【超短編】疑惑のケーキ
茄子色ミヤビ
【超短編】疑惑のケーキ
「ちょっ!ちょっと待て!気持ちを整理させてくれ!」
私は緊張でカラカラになってしまった口に一口コーヒーを流し込み、静かに彼の言葉を待つ。
「…その先を聞いたら俺とお前は…その幼馴染じゃいられなくなるっていうか…」
そう返しても仕方ない。なにせ急に告白をしようとしたのだから。
正直このタイミングで告白するとは私も思わなかった。
もっと…こう誰も居なくなった教室とか、学校帰りにある公園でとかもあっただろうに。
ふたりとも大事な受験シーズンに、一体なにをしているんだ?という気持ちは無いわけじゃなかったが、もうこうなったら後には引けないってもんだろう?
「じゃあちょっと話変えるね、私のことはどう思ってんの?」
「ど、どうって?」
「一緒に居て楽しい?」
一週間前から彼とはこのカフェに来ていたが、二人ともが勉強に身が入っていないのは、誰が見てもバレバレだっただろう。お互いがお互いをチラチラとみていたのだから。
「そりゃあお前…10年以上一緒なんだぜ?もう楽しいっていうか…ラクっていうか…」
そんなことをボソボソと喋る彼の顔なんてとても見られない。「ラクっていうか」なんだ?その続きを早く言うんだ。
「その…ラク…だよ。すごく」
なんだよそれ!と、この会話を盗み聞きしているだろう周りの人たちもずっこけてしまうほどの意気地のなさだ。しかし、なんと可愛らしく素敵で素直で不器用なのだろうか。
「いや、嬉しいんだけど。私のことは好きなの?嫌いなの?はっきりしてよ」
彼がこんなに一生懸命に言葉を紡ごうとしているのに、なぜこんな言い方をしてしまうんだろうか……しかし私は彼の返事を待つしかない。またコーヒーを一口。
そして、遂に彼は息をひとつ吐いてから口を開いた。
「あのさ、ちょっと真剣に聞いてくれる?」
私はコーヒーをテーブルに戻し姿勢を正す。ごく自然に、緊張がバレないように。
「な、なによ?」
そうか、と私は思った。
幼馴染になってどのくらい経つんだろうか?あんなに問い詰めるような聞き方をしてしまったのは、彼に対する甘えから出てきた態度だったのだ。だからこそ、真剣に切り返されるとこのように緊張してしまうのだ。
「俺たち、高校までずっと一緒だよな」
「それがなに?」
「どうしてか分かる?」
「どうしてって学区一緒だったからでしょ。高校も適当に決めたって」
「違う、俺が決めたんだ。中3の時に引っ越しが決まったけど、ゴネて辞めてもらった」
「は?」
「あとココの高校も、お前が行くって知って頑張った」
「うそ?」
「ホントに。まぁ今じゃ俺のほうが頭良いけどな」
「…うっさい!!」
照れ隠しで蹴られた足は机の支柱にぶつかりコーヒーが倒れ、私と彼らとのテーブルの間にボタボタと零れた。
「す、すみません!かかりましたか?!」
「俺ティッ、ティッシュあります!!」
心配しながら二人は私を覗き込んでくる。
実に良い子たちじゃないか。
私が「大丈夫大丈夫」と手を振ったとき、ちょうど取引先から呼び出し連絡が入ったので店を出る。彼か彼女か…最終的にどちらから告白したのかは分からないが、返事は決まっているだろう。
(妻と私にもあんな時代があったなぁ…)
そして私はケーキを買って帰ることに決めた。たまにはあいつを労ってやらなきゃな。滅多にそんなことをしないから、さぞかし喜ぶだろう。
「…なんかやましいことでもあるの?」
そんなことを妻から聞かれるなんて、この時は想像もしていなかったが。
【超短編】疑惑のケーキ 茄子色ミヤビ @aosun
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