第1話
少し電車に揺られて歩いていく。
駅を出ると、大きなホテルが駅の前に立っており、その先を商店街が広がっていた。
開いている店は少なく、シャッターと時々空いてる店の前を通り過ぎながら、広い交差点に出る。
商店街の終わりにあったのは、広い交差点だった。
歩車分離式で、車が動いてる時に人は歩かないし、人が歩いてる時には車は動かない。
歩行者の信号が青になる。
徒歩、自転車の人は、皆同時に横断歩道を踏んだ。
それから私が歩いて、たどり着いたビルはボロついたビルだった。
一階には大衆向けみたいなラーメン屋。
名前は「ラーメンショー」と言うらしい。
そこから、いい匂いがしている。
そしてそのビルの2階の窓枠に「株式会社文化祭」の文字を見つけた。
外から見るに、明かりはついていなくて、まだ夕方なのにやってないのかと不安になる。
……そうだ。
「……いらっしゃい」
「あ、すいませーん!お尋ねしたいんですけど……」
私はラーメン屋に入って声をかけた。
内装は綺麗なラーメン屋で、主にカウンター席。
そして、二人が向かい合って食べられるであろうほどの小さいテーブルが二つほどある。
厨房には、店主のおじさんが一人いている、といった感じだ。
ちょっと迷惑かもしれないけど……。
私は恐る恐る聞いてみる。
「あの、上に株式会社文化祭ってあると思うんですけど、開いてるんですか?」
「……営業時間に詳しくはないが、夜じゃない限り空いてはいると思う。……アンタ、ひょっとして上の会社に依頼するのか?」
「はい!ちょっと話を聞いてみよっかなって」
すると店主は何か考えるように黙り込んだかと思うと、口を開く。
「……そうかい。外に階段があるから、そこを上がると良い。インターホンを鳴らしても出ない可能性があるから、……そうだな、時間的にもちょっと玄関で待っておくといい」
「……?わかり……ました?」
玄関で待つ?
家にいないからもうすぐ帰ってくるとかそういうのだろうか?
「もう一つ伺ってもいいですか?」
「……なんだい?」
「株式会社文化祭って、文化祭のお手伝いをしてくれる会社……っていうので合ってるんですよね?」
「……ああ、そうだ」
なるほど、ひとまず文化祭お手伝いを語る変な団体でないのは間違いないらしい。
「とりあえず、ありがとうございました!」
私は「ラーメンショー」から出て扉を閉めて、階段を見つける。
灰色のコンクリートの階段を登って、2階の扉を見つける。
「株式会社文化祭」と書かれた文字が扉にかかっており、ここに間違いないのだろう。
……部屋は暗いけど、一応、ね?
ピンポーン。
「……」
出ない。
ということは、下のラーメン屋の店主のおじさんが言うように待つのがいいのかもしれない。
しかし……。
「うーん……」
株式会社文化祭の前で立ちながら、上から道の方を覗く。
車や自転車が過ぎていく。
まばらに歩行者もいて、歩いていた。
一人の赤いランドセルを背負った子が歩いてきて、チラリとこちらを見たかと思うと、勢いよく走り出す。
やっぱり私は早まったのだろうか。
店主さんの言葉っていうことは間違いないだろうし、きっとここは間違いなく文化祭のお手伝いをしてくれる場所に間違いないのだろう。
特別な文化祭にしたいという気持ちが先走りしたかもしれない。
せめて、サヤぐらいは連れてくるのが正解だったかもしれない。
「お姉ちゃん、ここで何してるの?」
すると、階段の方から女の子の声がする。
振り返ると、さっき上から覗いた時に走っていた赤いランドセルが特徴の女の子だ。
女の子は小学校一年か二年ぐらいの子だろうか?
「……えーっと私、ここに用があるんだ」
扉の方を指差して、私は女の子に説明する。
「……ここ、私の家だよ?」
「え、そうなの⁈」
この女の子の家?
一体どういうことだろう?
「……ひょっとしてお姉ちゃん、おきゃくさん⁈」
女の子はハッとして、目を輝かせるように言った。
「おきゃくさんだ!おきゃくさんだよ!お父さーん!」
彼女はランドセルから、紐のついた鍵を取り出して、株式会社文化祭の鍵を開ける。
やがて、暗い部屋の中を女の子は駆けて入って行った。
私はゆっくりと中を覗く。
窓から僅かに夕焼けが漏れて、簡素な部屋の姿を現す。
部屋には所々におもちゃが転がっていて、部屋の隅にはゴミ袋が数個溜まっていた。
「お邪魔しまーす……」
扉を閉めて、中に入ってみる。
そろりと進んでいくと女の子の声が聞こえる。
「お父さん!おきゃくさん!おきゃくさん!」
部屋の奥でお父さんを起こしているらしい。
よくみると、事務所のような作りと、家のような作りが同時に存在している。
つまるところ、ここは女の子とお父さんの会社兼家ということになっているのだろうか。
どうしようかと悩む。
部屋の奥から声が聞こえる。
『ナツーお父さん、まだ夜勤明けで眠いしまた夜勤なんだよーもう少し寝かせとくれよー』
『もうお父さん!おきゃくさんだよ!私初めて見た!』
『こんな嘘くさいところに客なんてくるわけないだろー……』
『いるもん!早く起きて起きて!よーしこうなったら……!』
『あーやめろ分かった分かった!分かったからくすぐるのはやめろおおぉぉぉお!』
ドタドタと激しい音が聞こえ始めて、止む。
少し楽しそう……なのかな?そんな声が聞こえた。
『はいはい、お客さんね。えっと名刺名刺……』
『お父さん!おきゃくさん外で待ってるから早くしてー!』
『はいはい、先行ってて』
すると、さっきの女の子が扉から出てくる。
「おきゃくさん。お父さんもうすぐで出てくるからそこに座って待ってて!」
「あ、うん。ありがとうね」
女の子に案内されるまま、私は椅子に座る。
女の子はにこにこしている。
可愛い。
「……すいませーん、お待たせしましたー」
やがて、扉からおっさんが出てくる。
だらけた格好で、髭が生えており、眼の下にはクマだ。
このおっさんに似合う言場が似合う言葉がある。
そう……胡散臭いだ。
「すいませんお客さん。随分と久しぶりですので。自分、株式会社文化祭の社長を勤めています、古市トシキと申します。以後、お見知り置きを」
名刺が渡される。
『株式会社文化祭代表取締役 古市トシキ』そう書かれていた。
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