第4話義父は良い人! 改
≪伯爵視点≫
伯爵夫婦に子はなく、――子に中々に恵まれなかったけれど、そんな折ノールの話が飛び込んできた。
領主とフェルディオ子爵からの紹介された彼は、何と以前子宝に恵まれた数代前の当主の子が、平民に落ちた。
その女性からの繋がりがある者だという。
確かに髪色と瞳の色は、私にノールとアルは良く似ていたのだ。
子に恵まれないままに30代になってしまったけれど、ノールはまだ私からしても10歳程年若だ。
ならばそれもまたいいだろうと思ったものだった。
スキルも鑑定ならば申し分なしと、彼はノール一家を迎え入れることになった時鷹揚に頷いて見せたという。
お妾さんではなく、二人も魔力持ち、更にはノールも彼女以外をめとるつもりもないということで、第二夫人の位がエリミヤには与えられた。
トゥエリも魔力を持っているということで、魔法を学ぶことになり、一家で迎え入れられることとなったのだった。
第一夫人が執務補助、そして社交を担うため、第二夫人となれば奥向き――所謂自宅の中で権勢を奮う者を指す。
だが、元は迎え入れるつもりの無かったものだ、妾でいいだろうというと、私をお迎えくださるのであれば、どうかお願い致しますと言ってノールが譲らなかったのだ。
結果はこうである。
どうしても譲らなかった結果、エリミヤはアル――ノール達と共に居ることが許されるようになったのであった。
それを最後まで反対していたのは、フェルディオ子爵である。
彼は領主からの命により我ら夫婦とノール一家を繋ぐのだというと、邪魔者を排除すべきだとの言を崩さなかった。
だからこそ子爵をアルは好ましく思っても居ない。
それこそ、自分を貴族へ迎え入れてくれた人物だという事も忘れて。
エリミヤの献身的な部分などを語り、ノールもアルも子爵に対し譲らず徹底的に抗戦をしたが、そんなものが貴族になるのに必要なわけもなく。
そんな二人を義父となった伯爵――ロレンツォ・ゼーレン伯爵が言うのだ、トゥエリも魔力を持っているならば、迎え入れようと。
折衷案を出したつもりであった。
すると、恐ろしいことにこのトゥエリ、水晶玉で測ってみたところ、貴族の魔力の平均値を大きく上回る、5000を叩きだしておった。
アルの方はというと、15000とこれまた規格外の数値だというではないか。
この姉弟が私の元に来たことはまさしく僥倖であったというモノだろう。
トゥエリの事もあるだけに、彼はエリミヤを迎え入れようと言ったけれど、ここにきても子爵は反対をするのである。
貴族の娘を貰わなければ、それこそ危険な、と。
だが私にも妻があり、もう一人別の貴族家の女性を今迎えれば、恐らくこの子供らは駄目になってしまう事だろうと思った。
だからこそエリミヤだけを迎え入れることを良しとしたのだ。
後妻だと言って、第一夫人に迎え入れるのは、数年たった後でもいいではないか。
するとそれを聞いた子爵は、良いだろうという。
領主の代理で来た彼に、逆らった形になったわけで。
フェルディオ子爵とは知己の間柄とはいえ、これは良くなかっただろうなと内心で冷や汗ものだった。
だが、子供達を守りたいと、そう思ったのである。
フェルディオ子爵は難しい顔から一転、はあと大きなため息をついた。
私が悪者になりましたね、というのである。
どういう意味であろうか?
「兎も角彼の家族ごと居ないうちに、話をしてしまいますね。夫人は彼らを引き付けて置いていただけますか?」
「は、はぁ?」
「実は領主より受けている命でして、彼のユニークスキルはどうやら二つ、あるらしい。 一つは判明している自由貿易。こちらは異世界の品を購入する事の出来るスキルらしい。これによって異世界産の植物を手に入れて欲しいのです」
「――と言いますと?どのような植物で?」
そこでにこりと音のしそうな程、笑顔が固まった表情を向けられ、首を傾げる思いがしたものだ。
その後、とんでもない言葉を聞いた。
「砂糖と胡椒の生産を始めます。そのための植物を購入するのです」
「さ、さ、……砂糖?!胡椒!?出来るのですか!?」
思わず布張りの椅子から立ち上がれば、子爵は落ち着いた様子で――けれど表情はいたずらっ子のそれで言うのだ。
矢張り驚きますよね、と。
「ええ、アル君の能力ならば可能ですとの事。購入することを出来、更にはその温室を作ることも出来るということでした」
「温室を!?ガラスで作るという、あの温室ですか!?それはまた……」
「いいえ、異なるようです。ガラスではないと本人はいっておりました。ですが、温室を作ることが出来、更には胡椒を手に入れられる。砂糖はこの土地の気候であれば普通に育てられるらしく、困るものでもないと言います」
「は、ははは・・・・・それは素晴らしいお子様ですなといったところでしょうか?」
「彼はあなたの子となったのですよ――ということで一つ、私が嫌われ役をやりましたので、ゼーレン伯爵がこれを買うように言ってくださいませ。私が鞭、あなたが飴をお願いします。家族として暮らすのに対し、嫌われ役もないでしょう。ですから私がなるべくこちらに来るようにと言われていますので、文官仕事の無い日はこちらに来させていただきますよ」
幾ら法衣貴族とは言え、そこまで暇という物でもあるまいと思っていれば、どうやら領主からこれの全権を任されているため、仕事が幾分か少なくされているのだそうだ。
その為仕事もこれに付随する業務が割り振られたという。
「何せ、この国に外国からの圧力はますます強くなっていきますからね。砂糖と胡椒が欲しければと言って、金を大量に強請られる。あれは、この国の金を失くす行為です。行けません」
「そう、でしょうな……」
「因みに今ノール君の着ている服は、そのスキルで購入した服ですよ」
「……はぁ、それは、また。植物を安価で輸入するという事ではないのですよね?」
服もという事は何を他に購入することが出来るのだろうかと訊ねてみれば、あらゆる全てのモノが手に入るという。
服も、調味料も、植物も、靴だって、何だって。
今のところ欲しいと思ったものは全て手に入っているというのだ。
「確か靴は我々の知る靴よりも摩擦力があり、よく足を踏み込むことも踏ん張りを聞かせることも出来ているようでした」
服も着心地がかなりいいらしく、全て麻ではない素材でできているらしいと知る。
木綿ですと言われれば、木綿をふんだんに使い、更に着心地が良く仕上げている。
それなのに安価で手に入るのだ。
恐ろしい。
「価格破壊が起きますな」
それからアルに言って、用意をさせて二度驚いた。
銅貨5枚で中型の麻袋一つ分の砂糖が手に入ることに驚き、衣類が小銀貨3枚で手に入ることに驚いたのだ。
「じゃあ、差額分の半額をここに置くよ。そう怒らないでよ」
「うぅー……」
まだ稚い子供だというのだから、少しは加減をしてやっても良かっただろうに、彼は生真面目なのだろう。
にしても、この砂糖は私が見たことのある、黒いものではなかった。
真っ白な細かい粒子、これは、砂糖だが恐らくはもっと上質な砂糖なのだろうと思うのだ。
「そうでちゅね、くろざとーは、ミネリャルを含んでいりゅ代わりに、かちゃまりになってしまいまちゅ。しろざとーはそれをろ過しちゅぢゅけて出来るもにょでちゅ、だからこれはこれでいいんでちゅよ」
僅か二歳でこれである。
奇妙な子供であると同時に、この領地に福をもたらす神かもしれぬと思った物だった。
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