第7話 改
≪貴族視点≫
私の名前はエルヴィン・フェルディオという。
私は今、領主の館へ馬車に乗って向かっていた。
私一人ではあの子供は守り切れまい。
そう思ったのである。
外国の商人からもたらされるそれは、同量の金と同じかそれ以上の価格でやり取りされる。
それらの品々。
それはもはや我々の生活になくてはならないモノになってしまっている。
私にとってはそうではなくとも、と前置きを置きたいこともあるが、王や領主さま方ならばそう思う事であろうことは想像に難くない。
だが、その高級な調味料を、彼の小さき隣人は、たった数枚の銅貨でそれを用意して見せるとのたまった。
――だけではなく実際に用意して見せたのである。
あのスキルだけでも欲しい逸材だ。
平民からあれが生まれたとは思えないと、言うか、宗教上言うより無いけれど、貴族の血を引いていなければ矢張りおかしいと思う程のスキル。
何としても速やかなる保護をと、訴え出るよりほかないと思っている。
そもそも、驚きと同時に、そのスキルの汎用性の高さも驚くべきものだったのだ。
調味料だけではなく、用意された衣服を見て、その縫製能力の高さに触れて、愕然とする。
今後は彼のちいさき君に用意して貰おうか、私も、などと思う程に、それは魅力的な品だった。
馬車が止まると、傍仕えに彼のちいさき君が用意してくれた品々をもって、領主の館の中を、勝手知ったるというふうに進んでいく。
「エルヴィン様、如何なされたのですか」
領主の館の執事がやってくる成り問いかける。
常と違うエルヴィンを見てだろう。
「これらの品を、領主である、アーレンゾ卿へ見せに来た」
「はて・・・砂糖、胡椒ですかな?これはどこぞの商人と繋ぎをとでも?」
エルヴィンは笑いながら、首を横に振った。
「いいや?これは先日言っていた子供のスキルで手に入れたものだよ。この服も見て欲しい。小銀貨3枚で手に入るんだ。どう思う?」
「小銀貨、3枚?」
衣装を手に取り繁々と見つめる執事に、私は追加で砂糖の値段を投下してみた。
するとあの、いつ来ても冷静沈着な取りすました表情を崩す事の無かった領主の館の執事がだ、あのノールの衣装をぱさりと床に落としてなんですって?と聞き返してくるではないか。
「だからそのこともあって、話をしたいんだ、アーレンゾ様と」
だから時間を取ってくれと言えば、畏まりましたと荷を抱えて待合室を出て行った。
アーレンゾ公爵が膝を叩いて喜んでいる。
「――愉快だったぞ!ルーセンスのあの顔と言ったら!!御前にも見せたかったぞ」
「きっと私も見ていると思いますから大丈夫ですよ」
驚愕に彩られた執事の顔は、見たこともない表情で。
強張っていっそ助けを求めに領主の元へ向かったかに見えたほどだった。
「それで?」
大貴族に相応しい装飾を施された布張りの椅子に腰かけ、優雅に銀器を使いワインを干すアーレンゾ。
そんな彼を前にして、エルヴィンは私一人では守り切れませぬと弱音を吐くのだった。
「だろうな、あんなものを出してくるような子供では、子爵では守り切れまい」
「公爵の地位を持つ、アーレンゾ卿にお守りいただければと存じます」
アーレンゾとエルヴィンの関係は、雇用主(領主)と、文官である。
文官として日々領主の館に詰めているエルヴィンが、スキル持ちの子を見つけたと言って、二日前にその子供に会いに行ったのは記憶に新しいらしく、アーレンゾはふむと唱える。
それは覚えていると言った所か。
「砂糖を生み出す植物を出してくる、それも金貨が必要なくらいかと思えば、銀貨数枚で数本の植物を苗で呼び出して見せました。生成された砂糖に、胡椒まであり、年々値を吊り上げるばかりの諸外国と手を切るためには、必要な子供であるかと」
「成程。だがね、付き合いもあるから、数年は恐らく取引を続けるだろうね。王族の方はそう言った面子や体面を気にされる方方だからな。だから即座に打ち切ると言えないだろうよ。そうすれば妙なことになりかねないと危惧していらっしゃる方ばかりだから。だが、うちの領内だったらいいだろう。その砂糖、生産を始めようじゃないか。ここで育つって言っていたのかな?」
「ええ、ここで育つそうです。暖かい地域ですので栽培に適していると申しておりました」
「ならいいね。それはいいとして、胡椒はどうするって?」
「それは栽培に必要なガラス温室が必要であると良いまして」
「ガラス!?」
今の時代、ガラスは貴重品である。
鉱石で作られた宝飾品と変わりない値段で取引されるものである。
それを使った温室が必要などと言われれば、頭を抱えてしまう程だ。
「もしくは好き勝手出来る土地があれば、こちらでガラスに変わるものを用意し、栽培して見せようと申しておりました」
「その子幾つ?」
「ええと、まだ二つになっておらぬようですな」
そう言えば会話が成立するが、妙にこずるい考え方もするし、スキルに理解まである。
彼のちいさき君について、砂糖と胡椒に目が言っていて(衣装にもだが)妙だと思う余裕さえなかったのである。
「まあ、この砂糖の白さと、胡椒の鮮烈な香りをどんと目の前に広げられれば、誰でもおかしなことは一つ二つ抜けるってものか」
「あ・・・・は、左様で」
「いいよいいよ。兎も角だ、君には荷が重いだろうってのは分かった。それとこの衣装もいいね。まず君のところに養子縁組するのはいいんだけれど、その前に調べてみるよ」
「――矢張り、貴族の血が感じられますかと?」
「十中八九だろうよ。貴族年鑑の過去帳を調べてみるけれど、その子供の髪色と、瞳の色を教えてくれるかい?」
「青い瞳に、髪色は黒に近い青です」
「分かったよ、調べておこう」
過去に改易した無いし、平民になってしまった貴族の子で、そのような色を持つ者が居ないか調べることになったのだ。
そして分かったのが
「わたしは、貴族のひいおばあちゃまを持つ、子だったのでしゅか?」
「そうだよ」
エルヴィンも嘘だろと思ったけれど、それ以外ないのだそうだ。
伯爵家の子であったそうな。
その子が爵位を継ぐこともできず、三番目の子であったらしく、貴族の家に嫁入りできず、結果としてその子が貴族ではなくなったということらしかった。
そして今のノール、アルに繋がるというのだ。
「だから私に養子縁組するのではなく、その伯爵家に養子縁組することになるよ。元の家に戻るってことだね」
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