第十七話 サクラさん
「サクラって……どうして私の名前知っているの?」
サクラさんがびっくりして俺を見つめる。大きな茶色い瞳に吸い込まれそうになる。
怖くなり、思わず目を逸らした。
「あぁいえ……こいつに、聞いたんですよ」
俺はとっさにユキヤを指さした。ユキヤは指をさされたせいか不服そうな顔をしている。
「……どうも、サクラさん」
ユキヤはサクラさんにぺこりと頭を下げた。
「ユキヤくん、こんなところで奇遇ね。それに、タイチくんね……。あなたたちは
友達なのかしら?」
サクラさんがのんびりした口調でそう言った。
「友達じゃないですよ!」
「友達ではないけど、目的が一緒だから一緒にいる、という感じですね」
俺はユキヤと友達であるということを否定した。しかし、ユキヤはあっさりと何故自分が俺と一緒にいるのか、理由を説明した。
「友達じゃないのに、随分と息が合うわね。それにユキヤくんの言う目的って、元の世界に帰ること?」
サクラさんはそう不敵に言った。……う、なんというか痛いところを突かれた気がする。それに、元の世界に帰ることを、なんでサクラさんが知っているのか。
俺はこわばった。
サクラさんって、俺達の動向を知っているのか。でも、思い返してみると
ユキヤがサクラさんのことを話してくれたことあるな。
その話によると、サクラさんは俺たちの会話を盗み聞き(顔に似合わずえげつないことをするなぁ)俺たちが元の世界からこの世界に来た、という情報を聞いて
自分もそうだと言ったのだという。
「……はい。あなたの言う通り、元の世界に帰ることが目的です」
ユキヤが、目を伏せながらそう言った。きっと、全てを見透かしているような目をしているサクラさんを警戒しているのだろう。
「ふふっ、そんなに気まずそうにしなくてもいいのに。私も元の世界に帰りたいから
一緒に協力しましょう」
サクラさんは妖しい笑みを浮かべながら、そう俺たち二人に言った。
サクラさんも元の世界に帰りたいって思ってるのか。
それなら利害は一致してるけど、こないだの盗み聞きの件といい、どうにもサクラさんは油断ならない人だ、という気がする。
「もしかして、私のこと警戒してる? ふふっ、そんなに怯えなくてもいいのに。
何も悪いようにはしないわよ」
サクラさんが、俺の意図を察したかのようにそう言った。と同時に、俺は心臓が高鳴る。何もかも、見透かされている……。まるで、さとり妖怪だ。
「ねぇ、そんなに汗かいてどうしたの? こんなに挙動不審なの、いつものあんただったら考えられないな」
ユキヤの声がして、ハッと我に返る。そうだ、ユキヤはいつも冷静だ。ユキヤに、こんな醜態をさらしたくない。……といっても、もうさらしてしまっているのだから時すでに遅し。
「あの、サクラさん。提案なんですけど、元の世界に帰る方法を、一緒に考えて欲しいんですけど……。だめですか……?」
ユキヤがおそるおそるサクラさんに聞いた。やっぱり、ユキヤはまだサクラさんのことが苦手らしい。まぁ俺もサクラさんのことをまだあまり知らないから、今のところつかみどころのない人って印象しかないけど。
「あら、全然いいわよ。というか、私もユキヤくんに元の世界に帰る方法を、
相談したいと思っていたのよね」
おぉ、これは好都合だ。サクラさんも、やはり元の世界に帰りたがっているのか。
「じゃあ、ちょうど良かったです。サクラさんも、元の世界に帰りたかったんですね」
ユキヤが、安堵したようにそう言った。少し顔に明るさが見える。無表情サイボーグみたいなヤツだけど、時折こうやって良い表情を見せることがある。
「ええ。じゃあ、ユキヤくんも、タイチくんも、これからよろしくね」
サクラさんが、そう微笑んで手を差し出してきた。こうやって手を差し出す仕草とか、ものすごく上品だ。それに、ものすごく良い匂いもする気がする。いや、これは俺の思い込みかもしれない。
「はい、よろしくお願いします……」
俺はサクラさんから視線を逸らしながら手を差し出す。なんというか、すごい照れるな。
「よろしくお願いします、サクラさん……」
ユキヤも、サクラさんから目線を逸らしている。照れているのか、まだ苦手なのか
どっちなのか。
「ふふふ、二人とも初心で可愛いわね。こんなに可愛い後輩がいて、私は幸せね〜」
サクラさんが、そう言った瞬間。
「お姉ちゃん! なんでタイチさんと一緒にいるの⁉︎」
廊下から声がした。反射的に廊下を振り向くと、そこにはハルさんがいた。
おぉ、ハルさんにも会えた! これは探す手間が省けた、な……?
ん? ちょっと待てよ? 今、ハルさんなんて言った?
確か『お姉ちゃん』って言った気がするが……。
俺は、目の前のサクラさんを見つめる。もしかして、サクラさんとハルさんって……
……姉妹だったのか。
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