、公爵は言うのだ。
「何か食事だ、食事」と。
なんだそれ、よく分からんぞ?と首をかしげていれば、御前の世界のモノだ。
何に関しても改善点があれば一応言ってくるのに、食事だけは何にしてもだんまりなお前だ、何かあるんだろうと言われれば、うぐうと喉の奥に詰まったような声を出してしまった。
「なんだ?」
「何でもないですう」
調理は何となく記憶にあるから出来ると思うけれど、この身長体重でやるのはいささか問題があった。
じゃあどうするか、作れと言われてないのだから、自由貿易で大量に輸入しちゃえばいいじゃない?――である。
「何が食べたいんですか?」
「何がある?お前の世界のモノは、一体何があった?――分からん事は答えようがないぞ」
「生で魚を食べたり、肉を生に近い形で食べられるよう調理する技術があったり、卵を生で食べられるようしたり、とかですとか、後は調理方法がこちらは『焼く』『炒める』『茹でる』だけですが、『蒸す』『あげる』などがありますね」
その時点で随分と違うから私もなにを出した物やらと言えば、ふうむと考え込むようにするのではなく、じゃあそれでという。
一体何を言ってるのかと首を傾げれば、全部出せと言うのである。
「ええと……スーパー系に行けばあるかな?あった……これとこれと、それとこれも……あと揚げ物はいいとして、カルパッチョとかいいよな~、久しぶりに食べたい」
「何でお前が食べる前提で言ってる?」
「少しくらい自分で買うんだからいいじゃないですか!食べても!!」
揚げたものということで、豚カツ、海老フライ、白身魚のフライに、最後に皆大好き芋のフライってことでフライドポテトをどんと用意した。
スーパーも自由貿易に繋がっていて良かったと心底思ったものだ。
人目を盗んで今は聖域に行ってちょこっと食べるくらいだが、最終的には聖域に移住をして思う存分食べたいものである。
揚げ物を用意したのだから次に蒸す料理ということで、蒸した芋二種に、蒸した焼売、小籠包に、肉まんと用意した。
後はパンを用意した。
パンは此方の世界は固焼きになってるのか、矢鱈と防御力の高いパンだらけなのだ。
食べようとすると顎が痛い。
けれど食べないといけないので、スープに浸して食べるのである。
「これは全部、この世界で食べられない製法で作ってあるものです。作り方がそもそも存在しない食品ですね。だから初めての触感になると思いますよ」
というと、目を輝かせていた。
にしてもこうまで大量に広げると、流石に自分の知らない製法で出来ているものだけでこれだけあると思いもしなかった様子で、公爵はどうしたものかと言った様子だ。
流石に全部は食べられないだろうと思ったのだろうが、手をパンパンと二度叩くと、控えの間に居た従者が姿を現した。
「子爵と伯爵、ノールを是へ」
「は、ともにお食事をという事ですか。畏まりました」
いつの間に食事を用意したんだとかの話はなしで進む展開に、あれあれ?と思った。
従者が出て行ってしまうと、また広い空間に二人取り残される。
どういう事かと訊ねれば、簡単な事だという。
「いい従者という者はああいう事が出来るものを指すってことだ。よく覚えておけよ」
「はぁ、そうですか………凄いなあ。私だったら確実に聞いてしまいます。気になることがあっても聞かないでいられるなんて凄い人ですよね」
「なんだあ?お前何か気になることがあったのか?うん?今はこれだけの食材を前にして俺はちと機嫌がいいぞ。味も良ければ話を聞いてやってもいい」
「なら今すぐ食べてみてください。ちょっと聞きたいことがあります」
「ふん。いいだろう」
小籠包を一つ取って食べようとしたので、食べるなら少し火で炙ると良いですよと付け加える。
「ふむ?……火よ。遠火か?」
「直火はやめてください。あったまったら食べると凄く美味しいですよ」
本当は同じ蒸す調理方法でやるかレンジでチンだろうが、あいにくと機材がどちらも無いのでこうなった。
遠火で温められた小籠包を手に持って、いざ、と公爵は口の中に放り込んだ。
すると口の中に溢れる肉汁に、肉汁爆弾は矢張りあっためないと駄目だよねとにんまりしてしまう。
美味しいは嘘を言っていないけれど、ただし食べ方に気を付けないと大変とまでは言わないことにした。
彼は一口で食べたら口の中を火傷したらしく、回復薬を煽る。
「ぷはっ!なんだこれは、驚いたぞ!?」
「肉汁を閉じ込めたもので、小籠包と申します」
「ほほう。味は中々良かった。――それで?何が聞きたい」
「聞きたいのは、父と私を伯爵家に何故放り込んで伯爵は何も言わないのでしょうか?という事です」
「うん?」
「ですから、赤の他人かもしれませんよね? なのになぜですか? どうして伯爵は何も言わないのでしょうか?公爵閣下が有無を言わせぬように放り込んだからですか?気になって気になって………三食食べて夜寝るくらいしか出来ません」
「あほう。寝れているではないか。 まあ良い。にしてもお前は随分と年嵩の考え方をするのだなと思ったら、よくよく考えてみれば、おっさんだったな、中味」
「死んだ時期はきっと10代だと思います。だからおっさんじゃなくて青年と呼んでください」
「嘘こけ。だが………そうか、もう話すべきか。理解出来ぬだろうからと皆が放置していてお前がこんなにも悩んでいるなら話すべきだろうな」
「? じゃあ、皆何か黙って………公爵閣下、もしかして口封じをしたとかじゃ」
「阿呆。何でおれがそんなことする?」
べしっと叩かれて痛い目を見た。
嫌だって、何か隠していたと言うから。
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