第2話善行ポイントってなんぞ? 改

 翌日隣の領の領主――公爵がやってきた。

 昨日の今日で何このフットワーク軽い公爵。

 しかも隣の領地だからそこまで近いわけでもないのにだ、何で私なんぞに会いに来てるんだよと若干引き攣った顔をしてしまうのも致し方あるまい。


 そんな彼を待っていたのは伯爵と子爵である。


「「本当に妖精は居たんですよ」」


「なにを言っているのだ君たちは」


「だから、本当に居るんですって、入ってみると分かりますよ」


 え、それって彼も入れてみればいいよという事なのか?

 あれから≪妖精の親愛≫を得て、勿体無いので他の寄進した魔力は残しておいた。

 そのため私は今回、籠を用意してきているのだ。

 当然だが、あちらで物を貰った時の対策である。

 なんだそれはと指摘を受けたが、そんなものはどうでもいいのだ。


「アル、じゃあ連れて行ってくれるね?」


「はい、お義父様」


 義父であるゼーレン伯爵に言われるならばいいのだが、この子爵と公爵には言われたくないものだった。


 公爵が少し急いた様子で言う。


「その前に先に我が妻にドレスを頼まれている、出来るかどうかだけでも聞いて来いとのことだったが、出来るか?」


「……出来るとは思いますが、どのような形のものでしょうか?様々ありますが」


「絵にしてみろ、そうしたらわかるであろう」


「分かりました」


 すげえコイツ!!

 5歳児に何を求めてるんだよこの馬鹿やろうめー、などと内心で舌を出して馬鹿にするが、出来ないとは言い切れない所が憎かった。

 言ったが最後どのような扱いをされるか分からないからという物と、存外アルは絵を得意としているのである。

 だから間違っても出来ないとは言い切れないのであった。


 アルに捕まったのは、領主、伯爵、伯爵夫人、子爵、ノールの面々である。

 凄い人数に肩を掴まれ服を掴まれているが、これであちらに本当に行けるか試す意味合いでも全員連れて行かねばならなかった。


 では行きますと唱えて妖精の園へと続けた瞬間、薄靄を残して彼らは消えたのだった。



******



 公爵は次の瞬間、花に埋もれていた。


「本当に、妖精が、居た」


「でしょー?」


 頭に花を生やした公爵は、嬉しそうに言うのだ。

 だって妖精だぞとはしゃぐ声音に、嘘偽りはなかった。

 結局公爵に隠すことはかなわずに、アルは妖精の事を知らせることとなった。

 彼曰く、古代の錬金術師が探し求めていた素材があるやも知れぬと言って、この妖精の園で取れる各種素材を言い値で買い取ろうというのだ。

 現状でもアルは満足していたが、更にお金をくれるというのであれば否やはない。

 地球産の品物を買って自堕落な生活をしたいとあらば、それは願ってもない相談である。

 ぜひお願いしたいです、そう伝えると公爵は鷹揚に頷いて見せたのだった。


 現在の資産状況は、大金貨50枚である。

 アル個人で稼いだ金額としては破格であろう。

 一度砂糖を買い付けるごとに金貨が5枚だ、結果として三十回もやれば大金貨が5枚である。

 それを各地方ごとに行うため、気が付けば3年で大金貨50枚を超えていたのである。

 散々使っても大金貨50枚である、凄くない?と内心で鼻が高いものである。

 今は未来への投資と考えている。

 来る未来、品物を左から右へ移動するだけで得られる不労所得?によって得られる金貨、これをもって早々にリタイヤを決め込んで食っちゃね生活をするのである。

 絶対にそうなるぞーと思っているけれども、現状あまり金貨達に使いどころが無かったりする。


 伯爵閣下がいい人過ぎて、色んなものを渡してくるのだ。

 だから買うものがあまりない。

 だから散財をするとしても、母エリミヤやトゥエリの服を買うくらいである。

 流石に貴族服でも、アルのサイズは自由貿易では売っていなかったため、それっぽいシャツとそれっぽいベストとパンツを穿いているだけだ。

 トゥエリの服も同様である。

 ワンセットになった貴族服で検索をしてみても、そのような衣装はない。


「! そうだ、君たちにプレゼントをあげる!」


「なに、創造主さま?」


「なあにぃー?」


「わくわくするです」


「自由貿易!えーっと」


 自由貿易の画面を開いて見る。

 飴玉でもいいだろうかと思うが、彼らの口に入れるには些か大きいだろう。

 ではどうしたものか――


「なんだ、褒美をやるのか?」


「ああ、さっき物を貰っていましたからね。褒美をという事でしたら是非にも渡してください。あの蜜はとても美味しかったですからねえ」


「私、食べてないんですけども?」


 コノヤロウと思いながらチクリと刺すように言ってみると、にやりと笑われてしまった。

 だからなんだと開き直る感じでもないが、それでもあまり気分が良くなかった。


「エルヴィン子爵様が食べてしまったため、妖精たちから貰った蜜を私は食べて居ないのですが、一体どういうことですか!」


 酷いですと告げれば、あれは美味かったと彼は悪びれるでもない。

 それも「そもそも皆食べていたのだから、そんなに怒るな」という。

 どういう事だよ、話を聞いてるんだからな、お前が勧めたから皆食べてしまったって聞いてるぞ!と言いたいけれど、未だその人となりが分からない公爵が居る時点でなんだかやりにくくて、アルはそれ以上言うのをやめて口を噤んだ。

 なんだか消化不良である。


 ――そうだ、これにしよう。


「金平糖って言うんだ、食べてみて!」


「こんぺーと?」


 ナニソレーと言いながら妖精たちが手元にやってくるため、手のひらにそれを開けてやる。

 小さな絹の袋に入ったそれは、カラフルでとても美しい見た目をしていた。

 京都の老舗が作ったと言われるそれは、どれも味が砂糖味ではなく、一つ一つ味が付いているのだという。


「食べてみて!食べ物だよ!」


「トゲトゲしてるね?」


「いただきまっす」


 妖精たちは大口をあけてがりがりと金平糖を貪っていく。

 相当味が良かったらしく――


「ナニコレ、おいっしー!」


「蜜と違って口がベタベタにならないのがいいわね!」


「有難う創造主様!」


 べた褒めだった。



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