第2話義父は良い人! 改
「妖精の園では一体何が出来るんだい?」
「妖精の国で色々と出来るのよー」
「お泊りする?」
「素材いる?」
「花の蜜を集めたの、いる?」
前世で見た事のあるリカちゃん人形のサイズくらいの小人――それが妖精であった。
彼らは一様にアルを気に入っているらしく、目の前に飛び出て来ては押しあい圧し合い貰ってくれと自分が集めた素材の押し付けをしてくるのだ。
これは一体どういう状況なのだろうと困惑していれば、創造主に敬意を表するのよーという。
つまり、このスキル所持者のアルだからこその歓待なのであった。
全ての素材を手のひらや腕の端に乗せられて、慌ててしまう。
落っことすぅうう。
小さな腕では持っているのがやっとだから、どうしたらいいんだと半べそをかいていれば、一度戻れば良くないですかと男が言った。
確かに。
アルは一度聖域から戻るべく、ステータスをタップすると、聖域より伯爵邸へと戻ってこれた。
面白いので妖精の園へリターンしたら、待ちなさい、という声が聞こえたけれど、失敗したなと思った。
「部屋で一人でやれば良かった」
試すのも3年越しということで、待ちに待ったそれだったため、思わず食事中に床に膝をつけてやってしまった。
あちゃあと失敗を悟り手のひらを額に当てるも、もはや遅い。
別に伯爵夫妻が嫌いなわけではないが、エリミヤの事を彼らは別に悪いようにしてはいないし、構わないと言ったところだ。
だが、今朝もやってきたエルヴィン子爵、彼は駄目だ。
エリミヤを邪魔っ気にしている。
それは彼女たちを引き取るべきではないという一言に如実に表れていた。
度し難い。
「しばらく戻りたくないなあ、エルヴィン子爵、帰らないかな。早く帰ってくれえ………」
どうせ自分が出ていくまでそこに陣取っているのだろうけれど、と想像がつくだけに、何とも言いようがない気分になる。
はあ、気鬱だとアルは大きなため息をついたのだった。
*****
≪ノール視点≫
「これは一体、何でしょうか?」
アルが消えた場所は、薄靄のかかったそこは、今も揺らぐようにしてその場を彩っている。
アルは一体どこにいったのだろうか?
どこに消えてしまったのだろうか?
問いかけて見ても、彼は出てくる気配もない。
薄ら寒い心地がしてくるも、ノールの周囲はそんなものはお構いなしの様子だった。
私の息子が帰ってこないんだが、なぜそのようにしていられるのかと聞きたい。
「いえ、分からないですけれど――鉱石?と蜜?のようですね。虫の羽?」
アルが先ほどテーブルに置くだけ置いてもう一度かき消えてしまったのを思い出す。
皆彼の持ち込んだ物品を見ては、ほうとため息を吐くようにしているのだ。
一体なんだというのだろうか?
これを見てくださいとずいと目の前に寄越されるそれは、不思議な色を秘めていた石ころだった。
「これが一体なんです?」
丁寧な言葉づかいも慣れたもので、問うてみるノールに、伯爵も子爵も楽しげだ。
これはどうやら見たこともない素材らしい。
その上魔素を含有している素材であることは確からしく――結論を言えば、魔道具を作るのに適した素材であるというのである。
何を何だってと思い聞き返して見れば、彼らは後で教えますよと嬉しそうだ。
おいおい、そいつはアルのモノだろうに。
何を嬉し気にしてくれているんだ、お前たちが貰えると決まったわけでも無かろうに。
等と思わず内心で突っ込んでしまうが、目の色を変えている爵位持ち二人にかなうわけもなく、心の中の声は封印するに限るのだった。
「こりゃあ、砂糖にも勝るとも劣らない蜜ですな!すばらしい!!」
小さく、そして透明な瓶よりも軽い何かで出来たそれに、小指をちょんと触れるように入れてみれば、蜜はとろりと指にまとわりついてくる。
それをひと掬い舐めてみれば極上の甘露だと涙をこぼしてしまう程だった。
砂糖よりも間違いなく美味しいと皆で競うように舐めてしまえば、当然ながら、そのような量もないものであるため、無くなってしまった。
いかんいかん、これではアルに怒られると、皆で反省をしていたが、よくよく考えてみれば、子爵にどうぞとされなければノールは食べる事は無かっただろう、だからこそやってしまったと思うと同時に、小憎らしくて堪らない。
どうせ彼のことだから、アルにはノールも食べたよ、とでも言うに違いないのだ。
その為に巻き込んだなと言いたいが、平民から貴族へと引き上げて貰って君は何を文句があるのかね?と時折虐められるため、言い返せない言葉が山となって降り積もる。
せめて、アルだけでも自由に過ごして貰いたいと思っても見るも、それは中々難しい事は分かっている。
けれど、と思うのだ――
「それよりも彼、何時になったら出てきますかね?」
「――まあ、気長に待ちましょう。どうやら入った所から出て来るようですからね」
待っていればこの場に現れますよとニコリと笑みを浮かべるエルヴィン子爵に、皆、行く末を見守るようにするよりほかなかった。
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