第8話善行ポイントってなんぞ?★ 改


 ノールと義父である伯爵を連れて、金鉱山の村に来て見たところ、彼らはおっかなびっくりと言った様子で、家屋に触れてみては恐ろしいと顔色を真っ青に変えていた。




「一体幾らの建物なんだろうなあ」




 これは伯爵の言である。


 確かに、これは自分で作ったら幾らかかるのだろう?


 考えるだに恐ろしかった。


 石材で作った家屋と違って木材をふんだんに使った家屋は、この辺では見ないものだけれど、矢鱈細工が細かく美しいつくりをしているのだ。


 とりあえずかなり頑丈らしいので壊れはしないだろうと思うけれど――触れるだけで壊れるような細工ではないが、それでも華美なつくりをしているのを見れば、触れるのにもおっかなびっくりと言ったところか。


 いや、これは壊れるんだろうか?などと考えている奴隷たち。


 すると男が言うのだ、これは相当頑丈だが、不壊効果があるわけではないから、壊れる時は壊れますからね、と。

 では丁寧に使って貰えればいう事はないなと思ったアル。



 奴隷たちは驚き疲れたと言った様子だが、まだまだ家屋を見ても驚き足りないのか、中に入っては出てを繰り返して、度胸試しのような事をしている。

 良いから入って調べてみればいいのに。

 井戸の傍に歩いていくと、これは何だと伯爵が問いかける。


「ん?井戸ですよ?」


「井戸?何か妙なものがくっついているが?」


「これを、こうすると出るんです……よっと、水がね」


 ポンプを動かして見せれば、水がばしゃばしゃと出て来る。

 それを見て伯爵が、これは何だと仰天してしまった。

 奴隷たちも仰天している。


 ノールはと言えば、よく分からない反応だった。

 神に祈りを捧げていた。

 何だこれ。

 とりあえず伯爵以下11名はごめん。


 驚き疲れた様子の彼らは、何たる発明品だと画期的だと言っているけれど、こんなのはアルからすれば日常の中の一コマで、過去の遺物程度のものだった。

 けれどこのポンプがあればこの時代のこの世界の水くみは大幅に変わるんだろう。

 皆これは楽だと嬉しそうだから、良かったとアルは思った。


「井戸の水を出せればこれをくみ上げて、ここからお風呂場に持っていけるみたいですね。――うん!お風呂に水を貯められますよ。そしたらこれを沸かせばお風呂に入れますよ!」




 おめでとうございますと付けて行ってみれば、伯爵が難色を示すように言うのだ。

 我らでさえもっと面倒な井戸汲みを経てのことだと言うのに、実に楽に風呂に入れるのだなと、ずるいとでもいいたげだった。

 けれどその話はまた別でしましょうと言うと、アルはお風呂に水を入れて見て、皆を洗ってしまおうと言うと、皆に喜ばれた。


「お貴族様みたいですね、自宅に風呂があるだなんて」


「基本的に皆、入るのは大衆浴場ですからね。家に個室の風呂があるなんて素晴らしいですよ」


「お風呂に入れるんですか!?う、嬉しいです!」


 皆奴隷の間は浴場に連れて行ってもらえなかったらしく、相当に気にしていたらしい。

 網籠が浴槽の中に入っていて、そこに焼いた石を放り込むようになっていたので、皆で井戸の傍に近くの森から拾ってきた枝を組み立てて、石を焼くことにした。

 兎も角話もまずしないうちからとは思うが、奴隷の皆さんが臭いので入浴して貰うことにした。


「さあ、お風呂に入れるよ!」


 奴隷たちには全身頭からつま先まで洗ってから出て来るように言い含め、村に用意されていた石鹸を渡して追い出した。

 使い方は実地で教えたので大丈夫だろう。

 伯爵から問われたので、村の中の家屋に入っていたので、使いましたと答えておいた。

 何気に村の家屋は色々と揃っていたので便利である。

 タオル、食器、椅子にテーブルに机一式に燭台まであったのだ。

 そこに石鹸が湯殿についていたから使わせたけれど、今の時代石鹸はなく、へらで垢をこそぎ落とすのが普通だ。

 だからこれは良いとアルも伯爵もそれを手に取って持ち帰ることにしたところ、家屋から一つ石鹸が減ると一つ追加されるのを見て、二人とも驚いた。


「なんだこの村は!?」


「ポンプもそうですけど、かなり便利な村ですよね……ほんと」


 有難いけど困るな、何せアルからすればおかしい事もないような世界が広がっているけれど、伯爵やノールからすると驚きの連続だろう。

 兎も角石鹸とカミソリを手に入れた伯爵は、満足気である。


「あのう、ところでここは一体、どこなんでしょう?箱馬車からここに急に連れて来られましたけれど、箱馬車でないのだけは分かるのですが……」


「説明ね、説明……ノール父上……パスで!」


「何?ぱす?説明なさい、アル」


「ええと……伯爵閣下、何と言いましょう」


「……では私から説明しよう」


 まず、貴族には魔法が使える者が多い事は存じていますかと聞けば、左様ですねと答えられた


「ではここには、箱馬車から移動したに過ぎません。つまり、あなた達は今も箱馬車の中に居ます。けれど箱馬車から移動することが出来る魔法なんです」


「は、はぁ……なるほど?」


「箱馬車とここが繋がってるということですか?」


「そうです。安全なところに運ばせて頂いただけですよ」


 繋がっているのは実際はアルだが、分かりやすくするためそう説明する。

 能力を使えばどこかとどこかを繋いで連れてくることが可能になると言われれば、皆なあんだといった様子だった。

 何故か妙なところ肝が太いのか?と思ったけれどそう言う事ではないらしい。

 実は伯爵の能力もそう言った、転移系の能力を持っているらしい。

 そのためそうしたことが広く広まっているため、皆安全なところに運ばれただけだと言う一言で安心したのだと言う。


「伯爵閣下のスキルって何ですか?」


「ははは、転移系ではあるが、こんな規格外ではないなあ?」


「後で教えてください。凄く知りたいです」


「そうだな。後でな」


「――ここに、あなたがたに住んでいただこうと思ったわけですけれど、ここまでで何が気になりますか?」


「え?!」


 お貴族様の能力で作られた村に住んでいい?

 あの大きな家に?と言うと、皆固まっていた。


「勿論最初の頃は畑で耕しても作物はないから、こっちから支援することになりますね。だから食べ物に困ることはないわけです。それとも表の世界で私に仕えてくれる気がありますか?どっちでもいいと言えばいいんだけれど……ここは村と言っても他に貴族も平民も誰もいないし、税金もかからないから、誰かに住んで欲しいんですよね」


「税金が、要らない?」


 通常人頭税がかかるのに、彼らはそれがかからないと言われ、どよめいた。

 一人頭幾ら程かかる、と言った計算になる税金だが、それがかからないならば皆嬉しいと言うのだ。

 その他にも収穫物を7割収めるのがこの地域の税金なのだそうだが、とり過ぎだろうと思った。

 それらが一切かからないと言われれば、なぜと言った目を向けられる。

 疑うのは分かるけれど、どうしたらいいのか分からない。

 当然だろうがそれくらいしか金銭的なメリットを上げられないので困ったな。

 他にメリットはないだろうか。


「――えー………ともかく。ここで色んなものを拾ってきたりして生活をしてくれればそれでいいのです。その代わり給金がここにいる間は出ません。出るようになるのは随分とたって、この村を皆で出るときだろうと思いますよ。それと、君たちを再度奴隷商に売りつける気もありません。薬草の採取の仕方は知ってるかな?と聞きたいのですが、知っている方挙手願います」


 フォンという音を立てて、画面を呼び出すと、アルは薬草園を開通させた。

 そこで現在開くことのできる薬草園の魔力開通が出来るものを見て悩む。

 何にしたものやらだ。


≪薬草園≫


:キュリィの群生地   魔力5000  回復薬の元


:サリュの群生地    魔力5000  回復薬の元


:ナリサの群生地    魔力8000  回復薬の元・毒消しの元


:レナントの群生地   魔力9000  秘薬の元


:エリヒューラの群生地 魔力11000 麻痺消しの元


:エルルーの群生地   魔力15000 毒消しの元・万能薬の元


:リーファの群生地   魔力25000 万能薬の元・秘薬の元


 決めた。

 キュリィ、サリュ、ナリサにしよう!

 回復薬から作れるなら、それがいいだろうと思ったのだ。

 目的のもの全てをタップして開通すると、村に薬草園に通ずる道が現れた。

 鬱蒼とした湿った風を運ぶ森の出現に、ノールがどよめく奴隷たちを横目に言うのだ。


「ここは何だい?」


「ここは薬草園です。キュリィとサリュとナリサが取れるそうです。根っこまで綺麗に取ってくれると嬉しいですね」


「ほ、本当にそれだけでここで暮らしていてもいいんですか?薬草を採取するだけで?」


 後は妖精の園を見つけてきてくれたらそこを拠点にしてくれてもいい。

 ただ、言わない。

 妖精を見つけた時の感動を持ってほしいから。


「ええ、それだけで税金も取りませんし、奴隷だとこき使ったりもしません。ただ、皆毎日神様に有難う御座いますと御祈りをしてほしいのです」


「それだけですか?」


 怪しいとでも思っているのだろうか?

 なんだか信じられないとその目が言っている。

 伯爵がそれを聞いて助け船を出してくれた。


「私が確約しよう。君たちからは税金を取らず奴隷から解放すると誓おう。ここならばな。だが外で箱馬車から出て仕事をするというのであれば、階級は奴隷だ。どちらでも宜しい、好きに選びなさい」


「正直に言ってくださっていいですよ。どちらでもこちらは構いません」


「そうだな、どちらでも構わない、ただこの村で生活すると他に人は居ないから寂しくはあるだろう。閉塞感はないだろうが閉じられた空間であることは確かだ。この家屋のある場所からは人里と離れていると思ってくれて構わない」


「――でしたら、そこで暮らすことにどんなうまみがあるのでしょう。薬草を採取するだけでいいだなんて信じられません」


「その薬草が回復薬になると言う事です。あなた達は知らないでしょうが、貴族は体力や魔力を回復させる薬を作ります。その回復薬を作るために薬草が欲しいのです。その薬草を採取してほしい、そう言っているのです」


 今度こそ意味が分かったらしくホッとあからさまに安堵していた奴隷たち。

 確かに上手い話にはなんちゃらだ。

 恐ろしかったのだろう。

 後で良い目を見ているのだから何々をしろと強要をされたりしないかと、内心では怯え、恐怖していたのかもしれない。

 表情はただ不安げなだけだけれど実際はそうなんだろうなと思う。

 貴族が相手ではそういうことだろう。

 うんうん、わかるよ。




 私も元平民だから。

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