孤高の魔王-2

「それならまずは、ウラレの葉とジンセの根を集めたいの。イネの穀果については孤高の魔王ジン=パナクス、貴方にお願いできるかしら?」

「いいよー。仰せのままに、しようじゃなぁーいか」


 変に普段通りの言葉遣いを装うシーナ。その声色は若干震えている。しかしジンはシーナを快諾すると、姿を変貌させた。

 巨大な白鯨、『孤高の魔王』の本来の姿。宙をプカプカと浮遊し、明後日の方角を目指していった。


「あ、待って! 人里は襲わないようにお願い‼」


 忘れ事を大声で叫ぶ。シーナの呼びかけに白鯨ジンは片手を振って応えた。


「さて、私たちも探しましょ。私はジンセの根を探すから、二人にはウラレの葉をお願いするわ!」


 気がつけば何も変わりないシーナの態度に一言。フィーロとアーレは声高に叫んだ。


「「どうしてそんなに平気でいられるの⁉」」


 ──すなわち、魔王の前で良くあんな態度をとれたなと。


 シーナにとって、魔王は慣れっこだ。少なくとも知り合いの魔王が二人いる。樹海の妖精であるシニカが魔王であることをシーナは話した。


「だって魔王の知り合いが二人いるし……だから、なんら変わらないのかなって」

「私、魔王と知り合ってる人、初めて見たよー」

「二人とも会ったことのある人よ?」

「「ええっ⁉」」


 アーレが軽口で返す。しかし次にシーナの口から発せられた内容で、エルフ少女二人は絶句する。


「もしかして……シニカさん?」


 恐る恐るフィーロの口元が動く。シーナは無言で頷いた。


「アーレ。変な態度、取ってなかったよね?」

「うん、大丈夫だったと思う」


 フィーロとアーレは小声で確認をするが、二人の懸念をシーナは否定する。


「シニカさんはそんな人じゃないわよ。寧ろ、今の反応があの人のご褒美になると思うわ。さあ、探しに行きましょうか」


 フィーロとアーレは首を傾げた。二人の疑問をよそにシーナは手をパチパチと叩いて、薬の材料を探しに向かう。


 ***


 エルフの里、郊外。

 木々が閑散とする中、お目当ての草木を見つけた。赤く丸まった果実をつけた背の低い木。必要なのは根っこの方だ。


「見つけたわ、ジンセの木。根を堀って少しだけ、頂いていくわね」


 植物に謝罪するかの如くかがみ込むと、シーナは持って来たスコップで周囲の土を削っていく。鼠色の根が見えてきたところで、スコップを手放した。

 己の手を使って根っこを掘り出すのである。


「やったわ。あとはこれを水で洗って、乾燥させるだけね」


 シーナは採れたての根を水場へと運び、流水で洗う。乾き易いよう細かく切り分けて、日の下にさらした。

 温かい光が根の断面を白く照らす。結局、乾燥させるのに丸一日を要した。


「フィーロたちも、見つけられたかしら」


 そんな心配がシーナの脳裏を過ぎる。



「あーもう、見つからないよ」

「意外と日陰になる所にいるかもしれないってシーナが言ってたよね」


 アーレの呟きに、フィーロが頷く。二人は現在、木の葉の影になる場所を探していた。ウラレという植物は背が低い。

 決して実をつける植物でもないため、探すには目印が少なすぎた。


「やっぱり、うん……ないよね」


 今度はフィーロがぼやく。目を皿にして辺り一面を探したが、見つからなかった。二人の顔が曇る。


「ねぇフィーロ、とりあえず川の方まで移動してみようよ」


 何の脈絡もなく、アーレが言い出した。水の近くなら生えているかもしれないと言葉を続ける。


「そうだね、移動してみようか」


 近くを流れる川の方へ二人は足を運ぶ。水の近くへ向かうほど、やはり緑が増えている。川のほとりまで来たところでアーレは両手で水を掬い上げた。


「綺麗な水……」


 この周辺の水が鮮明ならば、ウラレが生えていないということは考えにくい。アーレは思わず後ろを振り向くと、異変に気づいた。


「なにこれ! この霧は、なに? フィーロ! フィーロ、どこにいるの?」

「アーレ! そっちにいる? 霧のせいで周りが見えないよぉ」


 視界の限られる中で互いを呼び合う。やがて合流すると、川の中に何かを見つける。


「なに、あれ……!」

「もしかして、ドラゴン!?」


 霧に潜む、巨大な影の奥で黄金の瞳が輝く。


「──ドラゴンがいるぞぉぉぉぉぉ!!」

「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

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