第9話善行ポイントってなんぞ? 改
でも伯爵が最後にとどめとして、貴族の横暴だと思って受け入れてくれたらいいと言うと、仕方ないと言うふうに皆受け入れてくれたようだった。
そんな言い方をしているけれど、伯爵の政策はとても良いものらしく、伯爵さまが言うのであればと言った形だ。
これが同じ貴族でも、子爵みたいな居丈高に言われれば恐らくは誰も頷かなかっただろう。
公爵もそうだ、妙に暴力的だから嫌われるだろうなあと思って――ハタと気が付く。
彼もあの広大な公爵領を収めているのだから、そこまで妙な人ではないはずなのだが、なぜ自分にだけああも暴力的なのか。
というかアルにだけ?だよなあと気が付いてしまったのだ。
解せぬ。
これでいいのだろう?と問われれば、アルは頷いて見せる。
そう、これでいいはずだ。
男は黙っていたが、何で分かったんですか?と最後にポツリと問いかけてきた。
「なにを?」
『ですから、正解の一つなんですよ。村に人を住まわせるって言うのは。何故分かったんですか?』
「そりゃあ……なんて言うか村に人が元からいなかったから?」
ギミックって程ではないだろうけれど、そこに人が居るべきところに居ないのだから、人を連れて来るのは当然だろうと思うのだ。
ただし、一般人である平民を事情説明して連れて来るのでは問題がある。
能力がバレるのは勿論、税の問題があるため、誰かをここに連れ込むのはいささか問題があった。
人頭税を取っている領主からすると勝手に人を連れて行く行為だから、駄目だろう。
その点奴隷は税金がかからない。
その代わり彼らを解放すれば税金がまたかかってくると言うものだ。
ではどちらがいいか選ぶのは、簡単だった。
ぴこぴこと音が鳴り響く。
試しに神に祈りを捧げた者が居たらしい。
有難いことだ。
「これ、だけで………本当にいいのですか?」
「これだけで本当に奴隷解放をされる?」
「ええ、奴隷解放をします。では、奴隷解放のためにその奴隷の首輪を外しますね」
首輪を取ってやると、過去奴隷だったことが分かる隷属の墨入れがされていた。
取ってやりたいが流石にこればかりは取ってやることが出来ない。
入れ墨だもんなあ……
外科手術で皮膚を取ってやることはできるけれど、この世界の医療技術でやるのも、この世界のナイフでやるのも怖かったし、そもそもこの場所だ。
誰も見るわけでも、見えるわけでもないのだから、良いだろう。
現時点での善行ポイントは12万4020ポイントである。
昨日までは祈りだけで毎回10ポイントだけだったのが、村人がしただけでこれである。
先ほど奴隷解放をした時に一気に上がったのもあるが、祈りによって数千近く稼げるのだ。
この場に彼らが居てくれるだけで。
奴隷さまさまである。
『ただし、聖域の村は小さいですから、拡張することをお勧めしますよ』
「つまり、他にも奴隷を連れてきなさいってことだね、分かったよ」
「では、ここを農地にすべきだな」
「農地に、という事でしたらトゥエリを連れてくるのをお勧めします。あの子の中でですが、最近土魔法で地面を掘り返すのがはやりのようだから」
ノールに言われてトゥエリにこの村を紹介すると言うことで、アルはしばし考え込んだ。
トゥエリ、こういうの黙っておけるかな?と思ったのである。
「トゥエリは無理であろう、ここに連れてくるのは止めておくのだ」
「な、何故です!?そろそろアルと一緒に過ごさせてやってもいいではありませんか!姉弟なんですから!」
「違う、秘密を喋らずにいられる子か?あの子は無理だろう。率先して自分には何が出来るか喋っている様を見れば分かる。無理だあの子は。だからアルと引き離してアルの秘密を皆で守っているのだろう?」
「で、ですが閣下……」
姉弟なのにとブツクサいうノールには悪いけれど、ここは確実に伯爵側に軍配が上がるだろう。
伯爵が見てそういうきらいがあると言うのだ、相当トゥエリは自分の能力をひけらかす方なのだろう。
そんな彼女にばれてしまえば、能力のことでろくなことにならないはずだ。
そんな面倒をかけられるのは御免である。
ノールと伯爵に向かって、トゥエリじゃなくても、私も農業というスキルがありますと告げる。
「これを使えば何か出来るはずです」
「だがしかし、まだ魔法を習っても無いだろう?スキルがどんなものか分からないけれど、それでどうにか出来るのか?」
「やってみたことがないスキルだからこそ、使ってみましょう!」
実際は農業のスキルは使ったことがある。
ただし転生前に、ではあるが。
ただし腕力を使うので、あまり回数をこなせないだろう身体である事は現時点で分かっていることだが。
けれど彼らの農地を作るくらいなんてことはない。
「召喚、鍬!………どっこいしょ、と。お義父様、ノール父様、どこに畑を作ればいいでしょうか?」
「それであれば、こちらであろうな。家屋からそうはなれて居ない当たりがいいだろう」
「そうでしょうね、ここからここくらいまで欲しいか?」
「んしょ、んしょ………どっせい!!」
示された位置に向かって真っすぐに土を耕せ!と叫び、鍬を地面に向かって振り下ろし叩きつけるようにすると、地面に鍬がざっくりとめり込み、地面がずばばと音を立てながら凄まじい勢いで一直線に耕されていくではないか。
どういう事だこれはと、アルは目を見張る。
確実にこれは転生前とは違い過ぎる。
どういう事かと男に尋ねて見ようにも、転生していることは公爵にしか言っていないため聞けず、どうしたものかと行ったところ。
「何なのコレ?!」
『これはただ単に、腕力が無くなってるだろうと思い、ちょっとしたサービスです』
「ちょっとそのサービスがちょっとではなくてですね!畑耕すの、直ぐ終わっちゃうよ!?私流石に凄くないこれ!?腕力なくてもいいじゃなく、腕力なんて必要なかったんや!何そのサービスって?!」
『サービス、意味、人のために尽くす事などですね』
「そういうことを言ってるんじゃなく。 ………はあ、もういいです」
兎も角出来るなら終わらせてしまえとばかり、鍬を奮う。
すると次々と畑が出来て行く。
2ヘクタール程は出来ただろうかというところでストップがかかった。
耕した土は全てふわふわとしていて、土も栄養状態がよくて、これならば良い物が作れるだろうといったところ。
伯爵はそこまでの広さが必要あるのかい?と懐疑的である。
……確かに必要ないかもしれない。
「むしろ家を沢山作るべきだよ。夫婦になる前の個人宅が作れると良いのだけれど、出来るかい?」
「ええと……見てみますね。無いようですね。個人宅が無いようです。済みませんけど無理です」
とりあえず工作のスキルを使えば家位なら出来るだろうが、あの石造りの家がである。
こちらの木材で作った家とは比べるべくもないわけで――皆こちらと石造りのなれた家、どちらがいいと訊ねてみれば、驚いたことに半々だった。
「矢張りなれた家が住みやすいと言うわけではないですが、壊したらどうしようかと思ってしまいやして………せめてここに住人が増えて、夫婦ものになれたらにしますよ。だから木の家は全部女性が使ってくだせいや」
「成程、分かりました!」
こうしてアルは石材を黙々と集めて来ては単身者用の家屋を作る事となったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます