第2話
古市トシキ。
そう名乗って名刺を渡してきた彼は、私の前に腰掛けた。
「あーえっと、超久しぶりのお客さんだ。どうすりゃいいんだっけか」
頭をぽりぽりかいて、考えるような仕草をしている。
なんだかとても眠たそうにしている。
女の子は、隣でコンビニのおにぎりを食べていた。
「えっと、ここは株式会社文化祭っていう会社で、依頼した文化祭のお手伝いをしてくれるっていうので……間違いないですかね?」
「おーうん合ってるよ」
「……表的にはそういうことにしていて、裏で別の仕事しているとかじゃないんですか?」
「うん、してるなぁ」
……これまずいんじゃない?
「会社の収入がないから、ほぼ毎日コンビニで夜勤してるよ」
「あ……そっち。コンビニ、なんですね」
だから目にクマができてるのかな。
「ああ。夜勤だからお給料も高いし、コンビニで出る賞味期限切れのパンとかおにぎり、お弁当を貰ってるんだよ。これが生活の食費を浮かせるのさ」
そう言って立ち上がる。
「ちょっと待っててね。どうすればいいかマニュアルがあると思うからー」
「ちょっと待って下さい。ええと、古市さんはこの会社の社長なんですよね?」
「うん、そうだよ」
「……なんで何するか分かんないんですか?」
「そりゃぁ……」
少し古市さんは目を逸らす。
何か変なこと聞いただろうか?
「実際問題、コンビニ夜勤が本職みたいになってるからかな」
「駄目じゃん……」
古市さんは気にすることもなく、棚の中を漁り始める。
となると、この人は。
古市トシキ。
本業、コンビニ夜勤アルバイト。
副業、株式会社文化祭の社長、となるのだろうか。
何かファイルのようなものを持ってきて、前に座る。
「まあ、本業は社長のつもりなんだけどね。それでえーっと、一体どういった学園祭のお手伝いをしてほしいんですかね?」
ファイルの中を見ながら古市さんは言う。
マニュアルみたいなのが入っているのだろうか。
「ええとまあ、夏明けに文化祭があるんですけど……私が文化祭リーダーになったんで、何か特別な思い出になるような文化祭をやりたいなぁ……って……」
「へぇ……」
「それでどうしようって考えてネットで調べてたら丁度、公式サイトが出てきて……」
「……へぇ……」
「学校から近いし、何か打開策になるかもしれないと思って来てみたんですけど……」
「……スウ…スウ」
「……寝てます?」
「寝てません」
「寝てますよね?」
「寝てません」
「私の来た理由言ってください」
「えーっとそうだな……どう言葉にしたものか……」
「何悩んでるんですか、簡単ですよ!特別な文化祭にしたいんです!」
「そう、それ」
……この人は駄目かもしれない。
いや、夜勤明けで眠たいから駄目っていう理由があって、駄目って決めつけるのは良くないけど……。
「とりあえず分かりました。ちょっとどうしたらいいか調べたり考えたりするんで、また明日とか来てもらってもいいですか?」
「あーえーっと」
正直このまま帰って来ないっていうのもありだなって考えている自分がいる。
「明日で、大丈夫なんですか?だいぶ疲れてそうですけど……」
「まあ、今日は休みだし。ナツにご飯を食べさせて寝てから、やらせてもらいますよ」
「そう、ですか……」
うーん、どうしたらいいんだろう……。
「お姉ちゃん。お父さんにおしごとくれるの?」
女の子、ナツと呼ばれる子が上目遣いに聞いてくる。
「う、あー、えっと……」
可愛さで一瞬頷きそうだった。
だが、しっかり確認しておかなければならないことがある。
「……料金ってどうなるんですか?」
私は重要な事を聞いた。
ひょっとするとかなりの値段がするかもしれない。
だってそうだ、文化祭の手伝いだけで生計を立てるとなるのなら、かなりの収入がないと無理だろう。
古市さんは答える。
「あーえーっとえーっと、ここだ。収入の見込めない出し物に貰ってる予算を貰う。収入の見込める出し物はその30%。クラス以上の学校からの依頼は……君って学校の依頼の代表で来てるんだっけ?」
「いえ、クラスです」
「あーじゃあ、予算を貰うか収入の30%かな」
「……安くないですか?」
「安いね。なんなら収入のないクラスに関してはある程度素材の提供とかするから赤字だね」
そりゃあ、会社の運営がうまく行かないわけだろう。
赤字にしかならない会社じゃないか。
「なんで、古市さんはこの会社の運営をやってるんですか?コンビニの夜勤までして。運営見直すなり、普通に就職した方がよくないですか?」
「それは……」
「お母さんだって」
ナツちゃんが答える。
お母さん?
「お母さんの為に、お父さんはやってるの」
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