第5話 改

 私があっけに取られていると、父ノールが、水晶玉にぺたりと触れて、そこでスキル、鑑定があることに気が付いたようで――親子そろって召し抱えるよ、ただし子供は私の養子にすると言うのであった。


 それからあれよあれよという間に、豪商の元へ毎日通い、貴族への礼儀作法を学ぶ事が決まったりしたのであった。


 何故こんなことになったのかと思い、ノールにその時聞いてみるも、ノールも仕方ないんだよと言いたげな顔をして終り、エリミヤもそうだった。

 だからそこで敵認定をしてしまっているが、豪商――トラリに藁にも縋る思いで尋ねてみたところ――


「スキルを持っていれば平民暮らしなど無理よ無理、スキルを持っているのは貴族、総じて貴族の子飼いのモノなのよ。だから私の元で貴族に関するものを、暮らしや知識を最低限学んで行きなさい。それが君の今後を左右するものになるのだから」


 という。

 確かに貴族を知って行動できるか否かは、相当に違いが出るのだろう。

 それも私は貴族の養子になるのだという。

 であれば必要という事だろう。


 最低限所作を直されれば、彼に気に入られる事だろう、その方が君の為になると言われれば、うなだれるしかなかった。

 目の前でそのような話をされているのに、貴族の方もそうだよ、私だからそんなに怖くないはずだよと言うのだ。


「他の貴族ならなんとする事かと言われかねないが、私は弱小貴族なのでね、平民とあまり変わらない生活をしているよ。そのおかげで商人とこう言った付き合いもする」


 付き合いがあったお陰で、素晴らしい君という拾い物が出来たのだから幸運だったという事だろうとのたまられては、もう降参するより無かった。




「工作のスキルだけではなく、錬金のスキルもあるのだから、もう養子縁組するのは確定なのだけれどね、その前に君の魔力が15000もあったから、魔法も覚えて貰うことになるだろう。私の元に来たら、とても忙しくなると思うよ。覚悟しておくといい」


「あうぅう」


 覚悟して置けと言われてしまえば社畜の如く働かされるのかと思い、ひやりとする。

 そもそも私は引きこもりになりたいと、平凡な人生を歩みたいと思っていたというのに、まさかの顛末である。


 その時、脳裏にあの男の声が閃くように響いた。


『ああ、錬金を持っていれば破格の待遇を受けられますよ。まあ引きこもり何て無理でしょうけれど、頑張りましょう』


それを先にいってよ!!と思うが後の祭りである。





 貴族ではなく豪商が、支度金として三金貨程渡すといって、貴族の前から恭しく、または仰々しく運んでくるのは私の手のひらほどもあるような金貨であった。

 それをノールに渡すと、服をまず用意するようにと豪商トラリは言うのである。

 金貨三枚、それはノールの衣服を整えるために渡された金額だった。


「貴族街に出入りするためには、相応の服が必要となる。鑑定士となれば直ぐにも仕事に付けよう。だが、その平民服はいただけないね」


 貴族はそう言って、生成りの白を基調とした服にケチをつけるように言う。

 先ほどまでに上がった好感度が(あまり上がってないが)がくんと下がったのを感じた。


 中古服屋に行けと言われてそこで、ハタと気が付く。

 これは、行けるんじゃないか、と。



 私のインターネット通販は時間停止型である。

 つまり前世のあの時間で止まっているようなものだ。

 あの時間とは、私の死んだ時間らしい。


 その当時の事を思い出してみる。

 その中には当時、ハロウィンで仮装するために調べてみたことがあったが、貴族服というものがコスプレ衣装の中にはあるにはあるのである。


 だから、三金貨がどれほどの価値をここで持つか分からない、だが、自由貿易――ネット通販を使えばどうなるか、今ならば試してみることが出来ると思った。



 貴族から貰った金貨を少し使ってみてもいいか聞いてみると、貴族はなんだなんだと興味を持ったようで、領主からの預かり金だったらしく、どうするか一旦は考え――領主からの預かりって………そうだったんだ………――GOが出たため、アルは試してみることにした。



「じゆーぼーえき」


 私は1金貨をチャージすると、コスプレ衣装で検索をした。

 すると出るわ出るわ、父ノールの服はむしろこちらで衣装をあつらえるより余程安かったのである。

 こちらで貴族服をあつらえるならば、大金貨3枚からかかるが、中古服でも小金貨5枚からかかるだろうと言われた。

 だが、銀貨2枚で衣装があつらえられると聞いて、皆仰天したのである。


 既製服で貴族同様の服が手に入る、しかも安価でとなれば貴族も気になったのだろう。


「さっき言った通り、君たちのことは領主さまもご存じだよ。私は法衣貴族でね、と言っても分からないだろうけれど、文官をしているものだ。この土地の領主さまに仕えている。――その彼から預かった金額が先ほどの金額だ。スキルによっては領地そのものに帰依することになるだろうからね」


 そこまで前置いて、彼はつづけた。


「さて、というわけで、その衣服は本当に手に入るのかな?お金を吸い込むだけのスキルじゃないだろう?それは一体どんなスキルなんだい?さあ、見せてごらん」



「これは、じゆーぼーえきというスキりゅで、いしぇかいのちなものが手にはいりましゅ」


 そう伝えたところ、ほほうと貴族は顎に手を当て唸るように問いかけた。

 では、服を購入して見てくれと、実際にそれを見せてくれと言われれば、否やはなかった。


 もしかしてユニークスキルがそれだったのかと唸るように皆が言えば、ああそうか、文字化けしていたもんなあとアルは頷いて見せた。

 それはどういうモノなのか説明してほしいというと、


「それはしょのー・・・・いしぇかいのあるじかんじくのおかいもにょをできるんでしゅ」


 舌ったらずに答えるも、彼は気にした風もなく、


「というと、価格変動がない?」


「しょーなりまちゅ」


 胸を張ってアルが答えたものに貴族は満面の笑みを見せた。

 そこだけは私も気に入っているとアルは思う。


 小麦粉が高くなる前の時間だったからか、こちらで購入するよりも強力粉も薄力粉も選択できる上に、安価で購入できるのだから、言う事はないだろう。


「衣類の他は何か買える?」


「しおやこしょー、おさとーも買えまちゅ」


「塩胡椒、そして・・・・砂糖だって?」


 いっそ突っ込みたいが、良く聞き取れるなと言いたい。


 貴族はここでごくりと生唾を飲んだようで、アルは何故だか危機感を抱いた。

 何でどうしてと。

 だが砂糖は胡椒と同様に、外国からの輸入に頼っている品である。

 アルは知らないかもしれないが、そう言った事情があり、外国に大きな顔をされるため、取引を止めたがっていたのである。


「そうかい、そうかい、君は――素晴らしいね?」


「きょうしゅくでしゅ」


 何故だか寒気がしたアルであった。

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